業務委託契約
業務委託契約とは
業務委託契約は、自己・自社の業務を外部に委託するための契約です。現代のビジネスにおいては、いわゆるアウトソーシングとして、広くさまざまな目的で利用されています。
業務委託契約の種類
委託業務の内容は非常に多岐にわたりますが、その内容によって、物に関する契約とサービス・役務提供に関する契約に分けられます。
物に関する契約としては、製品の製造委託契約や、OEM契約、サービス・役務提供に関する契約としては、システム開発契約、コンサルティング契約、研究開発契約などが具体例として考えられます。
法的性質
業務委託契約は、法律上の定義はなく、その法的性質に着目すると、民法上の請負契約か、もしくは準委任契約、またはその混合類型があります。売買契約の性質が含まれる場合もあります。
請負契約は、請負人が仕事の完成を約し、注文者がその結果に対して報酬を支払うことを約することによって成立する契約です。仕事の完成は、請負人の最も基本的な義務です。請負が仕事の完成を義務としている以上、仕事が契約の内容に適合しない場合には、契約不適合の修補をはじめとする担保責任を負うことになります。
これに対し、準委任契約は、事実行為を依頼する契約です。受任者は善良なる管理者の注意義務をもって事務を処理する義務(善管注意義務)がありますが、請負契約とは異なり、完成責任は負いません。そのため、善管注意義務を尽くす限り、期待される結果が出なくても債務不履行にはなりません。
また、請負契約を書面で締結した場合には、印紙税法上の課税対象となり得ますが、準委任契約の場合は課税対象とはなりません。
請負契約と準委任契約にはこのような差異がありますが、締結された契約が請負契約か準委任契約かを明確に判別できない場合も多いです。契約書の表題が「準委任契約」とされていたとしても、それによって準委任契約と判断されるわけではありません。請負契約と準委任契約のいずれに該当するかは、契約に至る経緯や契約の内容などを総合的に考慮して実質的に判断されます。
業務委託契約の記載事項
タイトル
業務委託契約の契約書のタイトルには、単に「業務委託契約書」、「請負契約書」、「準委任契約書」や、より具体的に「WEBサイト制作委託契約書」、「部品製造委託契約書」などと記載することが考えられますが、必ずしも記載されたタイトルによって契約の性質が決定されるわけではありません。
その契約の内容・性質に応じた適切なタイトルを記載するようにしましょう。
委託業務の内容
業務委託契約では、委託業務の内容を明確に定めることが重要です。特に、請負契約においては、仕事の完成義務を負います。そのため、完成すべき仕事の内容を一義的に明確に定めなければ、受託者が仕事を完成したかどうかについて争いが生じる可能性があります。
委託業務の内容を可能な限り明確にするために、仕様書などで仕事を定義し、またその検査・検収の方法・合格基準を明確に定めておくことが必要です。
秘密保持条項
業務委託契約の場合、受託者側が委託業務を遂行するために、発注者側の情報が開示される場合が多いです。そのため、特に発注者側の立場からは、開示される情報が適切に管理されるよう秘密保持義務を厳格に定める要請があります。
他方で受託者側としては、情報を適切に管理するものの、秘密保持義務を負う範囲が無用に広範になったり、業務の遂行上必要な開示が制限されたりしないようにする要請が働きます。
損害賠償条項
契約違反により相手方に損害を与えた場合、相手方に対して損害賠償責任を負う旨を契約書で定めることは多いです。ただし、これだけの記載であれば、民法上の債務不履行に基づく損害賠償責任と同様の内容を定めているにすぎず、あくまで確認的に契約書に定めているものです。
民法上の責任と異なる定めをする場合、以下の要素が盛り込まれることが多いです。
- 損害の範囲
民法上、債務不履行に基づく損害賠償責任における損害の範囲は、債務不履行によって通常生ずべき損害及び債務者が予見し又は予見することができた特別の事情によって生じた損害であるとしています(民法416条1項)。
業務委託契約では、受託者による委託業務の遂行の遅延や不備の結果、発注者側に損害が発生することが多いため、発注者側としては、賠償責任を負う損害の範囲を可能な限り広く定めたい要請が働きます。
そのため、発注者側の立場からは、損害賠償条項では、「一切の損害」などと定め、広範に定義することが考えられます。
他方で、受注者側の立場からは、「直接かつ現実に生じた損害」などと賠償責任を負う範囲を限定的に定め、リスクを低減することが考えられます。 - 賠償額の上限
受注者による委託業務の遂行の結果により、その委託料金に比して非常に高額な損害が発生する可能性もあります。しかし、多数の取引先との間で反復・継続して委託業務を遂行する中で、そのすべてについてこのような高額の賠償責任を負うリスクを抱えることは受託者にとって酷な面があります。
そのため、損害の範囲に含まれる損害であっても、金額で上限を設定することで賠償責任を限定することが考えられます。
実務上よく用いられるのが、委託料金の額を上限として損害賠償責任を負う旨を定める方法です。これにより、受託者は、最悪でも委託料金の放棄又は全額返金の範囲にリスクを抑えることができます。ただし、上限額を定めていたとしても、実際に損害が発生したときに、それが受託者の故意または重大な過失による場合は、上限額を超えて賠償責任を負う可能性があるので注意が必要です。契約書上、この点を明記することも少なくありません。
