• 2023.11.30
  • M&A・事業承継

事業譲渡契約における注意点

事業譲渡とは

事業譲渡とは、一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し、これによって譲渡会社がその譲渡の限度に応じて法律上当然に競業避止義務を負う(会社法21条)こととなるものをいうとされています(最判昭和40年9月22日)。
したがって、単なる事業用財産又は権利義務の集合を譲渡するものではなく、製造販売のノウハウや、取引先の移転なども含まれます。
事業譲渡は、M&Aの手段として用いられますが、メリット・デメリットは以下のとおりです。

  • メリット

    1. 買い手企業は、必要な資産・負債だけを選んで買収できるため、不要な資産を抱え込むリスクがない
    2. 簿外債務を引き継いでしまうおそれがない
  • デメリット

    1. 個別財産の所有権や契約上の地位の移転手続が必要なため手間と時間がかかる。
    2. 税制適格組織再編制度による税務上の優遇措置がなく、登録免許税や不動産取得税などの税負担が重い。また、譲受側には課税対象資産に対して消費税がかかる。

会社法上の手続

株式会社が事業譲渡等(会社法467条1項1号~4号の行為のこと。468条1項)をするときは、その行為が効力を生ずる日までに、株主総会の特別決議による承認を受けなければなりません(同法467条1項・309条2項11号)。
ただし、①事業譲渡等の相手方が、事業譲渡等をする会社の特別支配会社である場合(総株主の議決権の90%以上を有する場合)は、決議の帰趨が見えているため、承認決議は不要となっています(略式事業譲渡等。同法468条1項)。
また、②他の会社の事業全部の譲受けの場合に、譲受けの対価として交付する財産の帳簿価額が、譲受会社の純資産額の20%(定款でそれを下回る割合を定めたときはその割合)を超えないときは、譲受会社の株主の利益に与える影響が小さいとみて、承認決議は不要としています(簡易の事業譲受け。同条2項)。

事業譲渡契約において定める事項

定義

事業譲渡契約などのM&Aに関する契約書は、一般的に条文が多く、M&Aに特有な用語が繰り返し使われます。各用語の意味について疑義が生じないよう、繰り返し登場する用語については契約書の冒頭において定義条項を定めることが多いです。

譲渡の対象となる事業

事業譲渡契約においては、譲渡対象となる譲渡会社の事業を特定する必要があります。
譲渡会社の事業の全部を譲渡する場合には、「甲が営む事業の全部」と記載すれば足りますが、譲渡会社の事業の一部を譲渡する場合には、契約書において対象となる事業を特定することが必要です。特定の方法としては、事業の名称による方法、地域等により限定する方法などが考えられます。

譲渡日

事業譲渡または事業の全部譲受けにかかる事業譲渡契約については、簡易事業譲渡または略式事業譲渡に該当しない限り、その効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議によってその承認を受けなければなりません(会社法467条1項1号・2号・3号)。
事業譲渡契約書には、この効力発生日を譲渡日として規定します。

譲渡財産

事業譲渡契約においては、譲渡対象となる財産に関する規定を置きますが、「本事業に係る一切の財産」などというように、包括的に譲渡される事業に属する一切の財産を譲渡する旨定め、例外的に一部の財産を対象から除外する場合もあります。
これに対して、譲渡対象となる財産として、資産、債務、契約関係等を契約書においてより具体的に対象を特定しておく場合もあります。

資産の特定の方法としては、「譲渡日現在における本事業に係る一切の資産」などと、概括的に定める場合も少なくありません。
しかし、たとえば、ある資産が、譲渡対象事業に用いられが、それ以外の事業でも用いられているような場合は、扱いが不明確となることがあります。
そのような場合は、契約書において、譲渡対象となる資産の明細を別紙に具体的に定めておくことが考えられます。

他方で、債務については、譲受会社が譲渡会社から承継する債務を具体的に特定するのが一般的です。事業譲渡を用いることのメリットとして、簿外債務や偶発債務の承継を防ぐという点があり、その目的のために、特に承継対象となる債務の範囲については明確に特定をしておく必要があるためです。
債務の承継には、併存的債務引受の方法と免責的債務引受の方法があり、どちらに該当するのかを明確にすることが望ましいです。並存的債務引受は、債務の承継人がその債務を負担するとともに、元の債務者も引き続きその債務を負担し続けるというものです。免責的債務引受は、債務の承継により元の債務者はその後債務を免れることとなるものです。免責的債務引受をするには、債権者から個別の承諾を取得する必要があるため、事業譲渡前の遵守事項として、譲渡会社が債権者から書面による承諾を取得するよう義務づけることが考えられます。

また、譲渡会社の簿外債務や偶発債務などの潜在的な債務を承継しないようにすることを明確にするために、契約書において具体的に特定した債務以外については、譲渡日において既に発生している債務および譲渡日前の原因に基づいて譲渡日後に発生する債務は一切引き受けない旨を明記することが考えられます。

