• 2024.01.24
  • 一般企業法務

国内外の投資家による出資手続 ~DES(Debt Equity Swap)~

近久憲太

執筆者情報

近久憲太Kenta Chikahisa

栗林総合法律事務所のアソシエイト弁護士。
国際取引に関する契約書の作成・リーガルチェック、クロスボーダーM&A、
国際紛争解決、国内外での訴訟、一般企業法務などの業務を取り扱っている。

はじめに

新規事業の立ち上げ等を行う際には、出資、融資、補助金・助成金等の資金調達方法が考えられます。新規事業の立ち上げ時において、金融機関からの融資や、国からの補助金・助成金等を受けることが困難である場合には、国内外の投資家から出資を受けることによって資金調達を行うことが考えられます。ただし、実際に国内外の投資家から出資を受ける際には、国内外の様々な法令等による規制が存在しておりますので、それらの法令等に反することがないように、慎重に各手続を進めていく必要があります。

本コラムでは、まず、通常の出資手続(金銭の出資による新株発行手続)に関してご説明させていただいた後に、DESによる出資手続(貸付債権の株式振替による新株発行手続)についてご説明させていただいております。

金銭の出資による新株発行手続

金銭の出資による新株発行手続とは

まず、新株発行とは、資金調達のために株式会社が株式を発行することをいいます。株式会社による資金調達の方法としては、株式や新株予約権を発行する直接金融の方法と、社債の発行や銀行からの借入による間接金融の方法があります。社債や銀行借り入れについては借入金の返済義務があるのに対して、株式や新株予約権については、出資金の返還義務がないことが特徴となります。

第三者割当増資とは、特定の第三者に対して株式の割り当てを行う場合をいいます。割り当てられる者が従前の株主である場合であっても、全ての株主に対して平等に割り当てられるのでない限り、第三者割当増資に該当することになります。

新株発行手続の詳細については、当事務所のコラム「新株発行手続き」をご参照ください。

外為法に基づく日本銀行への届出・報告

外為法に基づく日本銀行への事前届出

外国投資家(外国法令に基づいて設立された法人等)が、日本国内の非上場会社の株式を取得する場合において、投資先が営む業種に指定業種(対内直接投資等に関する命令(直投命令)第三条第三項の規定に基づき財務大臣及び事業所管大臣が定める業種)に属する事業が含まれる場合、外国投資家は、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき、出資の履行手続に先立って、日本銀行への事前届出を行う必要があります。

外国投資家が外為法に基づいて日本銀行への事前届出を行う必要がある場合において、当該外国投資家が日本に居住していない場合には、日本に居住している者が、外国投資家の代理人として、日本銀行への事前届出を行うことになります。

外為法に基づく日本銀行への事前届出については、出資の履行日前6か月以内に行う必要があります。外国投資家が日本国内の非上場会社の株式を取得する場合、外国投資家(またはその代理人)は、「株式、持分、議決権若しくは議決権行使等権限の取得又は株式への一任運用に関する届出書(1)」を作成の上、日本銀行への届出を行うことになります。

外国投資家による出資の履行手続については、原則として、日本銀行が届出書を受理した日から起算して30 日を経過するまで(以下「禁止期間」といいます。)は、届け出た取引または行為を行うことができません。ただし、その禁止期間は、日本の安全等を損なう事態を生ずる対内直接投資等に該当しない場合には、短縮される場合があり、届出を行った日の翌日から数えて、最短4営業日が経過した日に審査が完了する場合もあります。

一方で、届け出た事項が、日本の安全等の面で支障があると認められた場合、財務大臣および事業所管大臣は、その投資内容の変更や中止を勧告することができ、このための審査期間として、禁止期間が最長5か月まで延長される場合もあります。

審査が完了した届出の取引または行為は、日本銀行が公示する取引または行為を行うことができる日以降(禁止期間経過後)であれば、届け出た内容の限りにおいて、「受理年月日」から 6か月間の期間中、いつでも実行することができます。

