解散と清算
会社の解散と清算とは
解散とは、会社の法人格が消滅する原因となる事由をいいます。
「消滅する原因となる事由」に過ぎないので、合併の場合を除いて、解散によって直ちに法人格が消滅するわけではありません。
これに対して、清算とは、解散した会社の法律関係の後始末をするための手続です。
この清算手続が終了することによって法人格は消滅します。
解散事由
解散事由には以下のものがあります。
定款で定めた存続期間の満了
定款で株式会社の存続期間を定めた場合は、その期間の満了によって会社は解散します(会社法471条1号)。
定款で定めた解散事由の発生
期間ではなく、解散となる事由を定款で定めた場合も、その事由の発生によって会社は解散します(同条2号)。
株主総会の特別決議
株主総会で解散を決議することで、会社は解散します(同条3号)。ただし、解散は株主の利益に重大な影響を及ぼすものであるため、特別決議による必要があります(同法309条2項11号)。
合併
消滅会社として他の会社と合併すると、会社は解散します(同法471条4号)。この場合、清算手続を経ることなく、その会社の法人格は消滅します。
破産手続の開始決定
破産手続開始の決定(破産法15条・30条)を受けると、会社は解散します(同法471条5号)。
解散を命ずる裁判
解散命令または解散判決を受けると会社は解散します(同法471条6号)。
解散命令は、会社の設立が不当に基づいてなされた場合など一定の事由に該当し、公益の確保のためその会社の存立を許すことができないと認められる場合に、裁判所が解散を命じる制度です(同法824条1項)。
解散判決は、一定の事由がある場合に、株主の請求による解散の訴えによって、裁判所が会社の解散を命じる制度です(同法833条)。
解散の訴えは、総株主(無議決権株式の株主を除く)の議決権の10分の1(定款で引き下げ可能)以上の議決権を有する株主または発行済み株式(自己株式を除く)の10分の1(定款で引き下げ可能)以上の数の株式を有する株主が提起することができます(同条1項)。
解散判決には、次の①または②のいずれかに当たり、かつ、やむを得ない事由があると認められる必要があります(同条1項)。
①会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、会社に回復することができない損害が生じ、または生ずるおそれがあるとき(同項1号)。たとえば、50%ずつの議決権を有する2名の株主が対立し、新たな取締役を選任できず正常な会社運営ができなくなった場合がこれに当たります(東京地判平成元年7月18日、東京高判平成3年10月31日、東京地判令和元年8月30日)。
②会社の財産の管理または処分が著しく失当で、会社の存立を危うくするとき(同項2号)。たとえば、取締役が他の株主との対立から事業活動をやめてしまった場合がこれに当たります(大阪地判昭和57年5月12日)。
休眠会社みなし解散
解散事由とは別に、みなし解散というものもあります。
株式会社が実際には事業を行っていないにもかかわらず、解散をしないで登記上存在したままになっていることがあります(休眠会社)。そのような休眠会社が多数存在することは、登記に対する社会の信頼を害するとして、会社法は、最後に登記した日から12年を経過した会社に愛して、法務大臣が事業を廃止していない旨の届出をすべき旨の官報公告をし、一定期間内にその届出または登記がないときは、その会社を解散したものとみなされます(会社法472条)。
期間については、株式会社の場合、取締役の任期が最長10年であるため(同法332条2項)、少なくとも10年に一回は登記がされるはずであるということから、12年と設定されています。
会社が解散した場合、2週間以内に解散の登記をしなければなりません(同法926条)。
解散後の会社の継続
会社が、定款所定事由の発生もしくは株主総会の決議により解散し、または休眠会社により解散したとみなされた場合には、清算の結了までの間(みなし解散の場合は、みなし解散後3年以内に限る)は、株主総会の特別決議によって、株式会社を継続すること、つまり解散しない状態に復帰することができます(会社法473条・309条2項11号)。
