• 2023.06.06
  • 一般企業法務

取締役会の決議事項及び取締役会決議を経ていない取引の効力

小松﨑 柊

執筆者情報

小松﨑 柊Shu Komatsuzaki

栗林総合法律事務所のアソシエイト弁護士。
国際取引に関する契約書の作成・リーガルチェック、クロスボーダーM&A、
国際紛争解決、国内外での訴訟、一般企業法務などの業務を取り扱っている。

会社法上、取締役会の決議が必要と定められている事項

会社法362条1項において、取締役会が行う職務として、①業務執行の決定、②取締役の職務執行の監督、③代表取締役の選定および解職が定められています。このうち、①業務執行の決定については、会社法362条4項において、1号ないし7号の事項と「その他の重要な業務執行」について、代表取締役や各取締役に委任することはできず、取締役会で決議しなければならないと定められています。また、会社法362条4項の他にも法律上、取締役会や株主総会の決議が要求される行為があります。

重要な財産の処分および譲受け(会社法362条4項1号)

会社の重要な財産の処分等については、取締役会の決議が必要とされています。ある財産が会社にとって、重要な財産か否かについて判例は、「当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である」と判示しています。(最判平成6年1月20日)
また、重要性の判断に関する別の基準として、会社の総資産額の1%に相当する額を基準とする考え方もあります。

多額の借財(会社法362条4項2号)

会社が多額の借財を行う場合も、取締役会の決議が必要とされています。会社にとって、ある借財が多額の借財に該当するか否かについては、重要な財産に該当するか否かと同様の考え方で判断されています。

支配人その他の重要な使用人の選任および解任(会社法362条4項3号)

支配人とは、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する者をいいます(会社法11条1項)。支配人であるか否かは名称ではなく権限に着目して判断されますので、実際には支配人という名称ではなく、店長・マネージャー等の様々な名称が使用されています。また、重要な使用人とは、例えば、会社における、本部長や役員に準じる理事、監事等のことを指します。こちらも名称ではなく、権限によって重要か否かが判断されるので、肩書がただの「部長」であっても会社内における権限が大きければ重要な使用人と判断されることとなります。

支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止(4号)

会社にとって何が重要な組織に該当するかは、会社の規模や目的事項によって異なってきます。一般的には、会社の本社の事業部や、会社の主力製品の部品を製造する工場等が重要な組織と考えられています。

募集社債に関する重要な事項(5号)

会社の社債を発行する際には、発行に関する重要な事項について取締役会の決議が必要となります。発行に関する重要な事項とは、社債の種類、発行総額、利率、最低払込金額、払込期日、償還方法、償還期限、等となります。

内部統制システムの整備に関する事項(6号)

内部統制システムとは、会社法において「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」とされており、他方で金融商品取引法では、第24条の4の4第1項にて「当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なもの」とされています。簡単に言えば、会社の内部で違法な行為、定款違反行為、情報漏洩、不適切な会計処理等を防ぐための制度であり、この制度を設けるには取締役会の決議が必要となります。なお、大会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社のいずれかに該当する会社には内部統制システムを構築する義務があるので注意が必要です。

定款の定めに基づく役員等の責任免除(7号)

取締役の会社に対する責任は、定款の定めに基づき、取締役会の決議によって一部免除することができます。なお、取締役の責任の一部免除の要件としては、取締役が善意無過失であること、取締役が2名以上かつ監査役設置会社であること、監査役の同意を得ること、株主に事後的に通知を行うことがあります。

その他の重要な業務執行の決定(柱書)

ある業務が会社にとって、重要な業務執行の決定に該当するか否かについては、上記の各事項と同じくらいの重要性があるか否かによって判断されることとなります。例えば、ある年度の予算の決定や変更、事業計画の決定等が該当することになります。

会社法362条4項以外で、取締役会の決議が必要と定められている事項

会社法上、362条4項以外で、取締役会の決定が必要であると定められている行為としては、①自己株式の取得株数及び価格等の決定(会社法157条)、②株式分割(会社法183条2項)、③株式無償割当てに関する事項の決定(ただし定款に別段の定めがある場合は、この限りでない)(会社法186条)、④公開会社における新株発行の募集事項の決定(会社法201・202条)、⑤端数の株式の買取りに関する事項(会社法234条5項)、⑥公開会社における新株予約権の募集事項の決定(会社法238・240・241条)、⑦株主総会の招集の決定(会社法298条4項)、⑧取締役による競業取引および利益相反取引の承認(会社法356、365条1項)、⑨計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書の承認(会社法436条3項)があります。

