• 2024.08.02
  • 一般企業法務

新株発行の効力を争う方法

近久憲太

執筆者情報

近久憲太Kenta Chikahisa

栗林総合法律事務所のアソシエイト弁護士。
国際取引に関する契約書の作成・リーガルチェック、クロスボーダーM&A、
国際紛争解決、国内外での訴訟、一般企業法務などの業務を取り扱っている。

はじめに

会社内において経営権争いが生じている場合や、株主間で対立が生じている場合等には、現経営陣や株主等によって、対立する取締役や株主を不当に手続から除外する形で、新株の発行手続が実施されることがあります。そのような場合には、不当な手続によって新株発行がなされることを防ぐため、新株発行の効力発生前において、新株発行の差止めに関する仮処分命令を取得することが考えられます。また、すでに新株発行の効力が発生している場合には、新株発行の効力を訴訟で争うことにより、新株発行の無効や不存在に関する判決を取得することが考えられます。

本コラムでは、新株発行の効力発生「前」に取りうる手段と、新株発行の効力発生「後」に取りうる手段について、各手段を取りうる場合や、仮処分・判決等を得た場合の効力等を記載しております。

新株発行の効力発生前に取りうる手段

新株発行の効力発生前において、新株発行がなされることを防ぐための手段としては、「仮の地位を定める仮処分」の申立てを行うことが考えられます。

仮処分とは、民事保全手続の1つに分類される手続のことをいいます。訴訟の提起から判決の取得までの間には、通常1~2年程度の時間を要することになります。その間において、不当な新株発行を前提とした手続が積み重ねられてしまっている場合、仮に勝訴判決を得たとしても、そこから回復を図ることが現実的には困難な場合があります。そこで、判決に先立って、債務者の財産の保全や暫定的な措置を定める手続のことを、民事保全手続といいます。

そして、仮の地位を定める仮処分とは、争いがある権利関係について、裁判所に対し、暫定的な措置を命ずることを求める仮処分のことをいいます。新株発行に関する「仮の地位を定める仮処分」としては、新株発行差止めの仮処分があります。以下では、仮処分の内容や効力等について記載しております。

新株発行差止めの仮処分とは

新株発行差止めの仮処分とは、裁判所に対し、暫定的な措置を命ずること(債権者である株主との関係で、当該新株の発行を禁止すること)を求める仮処分のことをいいます。

新株発行差止めの仮処分を行う目的

新株発行が、法令・定款に違反する場合または著しく不公正な方法により行われる場合で、かつ株主が不利益を受けるおそれがある場合には、株主は、新株の発行会社に対し、新株発行を止めることを請求することができます(会社法210条)。この会社法上の差止請求権は、新株発行の効力が生ずる時点まで行使することができます。

新株発行の効力は、会社法209条に定めに従って株式引受人が株主となる時点(e.g. 払込期日を定めた場合は当該期日、払込期間を定めた場合は出資の履行日)に生じるとされています。訴訟の提起から判決の取得までの間には、通常1~2年程度の時間を要することになりますので、差止請求によって争っている間に、株式引受人が株主となってしまう可能性が高く、株式引受人が株主となってしまった場合、差止請求は訴えの利益(訴訟要件)を欠くとして、却下されてしまうことになります。

このような事態を防ぐため、実務上は、新株発行差止めの仮処分(民事保全法23条 2項)により、差止めを求めることになります。仮処分は、あくまで本案訴訟の判決が下るまでの間における暫定的な措置を定める手続ですが、新株発行差止めの仮処分が命じられた場合、会社は新株発行を中止する必要がありますので、紛争の主戦場が本案訴訟ではなく、仮処分(民事保全手続)となり、仮処分命令によって事実上の決着がなされるケースも多く存在しております。

新株発行差止めの仮処分における債権者(申立人)・債務者(被申立人)

新株発行差止めの仮処分における債権者(申立人)は、法令・定款違反または著しく不公正な方法により行われる新株発行によって、不利益を受けるおそれがある「株主」になります。取締役の違法行為差止請求権(会社法360条)等と異なり、新株発行差止めの仮処分の債権者である「株主」については、株式数や株式の保有期間による制限は定められておりません。

