• 2023.03.10
  • 一般企業法務

取締役会の招集手続・招集通知

小松﨑 柊

執筆者情報

小松﨑 柊Shu Komatsuzaki

栗林総合法律事務所のアソシエイト弁護士。
国際取引に関する契約書の作成・リーガルチェック、クロスボーダーM&A、
国際紛争解決、国内外での訴訟、一般企業法務などの業務を取り扱っている。

取締役会の招集権者

会社法においては、取締役会は、各取締役が招集すると定められていますので(会社法366条1項本文)、どの取締役も取締役会を招集する権限があるのが原則です。

例えば、ある会社に代表取締役AのほかにB、C、Dという取締役がいた場合、Aだけでなく、B、C、Dの全員が取締役会の招集をすることができます(例1)

取締役会の招集権者の決定

原則として各取締役に取締役会の招集権がありますが、定款又は取締役会規則等で取締役会を招集する取締役をだれにするかを定めた場合は、その取締役が招集することになります(会社法366条1項但書)。通常は代表取締役が招集権者と定められていることが多いです。

この場合、上記の例1では代表取締役Aのみが招集権者となり、例外の場合を除き、B、C、Dによって取締役会が招集されたとしても、取締役会による決議は無効となります。

招集権者以外の取締役による招集請求

定款などで取締役会を招集する取締役が定められている場合であっても、他の取締役は、招集権者に対して取締役会の目的である事項を示して取締役会の招集を請求することができます(会社法366条2項)。会社法は当該請求の方法については、何ら定めを置いていないため、電話やメール等で請求することも可能となっています(もっとも紛争が予想される場合等には記録を残すという観点から、内容証明等の書面による請求が望ましいでしょう)。

他の取締役から取締役会の招集請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集通知が発せられない場合は、その請求をした取締役は、自ら取締役会を招集することができます(同法366条3項)。

取締役会の招集権者を代表や社長と記載し代表取締役に限定している例も多いですが、そのような場合であっても他の取締役の取締役会の招集権限を完全に無くすことはできないということです。

この場合、上記の例1でAが招集権者と定められていたとしても、B、C、Dは取締役会の招集請求をすることができ、請求をしても取締役会が招集されない場合に自ら取締役会を招集をすることができます。

招集権者以外の取締役によって招集された取締役会

招集権者以外の取締役によって招集された取締役会では、招集請求の際に目的として示された事項について審議がされることとなります。但し、当該取締役会において、取締役から他の議題についての提案があり、その提案を議題にすることに出席取締役の過半数が賛成した場合には、当該議案について審議することも可能となります。

株主による取締役会の招集

監査役設置会社や委員会等設置会社でない取締役会設置会社の株主は、取締役が取締役会設置会社の目的の範囲外の行為、その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがあると認めるときは、取締役会の招集を請求することができます(会社法367条1項)。

株主から取締役会の招集請求があったにもかかわらず、請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集通知が発せられない場合は、その請求をした株主は、自ら取締役会を招集することができます(同法367条3項)。この場合、その株主は当該請求に基づき開催された取締役会や、自ら招集した取締役会に出席して意見を述べることができます(同法367条4項)。但し株主は取締役ではないので取締役会における投票権はありません。

監査役による取締役会の招集

監査役設置会社においては、監査役は、取締役が不正な行為をし、または行為をするおそれがある場合や法令、定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実などがあると認めるときには、取締役会にその旨を遅滞なく報告する義務があります(会社法382条)。

そのような監査役の業務のため、監査役も取締役会の招集を請求することができます(同法383条2項)。

また、監査役から取締役会の招集請求があったにもかかわらず、その請求の日から5日以内に、請求があった日から2週間以内の日程で取締役会を開催する旨の招集が行われない場合には、請求を行った監査役が自ら取締役会の招集を行うことができます(同3項)。