合併、破産手続開始決定、解散命令または解散判決が解散事由の場合は、継続することはできません。これらの場合、会社の多数派株主が望んだからといって、会社の継続を認めることは適切でないためです。
清算の種類
清算には、通常清算と特別清算があります。
通常清算は、会社の財産によってその債務を完済できることが見込まれる場合に行われます。
これに対して、会社の財産によって債務を完済できない債務超過の場合やその疑いがある場合は、特別清算または破産の手続により裁判所の厳格な監督の下で清算が行われます。清算株式会社の清算の遂行に著しい支障を来たす事情がある場合も特別清算によります。
債務超過の場合やその疑いがある場合、清算人は、特別清算または破産手続開始の申立てをする義務があります(会社法484条1項・511条2項)。
清算株式会社の権利能力
清算をする会社は、清算の目的の範囲内でのみ権利能力を有します(会社法476条)。そのため、事業上の取引を新たに行うことは原則としてできません。
行うことができる取引は、現務の結了のための行為として、すでに締結した契約の履行をしたり、その履行のために必要な新たな取引をしたりすることなどです。
また、清算の方法として事業譲渡をするような場合には、その事業の価値の劣化を防止するために事業を継続する必要があるので、そのために必要な事業上の取引をすることは可能です(大阪地判昭和35年1月14日)。
清算人・清算人会
清算人
清算人とは、清算株式会社のため清算事務を行う者で、清算株式会社は、1人または2人以上の清算人を置く必要があります(会社法477条1項)。
原則として、その会社の取締役であった者がそのまま清算人に就任しますが(同法478条1項1号)、定款または株主総会の決議によって新たにそれ以外の者を清算人に選任することもできます(同項2号3号)。
実務上は、清算人は清算手続の遂行に必要な人数に絞ることが多いです。また、弁護士が清算人に選任されることも少なからずあります。
清算人は、清算株式会社に対し善管注意義務(同法478条8項、330条・民法644条)・忠実義務(会社法482条4項・355条)を負います。任務懈怠による清算株式会社に対する損害賠償責任(同法486条)および対第三者責任(同法487条)につき、役員の場合(同法423条・429条)と同様の規律が置かれています。競業や利益相反取引についても、取締役と同様の規制に服します(同法482条4項・356条・489条8項・365条)。
清算人会
また、清算株式会社は、定款で定めることによって清算人会を設置することができます(同法477条2項)。
清算人会は、株式会社でいうところの取締役会に相当しますが、取締役会設置会社が解散した場合に、解散後の清算株式会社が当然に清算人会設置会社になるわけではなく、定款で清算人会を設置する旨を定めない限り、清算人会は置かれません。ただし、監査役会を置く旨の定款の定めがある場合には清算人会を置かなければなりません(同法477条3項)。
清算人会を設置する場合には、清算人を3人以上置く必要があります(会社法478条8項・331条5項)。
清算事務(清算の手続)
清算人は、清算株式会社の清算手続を行うため、その会社の財務状況を調査し、現務を結了し、財産を換価し、債権の取り立て・債務の弁済を行い、残余財産の株主への分配を行います(会社法481条)。
財産状況の調査
清算人は、清算人に就任した後遅滞なく、清算株式会社の財産状況を調査し、清算原因発生日における財産目録・貸借対照表を作成し、株主総会の承認を受ける必要があります(会社法492条)。
現務の結了
解散の時点で未了の状態にある清算株式会社の業務を整理し、終了させて後始末をつけることを現務の結了といいます(会社法481条1号)。
たとえば、取引先との契約関係や従業員との雇用関係を終了させることですが、可能な限り円滑に現務を結了させるため、これらを必ずしも即時に終了させる必要はありません。
雇用関係の終了に伴い、各種社会保険について、年金事務所、ハローワーク、労働基準監督署などに対して、離職に関する手続を行うとともに、解散(事業所の廃止)した旨を届け出る必要があります。
財産の換価
