• 2024.02.16
  • 一般企業法務

株主総会検査役の選任

株主総会検査役の選任について

株式会社又は総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主(公開会社においては、6か月前から引き続き株式を保有する株主)は、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対して、株主総会検査役の選任の申立てをすることができます(会社306条1項・2項)。

株主総会検査役制度の機能

株主総会検査役は、取締役と株主が対立している場合等、株主総会が紛糾することが予想される場合に、株主総会の手続が適正に行われているかを調査・記録することを職務としており、それによって以下のような効果があると考えられています。

証拠保全機能

株主総会が行われた後日、招集手続や決議方法の適法性が問題となり、株主総会決議取消訴訟や株主総会決議不存在確認訴訟等、株主総会の瑕疵を争う訴訟となった場合に備え記録を残すという証拠保全の機能があります。

違法抑止機能

裁判所により選任された検査役が調査・記録を行っていることにより、株主総会の運営を行う会社側において、違法ないし不公正な手続が行われることが事前に抑止される、という違法抑止の機能を有しています。

株主総会検査役の選任申立手続

株主総会検査役の申立は、会社非訟事件であるため、同手続に関する申立書には、申立ての趣旨及び原因のほか、申立てを理由付ける事実や申立てを理由付ける具体的な事実ごとの証拠等を記載する必要があります(会社法非訟規則2条1項・2項3号)。

申立権者

株主総会検査役の選任を申し立てることができるのは、会社自身のほか、総株主の議決権の1%以上の議決権を保有する株主に限られます(会社法306条1項)。
なお、公開会社における株主の場合は、その議決権を6か月前から引き続き保有していることも必要となります(同条2項)。ただし、これらの要件は定款の定めにより緩和することもできます。

申立に必要な書類

株主総会検査役の申立に必要な書類は、一般的には①当該会社の履歴事項全部証明書、②会社の定款、③株主名簿等、株主構成が分かる書類、④株主総会招集通知等となります。

申立に必要な書類は多くありませんが、以下の理由から迅速に書類を収集し申立手続を行うことが必要となる場合が多く見られます。

株主総会検査役の選任申立は、議案の内容等から株主総会での対立が予見される場合に行うことが一般的です。そして、取締役等に就任していない限り、株主が株主総会の議案の内容を知るのは招集通知を受領した時となります。

したがって、株主総会検査役の選任申立は株主総会招集通知が送られてから、株主総会の開催がされるまでに行う必要となる場合が多いということになります。
株主総会の招集通知は、公開会社の場合で総会開催日の2週間前、非公開会社の場合で株主総会の日の1週間前(ただし、書面や電磁的方法による議決権の行使を認める場合には、2週間前となります)までに発送することで足りますので、株主総会検査役の選任申立を行う場合、総会当日まで1週間程度の時間しかないことがあり、迅速な対応が必要となります。

管轄

株主総会検査役の選任申立を行う裁判所は、対象会社の本店所在地を管轄する地方裁判所となります。

株主総会検査役の選任決定

総会検査役の選任申立においては、総会検査役選任を必要とする事由の存在(実質的要件)は必要とされていません。裁判所は検査役の選任の申立てがあった場合、これを不適法として却下する場合を除き、総会検査役を選任する必要があります(会社306条3項)。つまり、株式保有数等の形式的要件が満たされたうえで、必要書類が適切に提出され、書面に必要な記載事項が記載されていれば、総会検査役の選任が認められるということとなります。ただし、実務上は、裁判所により審尋期日が指定され、形式的要件の確認が行われたうえで、綿密な調査を要する事項の確認や、調査の方針に関する打合せが行われることが一般的となります。会社自身ではなく少数株主等が総会検査役の選任申立を行った場合には、この審尋期日を開くにあたって、会社の代表者等に連絡がされ、申立人と会社の双方から聴取を行うことがあります。
通常の場合、株主総会検査役には裁判所に選ばれた弁護士が選任されます。

株主総会検査役の業務内容

裁判所により選任された株主総会検査役は、株主総会の招集手続及び決議方法を調査します(会社法306条1項)。なお、会社の取締役や監査役が検査役の調査を妨害したときは、100万円以下の過料に処せられる場合があります(会社法976条5号)。
具体的な調査対象事項は以下となります。

株主総会の招集手続の調査

株主総会検査役は株主総会の招集手続が適正になされたかについて調査を行います。
招集手続の適正さに関する調査の内容は主に、①株主総会の招集決定が取締役会決議によってされているか、②株主総会の招集通知の記載内容が適切であり、必要な資料が添付されているか、③株主総会の招集通知が全ての株主へ適時に発送されているか等となります。これらの調査のため、株主総会検査役は会社に対し、株主総会の招集を決定した取締役会の議事録、株主総会の招集通知、株主総会の発送記録等の資料を提出するよう求めることがあります。

株主総会決議の方法の調査

株主総会検査役は、株主総会決議の方法についても調査を行います。
総会検査役は株主総会に実際に出席し、出席株主の資格、定足数、委任状や議決権行使書面の取扱い、議事運営の状況、説明義務の履行の有無、採決の状況等について調査を行います。株主総会検査役は多くの場合、株主総会の様子をビデオカメラ等で撮影し、株主総会運営の一部始終を記録に残します。議事運営の様子は、文字起こしされ文章として記録が残ります。

株主総会の終了後、株主総会検査役は、調査を行った結果を書面又は電磁的記録により裁判所に報告しなければなりません(会社306条5項)。この際、招集通知、招集通知の発送記録、取締役会議事録、株主総会議事録、議事運営の録音の反訳等を参考資料として添付します。