代表権の内部的制限

会社によっては、定款や取締役会規則によって代表取締役や取締役の権限を制限し、特定の事項について取締役会の決議を要すると定めている場合があります。例えば、会社が債務の保証を行う場合は常に取締役会の承認を要する等の定めが設けられていることがあります。

取締役会の決議を経ずに行われた行為の効力

取締役会の決議を経ずに行われた行為は、会社内においては無効となりますが、他社との取引等の対外的行為については、その有効性が争われることが少なくありません。なお、上記1の(1)ないし(8)の中で、対外的行為に該当するのは、重要な財産の処分および譲受け、多額の借財、募集社債に関する重要な事項、その他の重要な業務執行の決定です。また、取締役会規則で対外的行為を行う権限が制限された場合や、会社法362条4項以外で、取締役会の決議が必要な事項についても対外的行為であれば同様の議論となります。したがって、行為の効力が問題となるのは、これらの事項ということになります。

会社の内部的制限に違反する場合

代表取締役は会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為について代表権を有しています(会社法349条4項)。もっとも、会社は定款や取締役会規定等に、一定の行為について取締役会の決定を経ることなく行うことはできない旨の定めを置き、代表取締役の権限に制限をかけることができます。このように代表取締役の権限が制限されているにもかかわらず、代表取締役等が取締役会の決議を経ずに、一定の対外的行為を行った場合には、会社法349条5項により、定款や取締役会規則による権限の制限は善意の第三者に対抗できないとされています。例えば、A社において、取締役会規則に会社が債務の保証を行う場合は常に取締役会の承認を要する等の定めが設けられている場合で、A社の代表取締役BがA社を代表して、他社の債務を保証した場合には、その債務の債権者がA社の取締役会規則に反して、Bが取締役会で承認を得ずに保証をしたことを知っていなければ、当該保証は有効となります。

会社法362条4項各号に反する場合

会社の代表取締役の行為の相手方としては、一般に代表取締役が適正に会社を代表する権限があると考えて取引などを行います。そうすると、取締役会決議による意思決定という会社内部の手続を経ていないことをもって、代表取締役の行為が一律に無効であるとされると、取引等の相手方は不測の不利益や損害を被る危険があります。そこで判例は、「代表取締役が、取締役会の決議を経てすることを要する取引等の対外的な行為を、その決議を経ないでした場合でも、その取引行為は、内部的意思決定を欠くに止まるから、原則として有効であって、相手方が取締役会決議を経ていないことを知りまたは知ることができたときに限って、無効である、と解するのが相当である」としており、取引の相手方の保護を図っています(最高裁昭和40年9月22日判決)。この判例によれば、取締役会の決議を経ずに行われた代表取締役の対外的行為は原則として有効となりますが、行為の相手方が、取締役会の決議を経ずに行為が行われたことを知っている若しくは知らなかったことについて過失がある場合には行為が無効となります。会社の取締役会規則等の内部的制限に反した行為と比較すると、行為の相手方が、取締役会の決定を経ていないと「知ることができた」場合にも、行為が無効となる点において、会社の保護が厚くなっています。

特に会社法362条4項1号または2号に反する場合

上記の最判40年9月22日は、製材業を主たる営業とする株式会社の代表取締役が、同会社の定款に業務執行上の重要な事項については取締役会の決議を要する旨の定めがあったにも関わらず、会社の経営上重要な製材工場を、株主総会決議や取締役会決議を経ることなく独断で一括譲渡する契約を締結する事例に関する判断となり、現在の会社法では、362条4項1号、重要な財産の処分に関する規制に違反したと考えられる事案となります。この判例は昭和40年のもので、その後に法改正もありましたが、最高裁は、最判平成11年11月30日、最判平成12年10月20日、最判平成21年4月17日等で同様の結論を出しており、現在もこの判決の理論が用いられていると考えられます。また、会社法362条4項2号の多額の借財に関しても同様に考えられることとなります。例えば、A社において、銀行から5000万円(A社の総資産の10%相当)の借り入れをする場合において、A社代表取締役Bが取締役会の決定を経ずに独断で借り入れを行った場合には、銀行が、かかる借入について取締役会で承認を得ずに保証をしたことを知っているか又は知ることができた場合でない限り、当該保証は有効となります。