財産の換価は、会社法481条には清算事務として明記されていませんが、債務の弁済や残余財産の株主への分配のため財産を金銭に換えることは当然に必要なものであるため、清算事務の一つとして含まれます。
債権の取立て
清算人は、清算株式会社が有する債権の取立てをしなければなりません(会社法481条2号)。
債務の弁済
清算人は、清算株式会社が負う債務の弁済をしなければなりません(会社法481条2号)。
残余財産の分配
清算株式会社が債務を弁済してもなお財産が残るときは、この残余財産を株主に対して分配します(会社法504条)。
残余財産の分配は、各株主が有する株式の内容・数に応じて行う必要があります(同条2項3項)。しかし、非公開会社では、定款によって残余財産の分配について株主ごとに異なる扱いを定めることができます(同法109条2項・105条1項2号)。株主全員の同意によって株主ごとにことなる定めをすることもできます(東京地判平成27年9月7日)。
債権者保護手続
株式会社はその会社の財産だけが責任財産となるため、債務の弁済に際しては、すべての債権者に公平に弁済を受ける機会を保障するための一定の手続による必要があります。これを債権者保護手続といいます。
解散公告
清算株式会社は、債権者保護手続として、清算が開始した後遅滞なく、債権者に対して、2か月を下らない一定の期間内に債権を申出るべき旨を官報に公告しなければなりません(会社法499条1項)。この公告には、その期間(債権申出期間)内に申出をしないときは清算から除外される旨が記載されます(同条2項)。定款において、公告方法として官報に掲載する方法以外の方法を定めている場合でも、解散公告については官報公告が義務付けられています。
清算株式会社は、債権申出期間中、裁判所の許可を得ない限り、債務の弁済を受けることができません(同法500条2項)。
債権申出期間が経過した後、清算株式会社は、申し出られた債権について弁済をします。債権申出期間内に申出をしなかった債権者は、清算から除外され、分配後の残余財産に対してのみ弁済を請求することができます(同法503条2項)。
知れている債権者への催告
また、清算株式会社は、解散公告に加えて、知れている債権者に各別にこれを催告しなければなりません(会社法499条1項)
知れている債権者とは、清算株式会社の帳簿その他によって、氏名・住所等が知れている債権者のことで、債権の額が確定していなくてもよいとされています。知れている債権者に対する各別の催告を省略することはできません。
解散公告と異なり、知れている債権者については、債権申出期間内に申出がなくとも、清算から除斥されません。
知れている債権者に対する各別の催告は、時効の更新の効力を生じる債務の承認(民法152条)に当たるので(大判大正4年4月30日)、すでに消滅時効期間が経過している債権については催告を行わないよう注意する必要があります。
清算の結了
清算人は、以上の清算事務がすべて終了したときは、遅滞なく決算報告を作成し、株主総会の承認を受けなければなりません(会社法507条)。
清算事務の終了と株主総会による決算報告の承認によって、清算は結了し、株式会社の法人格が消滅します。この承認により、清算人は、不正行為があった場合を除き、任務を怠ったことによる損害賠償責任が免除されたものとみなされます(同法507条4項)。
清算が結了したときは、株主総会による決算報告の承認の日から2週間以内に清算結了の登記をする必要があります(同法929条1号)。また、清算株式会社は、遅滞なく、所轄税務署長に清算の結了に関する異動届出書を提出する必要があります(法人税法20条・同施行令18条)。
また、清算人は、清算結了の登記の日から10年間、清算株式会社の帳簿とその事業及び清算に関する重要な資料を保存する義務があります(同法508条)。これは、清算手続の適法性等に関して紛争が生じた場合に備えるためです。
特別清算
特別清算とは
特別清算は、①清算株式会社の清算の遂行に著しい支障を来たすべき事情があるか、または、②債務超過の疑いがある場合に、裁判所の監督下で行われる特別の清算手続です(会社法510条)。
清算株式会社の債権者、清算人、監査役、または株主により、特別清算開始の申立てがあった場合、裁判所は、上記①または②の事由があると認めたときは、特別清算開始の命令をし、これによって特別清算手続が開始されます。
