• 2022.07.07
  • 一般企業法務

株主総会資料の電子提供制度

近久憲太

執筆者情報

近久憲太Kenta Chikahisa

栗林総合法律事務所のアソシエイト弁護士。
国際取引に関する契約書の作成・リーガルチェック、クロスボーダーM&A、
国際紛争解決、国内外での訴訟、一般企業法務などの業務を取り扱っている。

株主総会資料の電子提供制度に関する改正

令和元年会社法改正によって創設された株主総会資料の電子提供制度(以下「電子提供制度」という。)が令和4年9月1日に施行されることになりました。本稿では、電子提供制度の内容及び施行に向けた準備事項等について解説いたします。

電子提供制度の概要

電子提供制度とは、株主総会資料(株主総会参考書類・議決権行使書面・事業報告・(連結)計算書類)を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主に対し、そのウェブサイトのアドレス等を書面により通知することによって、株主総会資料を提供することができる制度をいいます(会社法325条の2以下)。

電子提供制度の趣旨

従前において、株主総会資料は株主総会の2週間前までに招集通知とともに発送されることとされていましたが、電子提供制度を利用する会社においては、遅くとも株主総会の日の3週間前の日までにウェブサイト上で株主総会資料を閲覧することができることとなります。この制度により、株式会社は印刷や郵送に要する時間や費用を削減することができ、株主は従前よりも早い時期から株主総会資料を検討することが可能になります。

電子提供制度の利用が義務付けられる会社

振替株式の発行会社(上場会社)は、社債、株式等の振替に関する法律159条の2第1項により、電子提供制度の利用が義務付けられています。一方で、振替株式の発行会社(上場会社)以外の株式会社については、機関設計に関係なく自由に電子提供制度を利用するか否かを決定することができますので、非公開会社や取締役会非設置会社であっても電子提供制度を利用することは可能です。

電子提供制度を利用するための手続

電子提供制度を利用するための手続としては、①定款変更手続、②電子提供措置、③株主総会招集通知の送付という手続を行う必要があります。

①定款変更手続(会社法325条の2)

電子提供制度を導入するためには、電子提供措置をとる旨の定款の定めを設けるための定款変更手続を行うことが必要となります(会社法325条の2)。また、登記事項になりますので、定款変更手続とともに登記手続も行う必要があります(会社法911条3項12号の2)。

もっとも、改正の施行日である令和4年9月1日において振替株式を発行している会社については、施行日を効力発生日として、電子提供措置をとる旨の定款変更の決議をしたものとみなす旨の経過措置が設けられています。定款変更の決議をしたものとみなされた会社は、施行日から6か月以内に電子提供措置をとる旨の定款の定めがある旨の登記をしなければなりません。また、定款変更の決議をしたものとみなされた会社の取締役が、施行日から6か月以内に株主総会の招集手続を行う場合における当該株主総会の招集手続については従前どおりの手続で行うことができます。

②電子提供措置

電子提供措置の概要

電子提供制度を利用するためには電子提供措置をとる必要があります(会社法325条の3)。電子提供措置とは、会社が、インターネット上のウェブサイトに株主総会参考書類等の内容を掲載し、株主が閲覧することができる状態にすることをいいます(会社法施行規則95条の2)。電子提供措置は、株主総会の日の3週間前または招集通知の発送日のいずれか早い日から開始し、株主総会の日後3か月を経過する日まで継続して行わなければなりません(会社法325条の3第1項)。

電子提供措置の実施方法

電子提供措置は、印刷可能なものでなければならないとされていますので(会社法施行規則95条の2、222条1項1号ロ、同条2項)、電子提供措置をとるべき事項に関して説明を行う映像や音声等を投稿しただけでは電子提供措置をとっていることにはなりません。電子提供措置の実施に際して映像や音声等を投稿する場合には、合わせて印刷可能な資料も掲載することが必要となります。

電子提供措置をとるべき事項

電子提供措置をとるべき事項は以下になります(会社法325条の3第1項各号)。

  • 招集通知の記載事項(会社法298条1項各号に掲げる事項)
  • 議決権行使書面に記載すべき事項(書面による議決権行使を認める場合)
  • 株主総会参考書類に記載すべき事項(電磁的方法による議決権行使を認める場合)
  • 株主提案に係る議案の要領(株主の議案要領通知請求があった場合)
  • 計算書類及び事業報告(監査報告または会計監査報告を含む)に記載・記録された事項(取締役会設置会社において定時株主総会を招集する場合)
  • 連結計算書類に記載・記録された事項(取締役会設置会社かつ会計監査人設置会社である場合において定時株主総会を招集する場合)
  • 電子提供措置時効を修正したときは、その旨及び修正前の事項