譲渡対価

事業譲渡の対価の定め方については、最も一般的なのは、確定金額を明記することですが、それ以外にも、①あらかじめ算定方法を定めておき、その方法にしたがって譲渡対価を算定する方法や、②譲渡対価として一応の確定額を定めたうえで、その後のある時点の情報を踏まえて改めて対価の額の調整を行うとする方法も考えられます。②の調整の方法としては、クロージング日における計算書類や譲渡対象資産の棚卸に基づいて、契約締結時点の評価との差分によって調整したり、契約締結後のデューディリジェンスの結果を反映したりすることが考えられます。

従業員の引継ぎ

事業譲渡においては、合併や会社分割のように従業員が自動的に承継される制度はありません。
したがって、譲渡会社の従業員らを譲受会社において引き続き使用するためには、その従業員らとの間で個別に契約関係を調整することが必要となります。
その調整に関する当事会社間における協議の結果として、異動させる従業員の有無、異動させる従業員の特定、異動の方法、異動対象従業員の労働条件、転籍者に対する退職金支払債務の取扱いといった事項について定めます。
譲受会社としては、譲り受ける事業の運営にとって欠かすことのできない従業員(キーパーソン)を確実に承継を受けることを期待します。そのため、事業譲渡前の遵守事項として、譲渡会社がキーパーソンから転籍承諾書を取得する努力義務を課すこととしたり、事業譲渡の前提条件として、キーパーソンからの転籍承諾が得られない限り事業譲受けを行わないこととしたりすることが考えられます。

表明保証

事業譲渡契約含む、M&Aに関する契約の締結に際しては、事前に、譲受会社が譲渡会社のデューディリジェンスを行い、譲渡対象事業の内容やその承継について、ビジネス、法務、財務、税務等のあらゆる観点で問題や支障がないかどうかを入念に調査するのが一般的です。しかし、このようなデューディリジェンスをしたとしても、すべての問題点をあらかじめ発見することは難しいです。
そこで、事業譲渡契約書では、譲渡会社に対して、様々な事項について契約締結日時点でそれが真実であり正確である旨を表明させ、保証させることが必要です。事業譲渡契約において最も重要で特徴的な条文です。
表明保証の例としては以下のようなものが考えられますが、個々の案件に応じて、事業譲渡のポイントとして重要な要素を盛り込んでカスタマイズする必要があります。

  • 譲渡会社が有効に存在すること、権利能力・行為能力があること
  • 事業譲渡契約を有効に締結できること
  • 事業譲渡契約の締結が定款、裁判所の判決、契約等に違反しないこと
  • 譲渡資産に関する事項
  • 譲渡事業の許認可に関する事項
  • 第三者の知的財産権等の侵害がないこと
  • 譲渡事業に関して訴訟等の紛争がないこと
  • 財務諸表が正確かつ適切であること
  • 従業員に関する紛争がないこと
  • 事業譲渡契約時点において重要な情報をすべて適切に開示したこと

この表明保証条項においては、譲渡会社側の責任が重くなりすぎることを避けるため、「重要な事項に限る」とか「譲渡会社が知る限りにおいて」という限定文言が置かれる場合があります。
「重要な事項に限る」とすることで、些細な表明保証違反によってクロージング拒否となったり、解除・補償の対象となったりすることが避けられます。
また、「譲渡会社が知る限りにおいて」との文言を置くことで、譲渡会社として認識していない、認識し得ない表明保証違反事項について、表明保証違反を回避する余地を残すことができます。たとえば、「譲渡会社は租税債務を支払い済み」という表明保証について、譲渡会社は税理士等と相談のうえ適正に申告・納付をしたにもかかわらず、税務署との見解の相違によって修正申告・更生がされた場合に、表明保証違反となることを避けることができます。

表明保証条項に違反した場合には、金銭的な補償や、クロージングの前提条件を欠くものとして事業譲渡そのものを実行しないとすることとなります。

事業譲渡の前提条件

事業譲渡契約では、事業譲渡を実行するための条件を設定することが多いです。
この条件が満たされない限り、譲渡会社・譲受会社は事業譲渡の実行しないことになります。
前提条件として規定するものとして、以下のようなものが考えられます。

  • 表明保証事項が真実かつ正確であること
  • 事業譲渡契約上の義務違反が存在しないこと
  • 承継対象となる債務や契約について債権者や契約相手方からの承諾が得られていること
  • 譲渡対象事業に係る資産、負債、財政状態または経営成績等に重大な悪影響が生じていないこと
  • 譲受会社が譲渡対象事業を営業するために必要な許認可等を取得できていること
  • 独占禁止法上の届出の効力が発生していることおよび公正取引委員会による審査が終了していること
  • 異動の対象となる従業員(キーパーソン)から転籍の同意が得られていること

事業譲渡前の誓約事項

事業譲渡においては、事業譲渡契約の締結からクロージングに至るまで、一定の期間を要することは少なくありません。この場合、その期間において各当事者が遵守すべき事項を誓約させることがあります。事業譲渡契約においては、承継対象となる個々の財産、契約等を個別に移転させる必要があり、また、その際、第三者の同意の取得等当事者が必ずしもコントロールできない事項も含まれるため、承継手続等に関する詳細な義務も定める必要があります。
事業譲渡前の誓約事項として規定されるものとしては以下のようなものが考えられます。