新株発行差止めの仮処分における債務者(被申立人)は、当該新株発行を行う「会社」になります。当該会社の取締役や従業員等を、債務者(被申立人)にすることはできないと解されております。

新株発行差止めの仮処分が認められるための要件

仮処分が認められるためには、①被保全権利(保全すべき権利または権利関係)が存在していること、②保全の必要性があることを疎明する必要があります。

新株発行差止めの仮処分においては、①被保全権利として、会社法210条の差止請求権を有することを疎明することになります。具体的には、Ⓐ法令・定款に違反する方法または著しく不公正な方法によって新株発行がなされたこと、Ⓑ株主が当該新株発行によって不利益を受けるおそれがあることを疎明する必要があります。

②保全の必要性としては、争いがある権利関係について申立人に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるために仮処分命令が必要であることを疎明する必要があります。

新株発行が法令・定款違反する場合(要件①Ⓐ)

新株発行における法令違反としては、以下のような場合が想定されます。

  • 公開会社における取締役会決議の不存在(会社法201条1項・199条2項・202条3項3号)
  • 非公開会社における株主総会特別決議の不存在(会社法199条2項・202条3項4号・309条2項5号)
  • 払込金額が特に有利な金額である場合(有利発行の場合)の株主総会特別決議の不存在(会社法201条1項・199条2項・3項・309条2項5号)
  • 種類株式発行会社における種類株主総会決議の不存在(会社法199条4項)
  • 募集事項に不均等がある場合(会社法199条5項)
  • 募集事項に関する株主への通知・公告の懈怠(公開会社が取締役会決議によって新株発行を行う場合)(会社法201条3項・4項)
  • 譲渡制限株式の割当てにおける株主総会特別決議(取締役会設置会社では取締役会決議)の不存在(会社法204条2項・309条2項5号)
  • 現物出資の場合における検査役選任の懈怠(会社法207条1項)

なお、取締役の善管注意義務違反(民法644条、会社法330条)や、忠実義務違反(会社法355 条)等の抽象的な義務違反については、要件①Ⓐの法令違反に該当しないとされています。

払込金額が特に有利な金額である場合(有利発行)の詳細については、当事務所のコラム「新株発行手続き」をご参照ください。

新株発行における定款違反の例としては、以下のような場合が想定されます。

  • 定款所定の発行可能株式総数(会社法37条1項・113条)を上回る新株発行
  • 定款で株主に付与した募集株式の割当てを受ける権利に反する新株発行
  • 定款に定めのない種類の新株発行

 

新株発行が著しく不公正な方法である場合(要件①Ⓐ)

不当な目的を達成する手段として新株発行がなされる場合には、「新株発行が著しく不公正な方法により行われる場合」(要件①Ⓐ)に該当することになります。不当な目的とは、反対派の少数株主権を排除する目的、取締役が議決権の過半数を維持・争奪する目的、会社支配権を維持・争奪する目的等が該当することになります。

不当な目的と正当な目的(資金調達目的等)が併存している場合には、正当な目的(資金調達目的等)が不当な目的に優越しているといえるか否かによって判断されることになります。これは裁判に用いられているルールで、「主要目的ルール」と呼ばれています。

主要目的ルールの適用が問題になった裁判例としては、主に以下のものがあります。

1 忠実屋・いなげや事件(東京地決平成元年7月25日)

秀和が、忠実屋及びいなげやの株式を大量に取得した上で、3社合併を提案したのに対し、忠実屋及びいなげやが、相互に新株を発行し合う第三者割当増資を行う形で対抗したことに伴って、秀和が新株発行差止めの仮処分申立てを行って争った事件になります。

本事件は、敵対的買収に対して第三者割当増資を用いた防衛手段を講じることの是非が裁判で争われた初の事案となりました。裁判所は、会社の支配権に争いがある場合に、特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的として新株発行が行われるときは不公正発行になるという、主要目的ルールを示したうえで、本件新株発行は現経営陣の支配権維持のためになされるものであるから不公正発行に当たり、差止めが認められると判示しました。