外為法に基づく日本銀行への事後報告

外為法に基づく日本銀行への事前届出が必要ない場合であっても、日本銀行への事後報告を行う必要がある場合があります。

具体的には、外国投資家が日本国内の非上場会社の株式を取得する場合において、(1)外国投資家の国籍および所在国が日本または別表掲載国であること、(2)投資先が営む事業に指定業種に属する事業が含まれないこと、または事前届出免除制度を利用していること、(3)イラン関係者により行われる行為以外であること、という全ての条件も満たす場合で、かつ外国投資家が株式引受けを行った翌日に当該外国投資家の実質株式ベースの出資比率または実質保有等議決権ベースの議決権比率が密接関係者と合わせて10%以上となった場合等には、外為法に基づく日本銀行への事後報告を行う必要があります。

事後報告が必要となる業種は多岐にわたるため、外国人投資家による出資の履行に際しては、多くの場合において、日本銀行への事後報告が義務付けられることになります。日本銀行への事後報告については、出資の履行を行った日から45日以内に行う必要があります。

外国投資家による出資手続に伴う日本銀行へ事前届出・事後報告等の詳細については、当事務所のコラム「対内直接投資等にかかる事前届出」をご参照ください。

株主総会手続

新株の発行手続を行うためには、株式発行会社が非公開会社(定款上、全ての発行株式について譲渡制限が定められている株式会社)である場合、「募集事項の決定」および「総数引受契約の承認」に関する株主総会手続を行う必要があります(会社法199条2項、205条2項)。一方で、株式発行会社が公開会社(譲渡制限のない株式を1株以上発行している会社)である場合には、取締役会決議をもって新株を発行することが可能ですが(会社法201条1項)、有利発行に該当する場合には株主総会の特別決議が必要となります(会社法201条1 項・199条3項・309条2項5号)。

また、株式発行会社が一人会社(株主が1人である会社)である場合には、書面決議(みなし決議)により、株主総会手続を行うことができます。書面決議とは、株主総会の決議事項について、議決権を有する全株主の書面による同意があった場合は、株主総会の決議があったものとみなす制度です。書面決議によって株主総会手続を行う場合、まず、株主による提案書兼同意書および株主総会議事録を作成する必要があります。提案書兼同意書とは、株主が株主総会決議事項についての提案を行い、その提案内容に株主が同意したことが記載された書面になります。したがって、書面決議(みなし決議)の場合には、株式発行会社の代表者が、募集事項の決定および総数引受契約の承認に関する「株主による提案書兼同意書」および「臨時株主総会議事録」等の書類に押印を行えば、募集事項の決定および総数引受契約の承認に関する株主総会手続は完了することになります。

募集事項の通知・公告

株式発行会社が公開会社である場合には、出資の履行日の2週間前までに、株式に係る募集事項を通知または公告する義務があります(会社法201条3項・4項)。一方で、株式発行会社が非公開会社である場合には、公開会社と異なり、上記の通知または公告義務は課せられておりません。

また、株式発行会社は、通常、募集株式の割当てにおいて、現物出資の履行日の2週間前までに、申込者に対する割当ての通知を行う義務を負います(会社法204条3項)。ただし、募集株式を発行する会社が、株主となる者(募集株式の引受人)との間で、総数引受契約を締結した場合、上記の通知手続を省略することができます(会社法205条1項)。

総数引受契約の締結

総数引受契約とは、株式発行会社が、株主となる者(募集株式の引受人)をあらかじめ決めた上で、株式発行会社と株主となる者の間で、募集株式の引受けに関する合意を行う契約のことをいいます。

平成26年の会社法改正において、譲渡制限株式について総数引受契約を締結する場合には、株主総会の特別決議(取締役会設置会社にあっては取締役会の決議)によって総数引受契約の承認を受けなければならないとされました(会社法205条2項)。ただし、定款に別段の定めがある場合には定款の定めによることとされていますので、定款において承認機関を代表取締役と定めた場合には、総数引受契約について代表取締役の承認を受けることになります(会社法205条2項ただし書)。

出資の履行に関する手続

出資の履行手続

株主となる者は、払込期日(または払込期間の末日)までに、株式発行会社の指定した口座に出資金額の払い込みを行う必要があります。

株主となる者が外国投資家である場合、日本円ではなく、米ドル(USD)等の外貨による払込みを行う必要がある場合があります。新株発行における出資の履行に際しては、日本円ではなく、米ドル等の外貨による払込みを行うことも可能です。