仮に受託者側が上限額の設定に応じない場合、受託者側はよりリスクのある業務を受託することになるといえるので、このリスクを織り込んで委託料金の見直し(増額)を検討せざるを得ない旨を強調して交渉することになるでしょう。
再委託
再委託とは、受託者が、委託を受けた業務の遂行を他の第三者にさらに委託することをいいます。
準委任の場合、受託者は原則として委任された事務の処理を自ら行わなければなりません。例外として、委託者の同意がある場合とやむを得ない事由がある場合は、受任事務を再委託することができます(民法644条の2第1項)。
他方、請負の場合は、仕事を完成させることが契約の中心的な目的なので、その過程は問題とならず、第三者に再委託することも禁止されないと解されています。
しかし、実務上、業務委託契約では、いずれの場合であっても、再委託を原則として禁止し、発注者の事前の同意がある場合や受託者の関連会社に再委託する場合などを一定の例外の場合に認めていることが多いです。
受託者に有利な条項にするのであれば、受託者の合理的な裁量でその一部または全部の業務を再委託できるという規定にすることが考えられます。
いずれの場合でも、受託者が第三者に再委託をした場合は、そこから生じる責任は受託者自らがすべて引き受けなければならないと定めることが多いです。委託者としては、再委託があろうとなかろうと、委託業務が契約通り遂行されることを当然に期待するためです。
知的財産権の帰属
業務委託契約に基づいて、発明、意匠、著作物や営業秘密等の知的財産が創出されることが見込まれる場合には、委託業務の遂行の過程や結果により生じた知的財産権の帰属を発注者側にするか発注者側にするかを定める必要があります。
どちらにすべきかについては、個々の取引の内容や背景によりますが、発注者としては、委託料金を負担している以上、委託の結果生じる知的財産権についても発注者に帰属すべきと考える場合もあります。
他方で、委託の結果生じる知的財産権への受注者による寄与度やオリジナリティが強い場合は、受注者に帰属させるべきと考えることもあります。
個々の取引に応じて、柔軟に取り決めることができますが、発注者側が委託料金を負担しているとしても、一方的に知的財産権を取り上げることは、場合によっては優越的地位の濫用と判断される可能性もあるため注意が必要です。
また、委託の結果生じる知的財産権を発注者と受託者の共有に属させることも考えられます。
個人情報の取り扱い
業務委託契約に基づいて特定の個人を識別することができる情報等を提供する場合または提供を受ける場合には、個人情報保護法を遵守する必要があります。
特に、役務提供委託の場合には、これに伴って、発注者から、受託者に対して個人情報が提供されることが少なくありません。例えば、発注者自身が保有する顧客情報の集計・分析や紙媒体で保有している個人情報の電子ファイルへの入力作業などを委託するというような場合がこれに該当します。
個人情報保護法上、個人データ(個人情報保護法2条4項・6項)を第三者に提供するにあたっては、原則として、その個人データに係る本人の同意をあらかじめ取得する必要があります。しかし、例外的に、個人データの取扱いの全部または一部を第三者に委託することに伴って個人データが提供される場合などには、その本人の同意が不要となります(同法23条1項・5項1号)。そのため、業務委託契約に伴って、その業務の遂行のために個人情報の提供が必要な場合には、本人の同意を得ることなく受託者への提供が可能であることを理解しておきましょう。
ただし、この場合にも、委託者は、受託者における個人データの安全管理が図られるよう、受託者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならず(同法22条)、かかる義務の履行として、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先における個人データ取扱状況の把握を行うことが求められます。
委託先における個人データ取扱状況を把握するにあたっては、まずこれを実効化するために必要な義務を受託者に対して課す条項を業務委託契約の内容として盛り込む必要があります。
中途解約
契約の一方当事者が、一定の催告期間を定めた上で、いつでも契約を任意に終了させることができる規定のことを中途解約条項といいます。
委任については、各当事者はいつでもその契約を解除することができるとされていることから、特に、役務提供型の業務委託においては、中途解約条項が設けられることも珍しくありません。
一方的に解除ができる中途解約条項は、解除を受ける当事者にとっては、不測の損害を生じる場合が多く、一定の催告期間を定めるのが一般的です。「相当な期間」ではなく、特定の期間を明示的に定めておくことも考えられます。
一般に、発注者側としては、受託者の業務の遂行状況に応じて、柔軟に契約を解除できる余地を残しておくことに利点があります。受注者としてはその逆のことがいえます。
競業避止義務
業務委託契約において、発注者が受託者に対して競業避止義務を定める場合があります。