2 ベル・システム24事件(東京高決平成16年8月4日)

経営陣と対立していた株主(筆頭株主)から取締役の変更を求める議案が提案された後に、会社が、業務提携のために資金調達の必要があるとして、大規模な第三者割当増資を決議したことに対し、新株発行の差止請求がなされた事件になります。

本事件では、事業計画のために新株発行による資金調達の必要性があり、事業計画にも合理性が認められる場合には、仮に新株発行に際して経営陣の一部に既存株主の持株比率を低下させて支配権を維持する意図があったとしても、支配権の維持が新株発行の唯一の動機ではなく、その意図するところが会社の発展や業績の向上という正当な意図に優越するものではない場合には、不公正発行に当たらないという判断基準が示されました。そして、裁判所によって、資金調達の必要性に関する詳細な事実認定が行われ、会社の現経営陣の一部が自らの支配権を維持する意図を有していたことは否定できないとしながらも、会社の発展や業績向上という正当な目的に優越するとは認められないとして、不公正発行にはあたらず、差止請求は認められないと判示されました。

3 ニッポン放送事件(東京高決平成17年3月23日)

敵対的買収に対する防衛策として、ニッポン放送が新株予約権の第三者割当てを行ったことに伴い、ニッポン放送による新株予約権発行の差止請求がなされた事件になります。この事件においては、主要目的ルールについて以下の判断基準が示されています。

原則(差止めが認められる場合)

現経営者が自己の信じる事業構成の方針を維持するために、株主構成を変更すること自体を主要な目的として新株発行をすることは原則として許されないというべきである。現に経営支配権争いが生じている場面において、経営支配権の維持・確保を目的とした新株予約権の発行がされた場合には、原則として、不公正な発行として差止請求が認められるべきである。

例外(例外的に差止めが否定される場合)

株主全体の利益の保護の観点から当該新株予約権発行を正当化する特段の事情があること、具体的には、敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情(例外事由)があることを、会社が疎明・立証した場合には、新株予約権発行の差止めは認められない。

東京高裁は、例外事由として下記の例を挙げ、本件事案は例外事由に該当しないとして差止めを認めました。

  • 買収の対象となる企業やその関連会社の株式を買収者に高値で売却する目的(いわゆるグリーンメーラー)である場合
  • 会社の知的財産権、ノウハウ、秘密情報、主要取引先や顧客等を買収者に移譲させる目的である場合
  • 会社資産を買収者の弁済等に流用する目的である場合
  • 会社事業に当面関係しない高額資産等の売却等による、一時的な高配当や株価急上昇の機会を狙って株式を高値で売却する目的である場合

 

4 ブルドックソース事件(最決平成19年8月7日)

本事件では、買収者が全株式を取得する目的で公開買付けの実施を決定したのに対し、会社が対抗策として、当該買収者及びその関係者にのみ不利な内容の差別的行使条件・取得条件が付された、新株予約権の株主無償割当てを行うことを決議しました。これに対して、新株予約権発行差止め等の仮処分が申し立てられた事件になります。

裁判所は、本事件において、株主への新株予約権の無償割当てに株主平等原則の趣旨が及ぶとの考えを示したうえで、「特定の株主による経営支配権の取得に伴い、会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない」との判断基準を示しました。

そして、裁判所は、本事件における新株予約権の無償割当てが、株主総会において、買収者による経営支配権の取得に伴う企業価値の毀損を防ぎ、会社の利益ひいては株主の共同の利益の侵害を防ぐために必要な措置として、既存株主の大多数の賛成を得ていること等を踏まえ、専ら支配権を維持する目的があったとはいえず不公正発行に該当しないとして、新株予約権発行差止めは認められないと判示しました。

株主が新株発行によって不利益を受けるおそれがある場合(要件①Ⓑ)