新株発行における出資の履行において外貨による払込みを行う場合、いくつかの方法が想定されますが、1つの方法として、株主による提案書兼同意書・臨時株主総会議事録・総数引受契約書等に記載する払込金額を払い込みが行われる外貨で記載した上で、株主となる者は、出資金の払い込みを当該外貨で行い、株式発行会社は、払い込まれた出資金を当該外貨のままで受け取ることが考えられます。

この場合、資本金については日本円で登記を行う必要がありますので、外貨による払込みを行う場合には、出資金が株式発行会社の口座に振り込まれた日(入金された日)の為替レートによって計算される日本円の総額が、増資される資本金の額になります。

例えば、仮に株主となる者が、出資金10万ドルの履行として、2月5日に5万ドル、2月8日に5万ドルを、株式発行会社の指定する口座に振り込み、2月5日の為替レートが1ドル=150円、2月8日の為替レートが1ドル=140円だったとします。その場合、株式発行会社の資本金の増資額は、振込日の為替レートを踏まえて、以下の通りとなります。

【計算式】
2月5日:50,000ドル×150円=7,500,000円
2月8日:50,000ドル×140円=7,000,000円
資本金の増資額:7,500,000円+7,000,000円=14,500,000円

上記の方法による場合、出資金が株式発行会社の指定する口座に振り込まれた日の為替レートによって計算される日本円の総額が、増資される資本金の額となりますので、資本金の額が切りの悪い額になってしまう可能性が高くなります。

一方で、上記の方法による場合、株主総会手続や日本銀行への届出において、為替変動の大幅な変動によるリスクに対応する必要が無くなります。すなわち、株主総会決議時から出資の履行時にかけて為替レートが大幅に下落した場合等において、外貨による出資額が株主総会で決議した日本円の出資額を下回る事態等は防ぐことができることになります。

外為法に基づく日本銀行への送金に関する報告

海外からの送金を日本の銀行の口座で受領する場合において、1回あたりの送金額が3000万円相当額を超える場合、送金を受領した日本居住者は、外為法に基づき、日本銀行に対して送金に関する報告を行う必要があります。

ただし、海外から、1回あたりの送金額が3000万円相当額を超える送金を受けた場合、送金を受領した日本居住者から送金を受領した銀行に連絡することによって、通常、銀行の担当者から報告書の作成方法等に関するサポートを受けることができます。したがって、海外から、1回あたりの送金額が3000万円相当額を超える送金を受ける場合には、事前に送金予定先の銀行に連絡を行い、報告書の作成等についてご相談されておくことが望ましいと考えられます。

外為法に基づく日本銀行への実行報告

外為法に基づく日本銀行への事前届出を行った外国投資家が、「株式、持分、議決権もしくは議決権行使等権限の取得又は処分、株式への一任運用その処分をしたとき」は、45 日以内に、直投命令に定められた様式により、日本銀行を経由して財務大臣および事業所管大臣に報告する必要があります。したがって、外為法に基づく日本銀行への事前届出を行った外国投資家(またはその代理人)は、出資の履行完了後45 日以内に、日本銀行に対して、実行報告書を提出することになります。

株主名簿の記載手続

新株株式の発行に伴って、株式発行会社の株主名簿に募集株式の引受人を追記する必要があります(会社法132条1項1号)。

資本金の変更(増資)に関する登記手続

新株株式の発行に伴って、株式発行会社の発行済株式数・資本金の額に変動が生じることになりますので、新株株式の効力発生日(出資の履行日)から2週間以内に、法務局において、募集株式発行に関する登記手続を行う必要があります(会社法915条1項)。

非公開かつ取締役会非設置である会社が、総数引受契約によって、通常の新株発行手続を行った場合には、登記申請用として、以下のような書類を準備する必要があります。

  • 変更登記申請書
  • 株主リスト
  • 株主総会議事録(募集事項の決定・総数引受契約の承認に関する議事録)
  • 総数引受契約書
  • 払込証明書
  • 取引明細書(払込証明書に合わせて綴じることになります)
  • 資本金の額の計上に関する証明書
  • 手続委任状(代理人へ登記手続を委任する場合)