会社法362条4項以外で取締役会の決議が必要とされている行為について

会社法362条4項以外で取締役会の決議が必要とされている行為について、取締役会の決議を経ずに行われた場合、会社法がこれらの行為に取締役会の決議が必要であると定めた趣旨や行為の性質に応じて、行為の効力が判断されることとなっています。つまり、行為ごとに有効か無効かが変わってくるということになります。これらの事項の中で主な対外的行為としては、募集株式の発行と利益相反取引、競業取引の承認等が挙げられます。

募集株式の発行

取締役会の決議を経ずに代表取締役が独断で会社の新株を行った場合については、最判昭和36年3月31日において、「いやしくも対外的に会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、たとえ右新株の発行について有効な取締役会の決議がなくとも、右新株の発行は有効なものと解すべきである」とされており、株式の発行は有効となると判断がされています。もっとも、会社の定款に定めのない種類の新株発行であったり、発行可能株式総数を超過した新株発行は無効となります。

取締役による競業取引及び利益相反取引

利益相反取引とは、取締役が会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図るような取引のことをいい、取締役と会社間で行われる売買契約等が該当します(会社法356条1項2号・3号)。競業取引とは、取締役が自己または第三者のために行う、株式会社の事業の部類に属する取引をいいます(会社法356条1項1号)。取締役がこれらの取引を行う場合、取締役会の承認が必要とされています。取締役が取締役会の承認なしに、これらの行為を行った場合の効力については、取引等の相手方は不測の不利益や損害を被る危険があるという観点が重視されます。そこで最判昭和43年12月25日で「取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要があるから、会社は、その取引について取締役会の承認を受けなかつたことのほか、相手方である第三者が悪意(その旨を知つていること)であることを主張し、立証して始めて、その無効をその相手方である第三者に主張し得るものと解するのが相当である」と判断がされています。したがって、相手方が株主総会・取締役会の承認を受けていない取引であることを知っていた場合に限って、取引が無効となります。

取締役の責任

上記で紹介した通り、取締役会の決定や承認が必要な行為を取締役が単独で行った場合においても、取引の安全や第三者保護の観点から、その行為が有効と判断されることが少なくありません。しかし、取締役会の決議を経ずに行為を行った取締役については、会社に対する善管注意義務、忠実義務(会社法355条)の違反となりますし、会社から解任される可能性も有りますので(会社法854条1項)、行為が有効になるからといって、取締役会の決議を経ずに対外的行為を行って良いというわけではないので注意が必要となります。

無効の主張権者

会社の代表取締役や取締役が取締役会の決議を経ずに、一定の対外的行為を行った場合、その行為によって損害を受ける可能性が高いのは、会社となります。そのため、取締役会の決議を経ずに、代表取締役や取締役が行った行為の無効を主張できるのは、会社自身となります。

追認

取締役が行う一定の行為について取締役会の決議を経ることが必要と定められているのは、会社の利益の保護のためであり、会社の代表取締役や取締役が取締役会の決議を経ずに、一定の対外的行為を行った場合、その行為によって損害を受ける可能性が高いのも会社となります。そこで、取締役会によって事後的に追認がされるのであれば、代表取締役や取締役の行為は問題なく有効となると考えられます。そして、事後承認の効果は遡及するため、事後承認のなされた取引はその行為時に遡って有効となると考えられます。会社の代表取締役や取締役が独断で行った行為について問題が無いと考えた場合には、後の紛争を避けるため事後的に取締役会で追認をするという選択肢も考えられるということになります。

当事務所で行うことができるサービス

当事務所では、会社側の代理人として取締役会の決議を経ずに行われた行為の効力について争う際のサポートの他、取締役会の承認を経ずに行為を行った役員に対する責任追及のサポートを行うことができます。また取締役会で承認決議や追認決議を行う際のサポートや取締役会議事録の作成についても対応することが可能となります。

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