新株発行によって株主が受けるおそれのある不利益の定義については争いがありますが、新株発行差止めの仮処分手続は、会社ではなく、株主個人の利益を保全するための手続であることや、債権者(申立人)である株主に対して株式の保有期間要件を課していないこと等から、会社に不利益が生じているだけで株主個人に不利益は生じていない場合や、会社の利益が侵害される結果として間接的に株主が不利益を被る場合には、本要件該当性を欠くと考えられます。一方で、新株発行によって持株比率が低下する株主については、新株発行によって直接的に株主個人が不利益を被ることになりますので、本要件該当性が認められると考えられます。

保全の必要性(要件②)

新株発行差止めの仮処分のような仮の地位を定める仮処分については、仮処分が認められた場合、債権者(申立人)である株主が、本案訴訟で勝訴した場合に近い内容の満足を得られることから、通常、保全の必要性については、証明に近い高度の疎明が求められます。しかしながら、新株発行差止めの仮処分においては、新株発行の効力発生後において権利を行使することができなくなることから、新株発行が自発的に中止されるような場合を除き、実務上、保全の必要性を欠くと判断がなされることはあまりありません。

新株発行差止めの仮処分の効力

裁判所によって新株発行差止めの仮処分決定が下された場合、債務者(被申立人)である会社は、債権者(申立人)である株主との関係で、当該新株発行を行うことが禁止されることになります。しかし、新株発行差止めの仮処分決定が下されたにもかかわらず、債務者(被申立人)である会社が、当該決定に反して当該新株発行を行う場合があります。

この点について、最高裁は、仮処分命令に違反したことが新株発行の効力に影響がないとすれば、差止請求権を株主の権利として認め、仮処分命令を得る機会を株主に与えることによって差止請求権の実効性を担保しようとした法の趣旨が没却されてしまうとして、新株発行差止めの仮処分命令に違反した新株発行には無効原因が存在するとしています(最判平成5年12月16日)。したがって、会社が新株発行差止めの仮処分命令に違反して当該新株発行を実行した場合、債権者(申立人)である株主は、会社に対して、新株発行無効の訴え(会社法828条1項2号)を提起し、当該新株発行が無効であることを主張することになります。

新株発行の効力発生後に取りうる手段

不当な手続や決議内容によって、すでに新株発行の効力が発生している場合には、新株発行手続や決議内容に関する瑕疵を訴訟で争うことが考えられます。新株発行の効力発生「後」において、新株発行の効力を争う訴訟手続としては、新株発行無効の訴え、新株発行の不存在の訴えの2つが用意されています。以下では、各訴訟手続の内容や効力等について記載しております。

新株発行無効の訴え

新株発行無効の訴えとは

新株発行無効の訴えとは、新株発行手続に瑕疵がある場合において、当該新株発行の効力発生後から一定期間内に、当該新株発行が無効であることを主張する訴えのことをいいます(会社法828条1項2号)。新株発行には、新株予約権を行使したことによる新株発行も含まれます。

新株発行無効の訴えにおける訴訟要件

① 原告適格

新株発行無効の訴えを提起することができるのは、新株を発行した会社の株主、取締役、監査役、清算人、執行役に限られます。原告適格は、訴え提起時だけではなく、訴訟継続中にも存在している必要があります。なお、新株発行後において当該会社の株主になった者についても原告になりうるとされています。

② 被告適格

新株発行無効の訴えの相手方(被告)は、当該新株発行をした会社になります。

③ 出訴期間

新株発行無効の訴えの出訴期間は、以下のとおりとなります。

公開会社 非公開会社
新株発行の効力が生じた日から6か月以内 新株発行の効力が生じた日から1年以内

※ 非公開会社とは、定款において全株式に譲渡制限が付されている会社をいいます。
※ 新株発行の効力が生じた日とは、払込期日の翌日のことを意味します。

出訴期間については、客観的に判断されることになります。すなわち、仮に、原告(株主等)が新株発行の事実を知らなかった場合であっても、新株発行の効力が生じた日から6か月(非公開会社の場合は1年)が経過した場合には、原則として、新株発行無効の訴えは提起できないことになります。

ただし、会社が新株発行に係る登記を怠っていた場合や、会社が隠ぺい工作を図ったこと等により原告(株主等)が新株発行の事実に気づくことが困難であった場合には、例外的に、出訴期間経過後における新株発行無効の訴えの提起が認められる場合もあります(名古屋地判 平成29年9月30日参照)。