また、増資の登記に際しては、登録免許税として、「増加した資本金の額×1000分の7」(最低納付額は30,000円)を法務局に納付する必要があります。仮に、1000万円を資本金とする場合、法務局に納付する登録免許税は70,000円(1000万円×0.007)となります。なお、増資登記に際しては、出資額の2分の1を資本準備金とすることで登録免許税を抑えることも可能です。

DESによる出資手続(貸付債権の株式振替手続)

DES(デット・エクイティ・スワップ)とは

DES(Debt Equity Swap)とは、会社に対して貸付債権を有している債権者が、その債権を債務者である会社の株式に振り替える手続のことで、新株発行手続における出資の履行方法の1つとなります。

通常の新株発行手続の場合、株主となる者は、出資の履行に際して、「金銭」の払い込みを行うことになります。一方で、DESの場合、株主となる者は、出資の履行に際して、自身が株式発行会社に対して有している「貸付債権」を現物出資することになります。

DESを行うメリット

DESによって新株発行手続を行った場合、株式発行会社(貸付債権の債務者)としては、株主となる者(貸付債権の債権者)に対して負っている金銭債務から解放されることになることに加えて、自己資本が増強されますので、会社の財務状況を改善できる可能性があります。また、株主となる者(貸付債権の債権者)としては、株主という立場から会社の経営に関与することや、株式の配当益や売却益等の利益を得ることが可能となります。

また、「2.2 外為法に基づく日本銀行への届出・報告」で記載させていただいている通り、外国投資家(外国法令に基づいて設立された法人や日本に居住していない個人等)が、日本の企業に出資する場合、株式発行会社の事業内容によっては、出資の履行に先立って、外為法に基づく日本銀行への届出を行う必要が生じる場合があります。

外為法に基づく日本銀行への事前届出においては、届出を行った日の翌日から数えて、最短4営業日が経過した日に審査が完了するとされています。しかしながら、日本銀行への事前届出においては、関係省庁により、株式発行会社の親会社や支配株主等についても詳細な調査が行われることになります。そのため、審査完了までに1~2か月を要する場合もあります。

日本銀行による審査が完了するまでは、外国企業や日本に居住していない個人に対して新株の発行手続を行うことは禁止されますので、株式発行会社としては、金銭の出資による新株発行手続の場合、早期に資金調達を行うことができないという不利益を被ることになります。そこで、このような不利益を回避するための手段として、DESが用いられる場合があります。

具体的には、外国投資家と株式発行会社との間で金銭消費貸借契約(Loan Agreement)を締結し、株式発行会社は債務(Loan)として資金調達を行った上で、日本銀行による審査完了後に、DES(貸付債権を株式に振り替える出資方法)によって、新株の発行手続を行うことになります。この方法によって、株式発行会社としては、日本銀行による審査が完了するまでの期間において資金調達ができないという不利益を回避し、早期の資金調達を実現することが可能となります。

金銭消費貸借契約・投資契約の締結

DESによって新株発行手続を行う場合、まず、株主となる者(債権者)と株式発行会社(債務者)との間で、金銭消費貸借契約(Loan Agreement)を締結することになります。その後、株主となる者(債権者)は、金銭消費貸借契約に基づいて貸付金の振り込みを行うことになります。

また、当該貸付債権は、DESによって、将来的に債務者である株式発行会社の株式に振り替えられることが予定されていますので、株式発行会社(債務者)と株主となる者(債権者)との間で、別途、投資契約(Stock Purchase Agreement)を締結することになります。

日本銀行への届出、株主総会手続、募集事項の通知・公告、総数引受契約の締結

日本銀行への届出・報告、株主総会手続、募集事項の通知・公告、総数引受契約の締結については、DESによる場合においても、基本的に、通常の新株発行手続の場合と同様の手続を履行することになります。

DESによる出資の履行手続

貸付債権の現物出資

DESにおける出資の履行手続の場合、株主となる者(債権者)は、募集事項の決定で定めた期間内(会社法199条1項4号)に、株式発行会社(債務者)に対して有している貸付債権を現物出資する必要があります(会社法208条2項)。債権者が自己の有する債権を債務者である会社に現物出資した場合、債権者と債務者の混同(民法520条本文)によって、金銭消費貸借契約(Loan Agreement)に基づく貸付債権は消滅することになります。