電子提供措置の中断

サーバダウンやハッキング等により、電子提供措置の中断(株主が電子提供措置事項にアクセスできなくなった場合等)が生じた場合においても、以下の要件を全て満たしたときは、電子提供措置の効力に影響を及ぼさないとされています(会社法325条の6)。

  • 中断につき会社が善意無重過失又は正当な事由があること
  • 中断が生じた時間が電子提供措置期間の10分の1以下であること
  • 電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に中断が生じた場合には、中断が生じた時間の合計が当該期間の10分の1を超えないこと
  • 中断が生じたことを知った後速やかに、中断が生じた旨、中断時間及び中断内容について電子提供措置をとること

一方で、法定の電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に中断があり、かつ、上記要件を満たさない場合には、招集手続に瑕疵があることになり、この瑕疵は株主総会決議の取消事由になると考えられます 。

電子提供措置の例外

招集通知に際し、株主に対して議決権行使書面を交付する場合は、例外的に、議決権行使書面の電子提供措置は不要とされています(会社法325条の3第2項)。また、株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集する場合(会社法297条4項)についても電子提供措置は不要とされています(会社法325条の2柱書)。

③株主総会招集通知の送付(会社法325条の4)

電子提供措置を利用している場合においても、招集通知を送付する必要があります。もっとも、電子提供措置を利用する場合における招集通知の記載内容については特則により限定されており、以下の内容を記載すれば足りるとされています(会社法325条の4第2条、会社法施行規則95条の3第1項)。

  • 株主総会の日時及び場所
  • 株主総会の目的事項
  • 書面による議決権行使を認めるときはその旨
  • 電磁的方法による議決権行使を認めるときはその旨
  • 電子提供措置を利用している旨
  • 電子提供措置を利用しているウェブサイトのURL等

株主の書面交付請求権(会社法325条の5)

株主による書面交付請求の方法

インターネットを利用することが困難な株主への配慮として、株主には書面交付請求権が認められています。株主は、会社に対して議決権行使基準日までに請求することにより、株主総会の日の2週間前までに、株主総会資料(電子提供措置事項)について書面の交付を受けることができます。ただし、会社は、電子提供措置事項のうち法務省令で定めるものの全部又は一部について、交付書面への記載を要しない旨を定款で定めることができます(会社法325条の5第3項、会社施行規則95条の4)。

書面交付請求に対する会社の対応策

株主は、一度書面交付請求をすれば、撤回しない限り、その後の株主総会においても書面の交付を請求しているものと取り扱われます。そこで、会社には、書面交付請求が累積していくことに対する対応策として、株主が書面交付請求を行った日から1年が経過したときは、当該株主に対し、書面の交付を終了する旨を通知し、異議があれば1か月以上の催告期間を定めて異議を述べるように催告を行うことが認められています(会社法325条の5第4項)。催告を受けた株主が催告機関に異議を述べなかったときは、当該株主の書面交付請求は効力を失うことになります。ただし、書面交付請求の効力を失った株主が、再度書面交付請求することは可能です。

電子提供措置事項の修正

会社法上電子提供措置を開始しなければならない日(令和4年9月1日)以降は、誤記の修正や電子提供措置の開始後に生じた事情に基づくやむを得ない修正等のみ可能です。電子提供措置事項について修正したときは、修正前の事項についても電子提供措置をとる必要があります(会社法325条の3第1項7号)。

電子提供制度導入に向けた準備

定款変更

定款変更を行う内容としては、以下のものが考えられます。

  1. 電子提供措置をとる旨の規定の新設
  2. 書面交付請求をした株主に対して交付する書面の内容を限定できる旨の規定の新設
  3. 株主総会参考書類等のインターネット開示によるみなし提供に関する規定の削除
  4. 定款変更の効力発生時期等に関する附則

その他の準備

電子提供開始日(株主総会の日の3週間前の日)において、電子提供措置を開始するために実施方法等について事前に確認しておく必要があります。また、電磁的方法による議決権行使の採否や、株主に対する電子提供制度の周知方法、株主からの書面交付請求に対する対応方法等についても事前に検討しておく必要があると考えられます。

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