  • 事業譲渡・譲受けに必要となる手続(社内手続・株主総会承認・許認可の取得等)の履践
  • 譲渡会社における事業の運営や財産管理における善管注意義務
  • 譲渡会社の禁止行為
  • 承継債務の債権者や承継契約の相手方からの個別承諾の取得

クロージング

クロージングのための当事者による具体的な行為に関して定める必要があります。
クロージング日、時間、場所などを特定します。
また、事業譲渡の場合には、承継対象資産等について個別に移転手続を行う必要があるため、承継対象となる資産、負債、契約等のそれぞれに関し、必要に応じて移転に必要な手続(書類の交付等)に関する事項を規定します。
譲受会社においては、事業譲渡代金の支払方法に加え、事業の譲受に必要な手続が履践されたことを証する書面等の交付に関する事項を規定します。
クロージング日を含む期間に対応する公租公課、賃料等は、事業譲渡に伴い実際に権利義務関係が移転するクロージング日を基準として清算が行われることが通常です。また、クロージング日以降の承継対象事業に係る権利義務関係に応じた清算やその清算処理の方法を規定することもあります。

クロージング後の誓約事項

クロージング後においても当事者間で一定の義務を定める場合があります。
まず、競業避止義務が考えられます。そもそも、会社法は、事業譲渡に際しての競業避止義務を定めていて、これによれば、譲渡会社は、同一の市町村の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内においては、事業譲渡日から20年間は、同一の事業を行うことができません(会社法21条1項)。当事者が会社法の規定とは異なる合意をした場合には、その合意が優先します。
このほか、譲渡会社に負わせる義務として、承継債務の債権者、承継契約の相手方または異動対象従業員からの個別同意の取得への協力義務や、譲受会社に転籍した従業員を再度引き抜いたりしない旨の義務を定める場合があります。
また、譲受会社に負わせる義務として、承継した従業員の雇用を一定期間継続する義務や、雇用条件を維持する義務を定めることが考えられます。

補償

当事者が表明保証違反や事業譲渡契約上の義務違反をした場合に、他方当事者が金銭的補償や譲渡対価の減額を受けることができる旨を定めます。
基本的に、事業譲渡契約においては、対価を支払って譲り受けた事業に関して譲受会社が損失を被るという場合が多く想定されるため、譲受会社としては補償に関して広範に定めることが望ましいです。
そのため、譲渡会社による過失を問わない無過失責任としたり、損害額の算定が困難であることを想定して、損害賠償額の予定を定めたりすることが考えられます。
反対に、譲渡会社としては補償責任を負う範囲について可能な限り制限したいと考えます。
補償責任の制限としては、クロージング日から一定の期間内に制限したり、補償額に上限を設定したり、補償が発生する事由を限定したりすることが考えられます。

解除

事業譲渡契約も契約の一つであるため、債務不履行等の一定の事由が生じた場合にはこれを解除することができます。
しかし、事業譲渡においては、クロージングに伴って資産や債務、契約等が譲渡会社から譲受会社に移転した後に、その効力を失わせてクロージング前の状態に戻すことについては、当事者に多大の負担が生じる上、取引先等の第三者に対しても大きな混乱を生じさせることになりかねません。そのため、事業譲渡契約の解除については、クロージング前の時点までに限定して解除を認めるとすることが少なくありません。
この場合、クロージング後に判明した債務不履行や表明保証違反については、事業譲渡契約の解除ではなく、補償の問題として対応がされることになります。

譲受会社による商号の継続利用

譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合、譲受会社は譲渡会社の債務の弁済義務を負うことに留意が必要です(会社法22条1項)。
また、譲受会社が譲渡会社の商号を続用しない場合でも事業に関する債務を引き受ける旨を広告したときは債務の弁済義務を負います(会社法23条)。
ただし、商号の続用に関しては、譲渡会社の債務を負担しない旨の登記をするか、遅滞なく第三者に対してその旨を通知した場合には債務の弁済義務は負いません(会社法22条2項)。

民法上の詐害行為取消権や破産法上の否認権

事業譲渡が不当に低廉な価額で行われた場合や、特定の債権者に弁済する目的で行われた場合は、債権者は民法上の詐害行為取消権の行使により、事業譲渡行為を取り消すことができます。
また、破産法上も、破産宣告前に譲渡会社がした事業譲渡が債権者を害する場合には、その効力を否認権に基づき否認することができます。
業績不振の企業から事業を譲り受ける場合には、これらのリスクを認識する必要があります。

臨時報告書の提出

事業譲渡・譲受の当事会社が有価証券報告書提出会社の場合、軽微基準に該当する場合を除いて、事業譲渡・譲受の意思決定がなされた場合に、遅滞なく臨時報告書を提出しなければなりません。具体的には、資産の額が最終事業年度末日における純資産額の30%以上減少もしくは増加することが見込まれる場合、または、売上高が最終事業年度の売上高の10%以上減少もしくは増加することが見込まれる場合に臨時報告書の提出が必要となります。

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