新株発行無効の訴えにおける無効事由

新株発行無効の訴えが認められるためには、当該決議の「無効事由」が存在している必要があります。新株発行にどのような事由(瑕疵)があれば、無効事由が存在しているとされるかという点については明文の規定はなく、解釈に委ねられています。会社は新株発行で調達した資金によって事業を行うことになりますので、事後的に新株発行が無効とされた場合、関係当事者の取引に重大な影響を及ぼすおそれがあります。そこで、新株発行無効の訴えにおける無効事由とは、重大な瑕疵(重大な法令・定款違反)に限られると解されています。

無効事由に当たると判断された例

  • 発行可能株式総数を超えた新株発行(東京地判昭和31年6月13日)
  • 定款に定めのない種類の新株発行
  • 新株発行差止めの仮処分命令に違反してなされた新株発行(最判平成5年12月16日)
  • 公開会社において、株主に対する募集事項等の通知・公告がなされなかった新株発行(会社法124条3項、202条4項違反)。ただし、差止事由がないこと会社(被告)が立証した場合には無効事由に当たらないとされています(最判平成9年1月28日)。
  • 公開会社において、新株発行に反対した少数株主要件を満たす株主がいる場合に、株主総会決議を欠いたままなされた新株発行(会社法206条の2第4項違反)
  • 非公開会社において、募集事項を決定する株主総会の特別決議を欠いたままなされた新株発行(会社法202条3項4号違反)(最判平成24年4月21日)
  • 非公開会社において、取締役会の決議により株主割当てで新株発行をする場合に、株主に発行差止請求の機会を与えることなく、募集事項の通知 (会社法202条4項)がなされた新株発行(大阪高判平成28年7月15日)。ただし、差止事由がないこと会社(被告)が立証した場合には無効事由に当たらないとされています。
  • 新株予約権の重要な行使条件に違反してなされた新株発行
  • 代表取締役以外の者によって発行された新株発行

無効事由に当たらないと判断された例

  • 公開会社において、株主総会の特別決議を経ずに、特に有利な払込金額でなされた新株発行(最判昭和46年7月16日)
  • 公開会社において、取締役会決議を経ずになされた新株発行(最判昭和36年3月31日)
  • 著しく不公正な方法でなされた新株発行(最判平成6年7月14日)
  • 募集毎の発行条件が均等でない新株発行(会社法199条4項違反)
  • 仮装された払込みによってなされた新株発行

 

新株発行無効の訴えの効力

新株発行無効の訴えの請求認容判決が確定した場合、当該判決の効力は原告・被告のみならず、第三者に対しても効力が生じることになります(会社法838条)。また、訴えの対象となった新株発行は、将来に向かってその効力を失うことになります(会社法839条)。すなわち、新株発行無効の訴えの請求認容判決は、新株発行が有効であることを前提として判決確定までになされた行為の効力には影響を及ぼさないことになります。

新株発行無効判決が確定した場合、会社は、無効と判断された新株の株主に対し、当該株主が払い込みを行った金額の支払を行うことになります(会社法840条1項)。また、会社の発行済株式総数に変更が生じることになりますので、会社としては、新株発行無効判決が確定した場合、発行済株式総数の変更登記を行う必要があります。

新株発行不存在確認の訴え

新株発行不存在確認の訴えとは

新株発行無効の訴えは、新株発行が実際に行われている(実体がある)一方で、その手続に瑕疵がある場合に、訴えをもって、当該新株発行の無効を主張する制度になります。

これに対して、新株発行不存在確認の訴えは、新株発行がそもそも実体として存在しない場合(不存在の場合)に、訴えをもって、当該新株発行の不存在を主張する制度になります。新株発行が実体として存在しない場合(不存在の場合)の例としては、新株発行手続が全く行われていないにもかかわらず新株発行に係る登記だけが行われている場合や、代表権限のない者が無断で新株発行を行った場合が挙げられます。