株主総会検査役の地位・役割について

株主総会検査役の職務は、株主総会が適法に行われるかについて調査を行います。しかし、総会検査役は、申立人ではなく裁判所から選任される立場にあり、公正中立的な目線で株主総会の事実(招集の手続及び決議の方法)を調査・記録して裁判所に報告することが職務となります(会社法306条)。
総会検査役は、株主総会を適正に運営するために監督を行ったり、総会の運営方法について指導するようなことはありません。つまり、株主総会検査役が選任されているので、その株主総会に問題は無いというようなことはありません。

また、当事者から手続の適法性に関して検査役に報告がされたり、検査役が調査の過程で株主総会の手続上の瑕疵を発見したりする場合もあります。しかし、株主総会検査役には、株主総会に関係する事実の適法性等に関する法的判断を行うことは求められていません。総会検査役は、仮に株主総会の瑕疵を認識した場合であっても、冷静に招集手続及び決議方法に違法がないか否かを判断するための事実の調査及び記録を行い、裁判所へ報告することが職務となります。

ただし、総会検査役には、株主総会決議に関する紛争を未然に防止する機能もあると考えられているので、株主総会決議の手続や方法に違法があることが明らかな場合等には、自身の見解を述べることが絶対に許されないわけではないと考えられます。委任状争奪戦が展開されている等、特殊な事情がある場合は、総会検査役が株主総会の開催・運営に関し助言を行うこともあります。

株主総会検査役の報酬

株主総会検査役の報酬は裁判所により決定されます。報酬の金額は一般的に100万円から200万円となります。比較的大規模な会社の株主総会である場合には、総会検査役の業務量が増え、負担も重くなるので報酬は高額になります。他方で、小規模な会社で争いも大きくない場合、報酬は低額になります。

株主総会検査役の報酬については、会社の負担となり(会社法306条4項)、検査役が調査のために要した費用も会社が負担することとされています(民法656条、649条、650条)。ただし、実務上、これらの費用については申立を行う際に申立人が予納することとなっています。

裁判所の命令による株主総会の招集

裁判所は、株主総会検査役に調査させた株主総会決議に取消し、無効、不存在事由になるような瑕疵があり、決議のやり直しをさせるのが妥当と認める場合には、取締役に対し、①一定の期間内に株主総会を招集すること、②検査役の調査の結果を株主に通知することの両方又は一方を命じなければならないとされています(会社法307条1項)。
この場合は、瑕疵があると判断された株主総会決議を再び行う必要があります。

参考事例

少数株主により招集された株主総会において、会社側が検査役の選任を申し立てた事例

この事例では、会社の取締役が取締役としての職務を行わなかったため、取締役として不適切であると考えた株主が、会社に対して株主総会招集請求を行ったうえで、自身で株主総会の招集を行った事例です。これに対し、会社側は、後日、株主総会決議の効力を争うことを前提に、株主総会検査役の選任を申し立て、検査役立会いの元、株主の招集した株主総会が開催されました。

従前の状況から株主総会後の紛争を予測していた会社が、定時株主総会招集前に自ら総会検査役選任を申し立てた事例

この事例では、会社のM&Aに関連して代表取締役が辞任する、大幅な増配を行うことが取締役会で決議されるなど、会社内で混乱が生じている最中に、定時株主総会の開催期間が到来した事例です。

この事例においてはM&Aについても株主間で賛否が分かれており、株主総会で決議を行ったとしても、後日株主総会の効力が争われる可能性が高いと会社が予測していました。このような理由から、会社側は株主総会の手続を瑕疵の無いように慎重に行ったうえで、招集手続と株主総会当日の運営について株主総会検査役に記録してもらうことで、適法に株主総会決議を行ったことの証拠を残すことを目的に検査役の選任申立を行いました。

当事務所で行うことができるサービス

株主総会検査役を選任する際のサポート

株主総会の招集がされた際に、総会検査役の選任の申立を行うには迅速な対応が必要となります。特に臨時株主総会の場合、大体いつ頃株主総会が行われるのかというような、予測を立てることもできないため、突然の対応が必要となります。当事務所では、株主総会招集通知が発送され、株主総会まで時間がない場合であっても、迅速かつ適切に必要書類をそろえ、申立てを行うことで、株主総会検査役の選任申立に関するサポートを行うことができます。

株主総会検査役を選任した後の株主総会当日の対応に関するサポート

株主総会検査役の選任を行うことに成功した場合でも、総会検査役はあくまで中立的な立場で、総会に関する調査や記録を行うことを職務としているため、申立人の味方となってくれるわけではありません。したがって、株主総会当日に運営側が不適切な運営を行っていた場合であっても、その場で指摘することがないため、株主が不利な立場に置かれることがあります。当事務所は、このような場合においても、株主として、どのような権利を主張できるかや、会社側の義務等を説明し、可能であれば株主総会に同席することで株主のサポートを行うことが可能となります。

株主総会検査役が選任された場合における株主総会運営に関するサポート

当事務所においては、株主総会検査役の選任がされた場合における株主総会の運営におけるサポートを行うことも可能となります。株主総会検査役の選任がされた場合、招集手続や、運営の方法は全て検査役が記録に残すため、不適切な方法で決議を行った場合には、その証拠が残ることとなります。したがって、株主総会検査役が選任された場合には、通常以上に慎重に株主総会の開催を行う必要があります。当事務所では、このような場合において、株主総会の事務方として適法な株主総会運営のサポートを行うことが可能です。

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