競業避止義務は、契約の一方当事者が開示するノウハウ等の保護やその当事者が構築した商圏の保護を目的として規定されます。
競業避止義務が定められた場合、競業避止義務に違反した当事者に対して、損害賠償請求権や差止請求権を行使することができます。
競業避止義務を定める規定は、原則として有効ですが、これはその義務を負う契約当事者の営業の自由を制約するものであるため、その目的、必要性、内容の妥当性等を考慮した上で、その義務の範囲が限定的に解釈されたり、場合によっては、その義務自体が公序良俗(民法90条)に反するものとして無効と扱われたりすることがあります。
委託者としては、受託者が委託者のために遂行した業務の成果を、受託者自身や第三者の事業のために使うことを制限したいと考える場合があります。特に、役務提供委託契約の場合、委託者が高額の委託料を支払って、委託者のために作成した内容が、そのまま受託者自身や委託者の競合相手のために使われてしまうと、委託者は費用対効果が合わないことになってしまいます。
他方で、受託者としては、自社のノウハウや経験を生かして作成した成果であり、他にも汎用性のある部分は第三者のためにも活用したいと考えます。委託者だけのために作成するのであれば、委託料をもっと高額にしたいと考えることもあります。
そのような観点から、委託者の立場が強ければ、競業禁止の規定が入ることもありますが、一般に受託者としては同様の委託を複数の会社から受けることが多く、競業避止義務については、委託者と競合する事業者を特定して、その事業者に対しては業務を提供しないなど、限定的な競業避止義務とすることも考えられます。
労働者派遣との関係(偽装請負)
労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることです(労働者派遣法2条1号)。
労働者派遣と業務委託の区別の観点で問題となるのが偽装請負です。
労働者派遣においては、派遣労働者があたかも派遣先の労働者かのように派遣先の指揮命令に服しますが、これに対し、業務委託の場合は受託者の指揮命令に服すのであって、発注者側の指揮命令には服しません。
労働者派遣は、派遣事業の許可を受けなければ行うことができませんが、労働者派遣か業務委託のどちらに該当するかは、契約名称ではなく、その実態によって判断されます。そのため、契約の名称が業務委託契約とされていたとしても、受託者側が指揮命令を行わず、その受託者側に雇用される労働者が業務遂行のため発注者側の事業場に赴き、発注者側が指揮命令を行っているような実態があれば、実態は労働者派遣となり、無許可で派遣事業を行ったとして罰則を受ける可能性があります。これを偽装請負といいます。
システム開発契約
システム開発契約においては、それが請負契約と準委任契約のどちらであるのかという議論が古くからあります。
実際のシステム開発は、請負契約と準委任契約の両方の要素を組み合わせていることが一般的です。請負契約の本質が仕事の完成を内容とするものであるのに対し、準委任契約の本質は事務の委託を内容とするものであり、契約書の名称を「請負契約/準委任契約」としたり、契約書内で「本契約は請負契約/準委任契約である」と記載したりさえすればそのとおりに契約解釈がされるものでもありません。また、請負、準委任に関する民法の規定は任意規定であることが大半であるため、案件の特性を勘案して契約によって上書きすることも可能です。
この分類論にこだわるのではなく、個別の取引ごとに契約内容を分析することが重要です。
一般的に、準委任契約はシステムベンダが仕事の完成義務を負わないためシステム開発に対する責任が軽減されているという考え方もありますが、準委任契約であっても契約上の責任として善管注意義務を負うため、必ずしも請負の場合より責任が弱いとはいえません。
どちらの契約が適しているかは、業務の内・契約の目的に依拠しますが、ユーザとシステムベンダのどちらが主体的にその工程を実施するかといった観点から検討されます。つまり、ユーザが主体的に業務を遂行しシステムベンダはその支援を行う場合には準委任契約、システムベンダが独立的に業務を遂行し、ユーザはシステムベンダの要請に応じた協力を行う場合には請負契約を選択することになります。
システム開発は、ウォーターフォール型開発とアジャイル開発とに区別できます。
一般に、ウォーターフォール型開発は、企画、要件定義、基本設計、詳細設計、開発、単体・結合テスト、システムテストという性質の異なる工程を経て行われます。ここでは、たとえば、要件定義工程については準委任契約の性質を有し、開発工程については請負契約の性質を有すると考えることができます。
他方で、アジャイル開発は、開発対象を小さな機能に分割して、要件定義からテスト・リリースまでの開発工程を、機能を単位とした小さいサイクルを反復させる方法で開発していくという方法です。一般的に、アジャイル開発は、開発プロセスのなかで開発する機能の追加・変更やその優先順位の変更が常に行われるため、契約を締結する段階で、システムベンダが達成すべき結果が明確になっていないため、請負契約はなじまず、準委任契約であると解されることが多いです。
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