新株発行不存在確認の訴えは、どのような方法でも主張することができます。ただし、新株発行が不存在であることを第三者との関係でも確定させたい場合には、新株発行不存在確認の訴えの確定判決を得る必要があります。新株発行不存在確認の訴えの請求認容判決が確定した場合、当該新株発行が不存在であることが第三者との関係でも画一的に確定することになります。

新株発行不存在確認の訴えにおける訴訟要件

① 訴えの利益

原告は、確認の利益を有する必要がありますので、通常、株主でない者は訴えの利益を欠くとされています(最判平成4年10月29日)。

② 原告適格

原告適格に制限はありませんが、上記のとおり、株主でない者は訴えの利益を欠くとされています。

③ 被告適格

新株発行不存在確認の訴えの相手方(被告)は、会社になります。

④ 出訴期間

新株発行不存在確認の訴えについては、出訴期間の制限はありません(最判平成15年3月27日)。

新株発行不存在確認の訴えにおける不存在事由

新株発行不存在確認の訴えが認められるためには、不存在事由が認められる必要があります。どのような場合において不存在事由が認められるかという点については、明文の規定はなく、解釈に委ねられています。

不存在事由に当たる(実体が存在しない)と判断された例

  • 新株発行手続が全く行われていないにもかかわらず新株発行に係る登記だけが行われている場合
  • 代表権限のない者(代表取締役として登記されていない者)が新株発行を行った場合

不存在事由に当たらない(実体が存在する)と判断された例

  • 新株発行の手続的瑕疵が著しい場合(東京高判平成15年1月30日)
  • 代表取締役として登記されているが、実際には代表取締役ではない者によって新株発行がなされた場合

不存在事由に当たるか否かについて争いがある場合

  • 仮装の払込みによって新株発行がなされた場合
    仮装の払込み(見せ金)による新株発行については、払込みという形式は一応存在することから不存在事由には当たらないという見解と、実際には払込みがなされていないことから新株発行の実体はないので不存在事由に当たるという見解が存在しています。

新株発行不存在確認の訴えの効力

新株発行不存在確認の訴えの請求認容判決が確定した場合、当該判決の効力は原告・被告のみならず、第三者に対しても効力が生じることになります(会社法838条)。また、不存在とされた新株発行は、初めから存在していなかったものとみされます。

新株発行の効力を争う方法の比較

  差止めの仮処分 無効の訴え 不存在確認の訴え
訴訟要件 訴えの利益 ①原告適格
 株主、取締役、監査役、清算人、執行役
②被告適格
 会社
③出訴期間
 公開会社:1年
 非公開会社:6か月
①訴えの利益
②原告適格
 制限なし
②被告適格
 会社
③出訴期間
 制限なし
仮処分要件
無効事由
不存在事由
①被保全権利の存在
 (Ⓐ+Ⓑ)
Ⓐ法令・定款違反または著しく不公正な方法であること
Ⓑ株主が当該新株発行により不利益を受けるおそれがあること
②保全の必要性
重大な法令・定款違反が存在する場合 新株発行の外観が存在している一方で、その実体が存在しない場合
仮処分命令・判決の効果 債権者との関係で当該新株発行を行うことが禁止される。仮処分命令に反する新株発行には無効原因が認められる。 対世効:あり
遡及効:なし
対世効:あり
初めから不存在となる

 

当事務所が提供できるサービス

当事務所は、新株発行手続に関する法律相談、新株発行の効力発生前の手続(差止手続等)、新株発行の効力発生後の手続(訴訟手続等)に関するご相談に対応しております。ご相談いただいた際には、新株発行手続に関する状況や、会社の機関設計・株主構成等をお聞きした上で、会社に対して取りうる手段や、それらの手段の実効性・リスク等について検討を行い、適切な手段をご提案させていただきます。新株発行手続等でお悩みの際は、是非、当事務所にご相談ください。

当事務所にご相談いただく際は、TEL:03-5357-1750(受付時間9:00~18:00)にお電話いただくか、メールフォーム(「https://kslaw.jp/contact/」)にて、お気軽にお問い合わせ下さい。

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