現物出資財産の価額証明手続

株主となる者(募集株式の引受人)が現物出資によって出資の履行を行う場合、原則として、株式発行会社は、裁判所に対し、現物出資財産の価額を調査させるため、検査役の選任申立てを行い(会社法207条1項〜3項)、検査役による財産調査を受ける必要があります(会社法207条4項〜6項)。

ただし、以下の5つの場合においては、上記の検査役による調査が免除されています。

  1. 募集株式の引受人に対して割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えない場合(会社法207条9項1号)
    ※例えば、発行済株式の総数が100株である場合においては、現物出資をする新しい株主に対して割り当てる株式の総数が10株までであれば、検査役の調査は不要となります。
  2. 現物出資財産について会社が定めた価額(会社法199条1項3号)が500万円を超えない場合(会社法207条9項2号)
  3. 市場価格のある有価証券(株式や社債など)の市場価格を超えない価額で出資する場合(会社法207条9項3号)
  4. 現物出資財産について会社が定めた価額が相当であることについて、公認会計士や税理士等の証明がある場合(会社法207条9項4号)
  5. 会社に対するすでに弁済期が到来した貸付債権を、当該債権の帳簿価額を超えない価額で出資する場合(会社法207条9項5号)
    ※例えば、ある債権者から会社に対して2000万円を貸付け、すでに弁済期が到来している場合において、この債権者の会社に対する債権の帳簿価額を超えない価額で現物出資財産とする場合においては、検査役の調査は不要となります。

DESの場合、上記⑤(会社法207条9項5号)によって、検査役による財産調査が免除されることが多いと考えられます。なお、会社法207条9項5号によって検査役による財産調査が免除される場合、募集株式発行に関する登記手続の際には、会計帳簿記載額を超えていないことの証明のために、株式発行会社の「会計帳簿」を添付する必要があります(商業登記法56条3号ニ)。

資本金の変更(増資)に関する登記手続

非公開かつ取締役会非設置である会社が、総数引受契約によって、DESによる新株発行手続を行った場合には、登記申請用として、以下のような書類を準備する必要があります。

  • 変更登記申請書
  • 株主リスト
  • 株主総会議事録(募集事項の決定・総数引受契約の承認に関する議事録)
  • 総数引受契約書
  • 資本金計上証明書(出資された債権が資本金に計上されたことの証明書)
  • 総勘定元帳等の会計帳簿(会社法207条9項5号による場合)
  • 手続委任状(代理人へ登記手続を委任する場合)

登記後の資本金を減額する方法(減資手続)

減資手続とは

減資手続とは、会社の資本金を減少させる手続のことをいいます。減資には、「有償減資」と「無償減資」という2つの種類があります。有償減資とは、減資の実施に際して、株主に対する払い戻しも行う手続のことをいい、無償減資とは、減資を実施するに際して、株主に対する払い戻しは行わない手続のことをいいます。ただし、現在の会社法では、株主に金銭等を交付することによって減資を行うという概念が無くなっていますので、現在の会社法における「減資」とは、無償減資(会社財産の減少を伴わない減資手続)のことを意味しています。したがって、現在の会社法の下で有償減資を行う場合には、無償減資を行った上で、増加した「その他資本剰余金」を原資とした剰余金の分配手続等を行うことになります。

減資手続を行うメリット

DESや通常の第三者割当てによる増資の結果として資本金等の額が増加した場合、出資を受けた会社としては、法人住民税の均等割額および外形標準課税の資本割額に関する負担が重くなる可能性があります。また、増資により資本金の額が1億円を超えてしまう場合には、中小企業に該当しないことになりますので、同族会社の留保金課税の適用除外等に関する特例の適用を受けられなくなることになります。

法人住民税の均等割額については、事業年度末時点の資本金等の額および従業員数で判定が行われますので、減資手続によって資本金を減額することにより、上記の税務上の負担増加等の不利益を回避できる可能性があります。そこで、増資を行うことを予定している企業としては、増資手続と合わせて、減資手続を行い、増資した分の資本金を、資本準備金・その他資本剰余金等に振り分けることが考えられます。