但し監査役は取締役ではないので、取締役会を招集した場合であっても取締役会における投票権はありません。

取締役会の招集通知

取締役会を招集するものは、取締役会の日の1週間前(これを下回る期間を定款で定めた場合は、その期間(3日程度に短縮されることが一般的です))までに、会社の各取締役(監査役設置会社においては各監査役にも)に対して招集通知を発する必要があります(会社法368条1項)。

招集通知には開催日時と場所を記載する必要があります。招集通知の方法は書面に限定されていませんので電話やメール、口頭でも行うことができますが、記録を残すという観点から書面若しくはメール等で行うのが適切と考えられます。

なお名目は取締役ですが実際には業務を行っていない取締役に対しても、取締役である以上招集通知を送ることは必要なので注意が必要です。また、議題について特別利害関係がある取締役に対しても、通知は必要となります。後述のように取締役会では、必要に応じて様々な事項について決議することが求められており、特定の議題について利害関係を持つ取締役でも、その他の議題については議決権を有するからです。予定されている議題の全てに利害関係がある取締役でも、通知よりも後に予定される議題が取締役会で新たに動議がされた場合には、議決権を有するため、通知が必要となります。

招集通知の記載事項

取締役会の招集通知の記載事項について会社法は規定を置いていません。しかし、取締役会を開催する旨の通知ですから、少なくとも開催する取締役会の場所と時間は記載することが必要となります。

また、必須ではありませんが、充実した締役会のためにはあらかじめ取締役会の議題や目的等を記載することが望ましいと考えられます。

さらに、大規模な会社である場合には各取締役が目的事項について十分に把握していないことも多いと考えられます。そのため、招集通知に議題の説明資料等を添付し事前に各取締役に目を通してもらうことも有効であると思われます。

なお取締役会はテレビ会議システム等を使用したオンライン開催も可能となりますが、その場合はオンラインで参加する方法を記載する必要があります(zoom等使用するサービスの名前、会議にアクセスできるURL、パスワード等)。

招集通知の記載例

取締役会の招集通知への議題の記載

上述のように取締役会の招集通知には、議題を記載する必要はありません。また、仮に議題を記載しても、その議題と異なる議題について決議することも可能です(名古屋高判平成12年1月19日)。

これは取締役には会社の運営や管理についての責任者という立場に基づき、会社の様々な事項について必要に応じて取締役会で決議することが求められているからです。

つまり、事前に何ら通知をすることなく取締役会の場で突然代表取締役の選解職の動議を行い、代表取締役を解職することもできます(解職された代表取締役は通常の取締役になります)。

取締役会の招集手続の省略

招集対象の取締役全員(監査役設置会社においては監査役も)が出席した場合や全員から同意があった場合は、招集手続をすることなく取締役会を開催することができます(会社法368条2項)。特に定款の定めは必要ありません。また、同意の方法についても、会社法に定めがないため、電話やメール、口頭でも行うことができ、黙示の同意でも良いとされていますが、将来紛争になった場合に備え、同意した旨を書面に残しておくが適切と考えられます。また、取締役会の招集手続の省略した場合、招集手続なしに取締役会が開催されたことを取締役会議事録に記載しておく必要があります。

定例取締役会

会社によっては取締役会規程等で、「毎月第1月曜日の午前9時から会議室で取締役会を行う」等の定例取締役会について定められている場合があります。この場合には上記の招集通知の省略について各取締役の同意がある場合として、招集通知は不要とされています(会社法368条2項)。

招集通知に漏れがあった場合の取締役会決議の効力

招集されるはずの一部の取締役又は監査役への招集通知が欠けた場合に、取締役会決議がなされたとき、その決議は原則として無効となると解されています。ただし判例は例外として、その取締役が出席してもなお、決議の結果に影響がないと認められるような特段の事情があるときは、招集通知が欠けたことは決議の効力に影響がないものとして決議は有効になるとしています(最判昭和44年12月2日)。

なお、決議の結果に影響がないというのは単にその取締役が票を投じたとしても決議の結果が変わらないというだけでは足りないと解されています。これは取締役が取締役会に出席し意見を述べることで、他の取締役の意見が変わることが想定できるためであると考えられています。