特別清算では、裁判所は、清算株式会社に対して、財産目録等の提出、調査命令、清算人の解任・選任、報酬等の決定、一定の重要行為の許可などの監督権限を行使できます。
また、特別清算が開始すると、清算株式会社の債権者は、強制執行などを含め個別的な権利実行ができなくなります(同法515条)。
特別清算が結了したときや、実は十分な資産があり債務超過ではなかったと判明した場合など特別清算の必要がなくなったときは、清算人の申立てにより、裁判所が特別清算終結の決定をします(会社法537条)。
協定と個別和解
特別清算を行う清算株式会社は、通常、会社の財産によって債務を弁済できない状況です。そのため、清算株式会社は、債務の減免など、債権の内容を変更する協定を債権者集会に申し出て、債権者の多数決による同意を得ることで、その債権の内容を変更することができます(同法570条・571条)。協定によらず、債権額の割合に応じて弁済をすることも可能ですが(同法537条)、その場合残債権の全部について弁済や放棄がされなければ清算手続を結了できないので、協定の成立は結局のところ不可欠になります。そのため、特別清算開始の申立ての際、大口債権者が特別清算に反対していて協定が成立する見込みがない場合は、そもそも申立ては却下されることになり、特別清算開始後に協定の見込みがなくなったときは、裁判所は破産手続開始の決定をします(同法574条1項)。
他方で、実務上は、協定に代わるものとして債権者との個別和解によって清算することが少なくありません。債権者が少数の場合やいわゆる第2会社方式による事業再生スキームの場合など、特別清算によって会社を清算することについて債権者があらかじめ同意しているようなときは、債権者集会で協定の可決を得るよりも迅速に手続をすることができます。個別和解は、親会社による不採算子会社の清算に用いられる場合にも用いられます。つまり、親会社が子会社に対する債権を放棄すると、その債権放棄については相当な理由がない限り寄附金と認定されるので貸倒れとして損金処理ができませんが、特別清算によれば貸倒れとして損金処理しうることになります(法人税基本通達9-6-1⑵⑷)。
税務申告
会社の解散に伴い、税務申告をする必要があります。法人税については、解散によって事業年度が終了するため、解散の日の翌日から2か月以内に確定申告をし、法人税を納付する必要があります(法人税法14条1項1号)。その後は、1年ごとに清算事務年度の確定申告と納税をしていきます。
不当労働行為
株主総会により、真に事業を廃止する意思で解散が決定された場合、仮に従業員や労働組合がこれに反対していたとしても、解散が違法や無効とはならず、また、清算に伴う解雇について、労働契約法16条の解雇権濫用法理による規制を受けることもありません(大阪高判平成15年11月13日)。
ただし、親会社などが、労働組合つぶしを目的として、その子会社を解散させ、その事業と組合員以外の従業員を新設の子会社に承継させる場合があります。このような事例において、不当労働行為のために会社の法人格が濫用されたとして、法人格否認の法理によって、解散した子会社の組合員の新設子会社に対する雇用契約上の地位確認が認められる裁判例があります(大阪地決平成6年8月5日、名古屋地一宮支判平成26年4月11日)。
会社経営から排除された少数派株主の保護
非公開会社では、税務上の観点から、株主自身が取締役などの役員となり、剰余金の配当ではなく主に役員報酬の形で事業のリターンを得ている場合は多いです。このような会社において、多数派株主と少数派株主とが対立して、少数派株主が役員の地位を失うと、事業のリターンをほとんど受けられなくなります。
非公開会社の場合、株式の流通性がないので株式を売却して会社から退出することもできず、またその会社の事業自体が順調である限り、解散の訴えの要件を満たすこともできません。この場合、少数派株主は一方的に不利益を被ることとなります。
少数派株主の立場からは、こうした場合の予防策として、株主間契約などにおいて、一定の場合に少数派株主による株式買取請求権を定めることが考えられます。
企業法務の最新情報をお届けする無料メールマガジン