金銭の出資による新株発行手続と減資手続を並行して実施する場合

金銭の出資による新株発行手続と減資手続を並行して実施する場合には、以下のような流れで手続が行われることになります。なお、以下の手続においては、外為法に基づく日本銀行への事前届出を要する場合を想定しております。

日程(一例) 株式発行会社における手続
1月初旬 外為法に基づく日本銀行への事前届出
1月中旬 増資・減資・総数引受契約承認に関する株主総会決議
1月中旬 官報公告の申込み(減資を行う際には債権者保護手続として1か月の公告が必要となります)
1月中旬 知れている債権者への個別催告(債権者が存在する場合)
1月中旬~下旬 株主となる者と株式発行会社間の総数引受契約の締結
1月中旬~下旬 官報に資本金の額の減少公告が掲載(①)
2月初旬以降 日本銀行の事前審査手続完了(②)
2月中旬~下旬
(①から1ヵ月後)
債権者保護手続の期間満了(③)
2月中旬以降
(②③完了後)
株主となる者による出資の払込み(④)
④から10日以内 3000万円以上の海外送金に関する報告書の提出
④から14日以内 増資・減資に関する登記申請
④から45日以内 外為法に基づく日本銀行への実行報告

 

DESによる新株発行手続と減資手続を並行して実施する場合

DESによる新株発行手続と減資手続を並行して実施する場合には、以下のような流れで手続が行われることになります。なお、以下の手続においては、外為法に基づく日本銀行への事前届出を要する場合を想定しております。

日程(一例) 株式発行会社における手続
1月初旬 外為法に基づく日本銀行への事前届出
1月中旬 株主となる者と株式発行会社間の金銭消費貸借契約(Loan Agreement)の締結
1月中旬 増資・減資・総数引受契約承認に関する株主総会決議
1月中旬 官報公告の申込み(減資を行う際には債権者保護手続として1か月の公告が必要となります)
1月中旬 知れている債権者への個別催告(債権者が存在する場合)
1月中旬~下旬 株主となる者と株式発行会社間の総数引受契約の締結
1月中旬~下旬 株主となる者(債権者)による貸付金の払込み(①)
1月中旬~下旬 官報に資本金の額の減少公告が掲載(②)
①から10日以内 3000万円以上の海外送金に関する報告書の提出
2月初旬以降 日本銀行の事前審査手続完了(③)
2月中旬~下旬
(②から1ヵ月後)
債権者保護手続の期間満了(④)
2月中旬以降
(③④完了後)
DESによる出資の履行手続(⑤)
⑤から14日以内 増資・減資に関する登記申請
⑤から45日以内 外為法に基づく日本銀行への実行報告

 

資本金の変更(減資)に関する登記手続

増資登記と減資登記を同時に行う場合(増資する資本金全額を減資する場合)、登記後の資本金の額は、手続の前後で変わらないことになりますが、その場合でも増資登記と減資登記は両方行う必要があります。

増資登記と減資登記を両方行う場合における「登録免許税」(法務局に納める費用)については、次の金額の合計額になります。

  1. 増資登記:増加した資本金の額×0.007(最低納付額は30,000円)
  2. 減資登記:30,000円

非公開かつ取締役会非設置である会社が、減資手続を行った場合には、登記申請用として、以下のような書類を準備する必要があります。

  • 変更登記申請書
  • 株主リスト
  • 株主総会議事録(または取締役決定書(会社法447条3項・同1項の場合))
  • 公告をしたことを証する書面(公告が掲載された当該官報の紙面の原本)
  • 債権者に個別催告をしたことを証する書面
  • 手続委任状(代理人へ登記手続を委任する場合)

当事務所が提供できるサービス

新規事業の立ち上げ等に際して、国内外の投資家から出資を受けたいとお考えの方も多いのではないかと思われます。当事務所では、国内外の投資家による出資手続や、減資に関する手続等のサポートに対応しております。皆さまのご事情等をお聞きした上で、ご希望に則した手続をご提案させていただきます。国内外の投資家からの出資手続や、減資に関する手続等でお困りの際は、是非、当事務所にご相談ください。

当事務所にご相談いただく際は、TEL:03-5357-1750(受付時間9:00~18:00)にお電話いただくか、メールフォーム(「https://kslaw.jp/contact/」)にて、お気軽にお問い合わせ下さい。

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