したがって、少数派の株主にあえて招集通知を送らずに取締役会を行い、多数派の取締役のみで決議をしたとしても決議が有効とならないおそれがあります。

特段の事情についての例

特段の事情が認められた例としては、①取締役会に出席せずに会社の運営を他の取締役に一任していた取締役に対する招集通知を欠いた場合(東京高判昭和48年7月6日)、②既に辞表を提出して取締役としての職務をしていなかった取締役に対して通知を欠いた場合(東京高判昭和 49年9月30日)、③ 通知を受けなかった取締役が決議の趣旨と同一のことを常々発言していた場合、④ 少数派取締役に対して通知を欠いたが、その取締役は、会社において影響力をさほど有しておらず、その取締役が言動を共にしていた少数派の中心人物は取締役会に出席しており、その取締役会の決議は圧倒的多数をもって行われた場合 (高松地判昭和 55年4月24日)等があります。(会社法判例百選第3判65参照)

その他手続上の瑕疵があった場合の取締役会決議の効力

判例は、招集通知が欠けた場合以外の瑕疵があった場合においても、原則として取締役会決議は無効となりますが、その瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められる場合は、決議を有効とする立場であると考えられます。(最判平成28年1月22日)。招集通知が欠けた場合以外の取締役会の瑕疵としては、例えば特別利害関係人が決議に参加している場合があります。

取締役会決議が無効となった場合

上記9で述べたように、取締役会決議の手続や内容に瑕疵があった場合、株主総会とは違い法律上特別の規程がないため、原則として、その取締役会決議は無効となります。決議が無効である場合には、いつでも、誰でも、どのような方法によっても決議の無効を主張することができます。会社紛争の実務においても、例えば①取締役会決議無効確認の訴えを提起する、②ある取引の効力を否定する場合に、その取引を承認した取締役会が無効である旨主張する、③会社の代表取締役の地位を争う場合に、当該代表取締役を選任した取締役会が無効である旨主張する等、様々な場面での主張が考えられます。

取締役会無効確認の訴え

上記のように、取締役会に瑕疵があった場合について、会社法は特に定めを置いていません。しかし、取締役会の決議は、株主総会と同様に会社の意思決定機関であるため、株式会社の意思決定として、効力が認められない事情があることを訴訟で争う方法が必要と考えられており、裁判実務上もこれが認められています。これを「取締役会決議無効確認の訴え」といいます。取締役会の決議が無効と評価される場合は、株主総会決議の取消し事由及び無効・不存在事由が認められる場合とほぼ同一であると考えられており、①取締役会決議が存在しない場合、②取締役会の招集手続に法令や定款違反がある場合、③取締役会の決議の方法に法令や定款違反がある場合、④取締役会の決議の内容に法令や定款違反がある場合となります。

取締役会の効力を争う際の有効な証拠としては、当該取締役会の録音や、取締役会の議事録、招集通知等が挙げられます。

当事務所が行うことのできるサービス

招集通知の作成のサポート

当事務所においては、招集通知の作成について、法律上記載が必要な事項や便宜上記載が望ましい事項について、各会社の個別的な事情を踏まえながら助言を行い、また招集通知の具体的な作成方法についてもアドバイスをすることによって、招集通知の作成をすることをサポートいたします。

取締役会を招集・運営する際の法的助言

取締役会が適切に招集され開催されることは会社の健全な運営のため必要不可欠です。当事務所では会社法に基づき、法令に従った取締役会の招集と、取締役会の円滑な進行が図れるよう経営者の皆様をサポートいたします。

取締役会決議が無効と考えられる場合の対処

当事務所では取締役会決議に瑕疵がある場合に、その瑕疵の具体的内容を検討し、取締役会の効力を争う際のサポートを行うことができます。また、具体的な紛争に応じて、どのような形で取締役会の効力を争うのが適切かを検討し、最適なアドバイスをいたします。

他方で、取締役会決議に瑕疵があった場合に、会社として、その瑕疵に対処したいという際のサポートすることも可能です。

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