• 2024.03.04
  • M&A・事業承継

新設分割の方法により実質的事業譲渡を行った事例

事案の概要

当事務所の顧問先Xは、セキュリティ製品の販売をメインとして行うIT企業ですが、従業員は10名程度の小規模の会社でした。Xは多くの代理店など堅固な販売網を有していましたので、毎年1億円以上の安定的な売り上げを有していました。一方で、金融機関から1億円近い借り入れを行っており、財務上の大きな負担となっていました。今回取引先のY社から、X会社の事業のうち、セキュリティ製品の販売に関する事業部門を購入したいとの申し入れがありました。Xの代表者としては、セキュリティ事業に関する事業部門を譲渡し、規模の大きな会社の下で勤務することは従業員の将来にとっても好ましいことであると考えていました。また、事業部門の売却により手にできる現金を用いて現在の借入金の返済を行うことで、借入の負担を軽減したいとの考えもありました。一方で、Xの代表者自身は、IT業界で長く働いており、コンサルタントとして複数の取引先に対するアドバイスを提供しており、その業務自体は今後も自分の業務として継続していきたいと考えていました。そこで、Xの代表者は、取引先との間で事業譲渡のスキームについて協議を重ねた結果、新設分割による会社分割の方法を用いるのが適切ではないかとの結論に達しました。そこで、当事務所に対し、新設分割による事業部門の譲渡の方法について相談に来られました。

新設分割のポイント

会社分割とは、会社の一事業部門を承継会社に移転する手続きです。会社の全部を譲渡する株式譲渡と異なり、事業の一部のみを移転することが可能となります。また、事業譲渡の場合も、会社分割と同様に事業の一部門のみを移転することができますが、事業譲渡の場合は、個々の資産負債について個別に対抗要件を具備していく必要があり、手続き的負担が大きいと言えます。これに対して会社分割の場合は、包括承継手続きですので、個別の対抗要件は必要なく、手続きの簡略化が図られます。会社分割には、吸収分割と新設分割の2つの方法があります。吸収分割は、既に存在する会社に対して事業部門を移転させる方法であるのに対し、新設分割は新たに設立する会社に対して事業部門の移転を行う方法になります。今回は新設分割によりセキュリティ事業に関する事業を新設会社に移転し、新設会社の株式を譲り受け企業に譲渡するという手続きをとることになります。

栗林総合法律事務所における作業の結果

会社分割の手法を用いた事業譲渡については、税務上の影響が極めて大きいと言えます。そこで、様々なスキームにおける税務上のプロコンを検証し、今回の新設分割のスキームが譲渡会社と譲受会社の双方にとって最も好ましいスキームであるかどうかの検討を行うことから開始しました。スキームが確定した段階で、譲渡価格についての交渉が開始します。譲受会社も、譲渡会社の財務内容についてはデューデリジェンスの過程を通じて正確に把握しているため、譲渡会社としては、価格交渉の場面で会社の財務内容などについて隠匿する必要はありません。譲渡人としては、今回のディールに対する率直な意見を述べ、必要となる金額を提示するのが一番好ましいと言えます。今回の譲渡企業Xとしては、現在1億円近い金融債務があり、今回のディールを通じて獲得する資金を用いて一気に債務の返済を行いたいとの希望を有していることを買主に率直に説明することにしました。譲受会社としても譲渡会社の希望については理解を示していただけましたが、一方で社内規定により定められた投資基準に合致しない限り、会社内部での承認を得ることができません。そこで、会社内部の投資基準で認められる最低利回りのところで計算した金額(買収価格としては最も大きな金額)での購入に了解してもらうことができ、基本合意書の締結にこぎつけることができました。その後、当初のスケジュール表に定められた手順とスケジュールに従い、新設分割手続き、株式譲渡手続きを経ることで、今回のディールを成功させることができました。譲渡会社Xの代表者としても、会社の従業員を大企業の子会社に移転させることで、将来における雇用の安定を図ることができましたし、一事業部門の譲渡によって得られた現金を用いてほとんどの借入債務を返済することができ、金融債務の返済に関する不安から解放されることができました。

栗林総合法律事務所のサービス内容

栗林総合法律事務所では、多くのM&A案件を扱っています。栗林総合法律事務所では、M&Aにおけるスキームの立案、株価の算定、価格交渉、インフォーメーションパッケージの作成、デューデリジェンスのサポート、スケジュール表の作成、会社法上求められる各種の手続きのサポートを行います。会社分割におけるサポート業務の内容としては、通常のM&Aにおいて必要となるスキームの立案、デューデリジェンス、価格交渉、基本合意書の作成に加えて、新設分割計画書の作成、取締役会及び株主総会における承認手続きのサポート、事前開示書面の作成、債権者保護手続き、労働者承継手続き、新設分割の登記などがあります。栗林総合法律事務所では、大企業のM&Aだけでなく、中堅・中小規模の会社のM&A案件も多く扱っています。事業価格が数百万円から数千万円というM&A案件も多くあります。栗林総合法律事務所がこれまで培った経験をもとに皆様の企業をサポートさせていただきます。M&Aを検討されている皆様は是非栗林総合法律事務所にご相談ください。