• 2024.01.31
  • 一般企業法務

仮取締役(一時取締役)の選任

仮取締役(一時取締役)等の選任

会社法においては、会社の役員が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合において、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有します(会社346条1項)。しかし、退任した取締役が死亡や重病により役員としての職務を行うことができない場合等、必要がある場合には、裁判所は、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者(仮役員)を選任することができます(会社346 条2項)。この規定により裁判所から選任されるのが仮取締役(一時取締役)です。

なお、取締役だけでなく他の役員にも取締役同様に仮の役員を選任する制度があるため、会社によっては仮監査役(一時監査役)、仮代表取締役(一時代表取締役)等が選任されることもあります。

仮取締役(一時取締役)等の選任申立要件

仮取締役(一時取締役)等を選任するには、(1)役員等が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合に当たり、(2)仮役員(一時役員)等を選任する必要があると認められることの二つの要件が必要になります(会社法346条2項)。

役員等が欠けたこと又は会社法若しくは定款で定めた員数が欠けたこと

「役員等が欠けたこと又は会社法若しくは定款で定めた員数が欠けた」とは、取締役等が退任・辞任した場合に加え、退任したと同視できる場合や実質的に死亡した場合と同視できる場合、例えば、取締役が行方不明になった場合や長期不在及び重度の疾病により職務遂行が困難な場合も含まれるとされています。なお、補欠役員(会社法329条3項)が選任されている場合や取締役等が一時的に病気になった場合には、この要件を満たさないことになります。

仮役員等の選任の必要性があること

役員が欠けた場合又は員数を欠く場合であっても、株主総会決議によって、後任役員の選任が可能な場合には、仮役員を選任する必要性は認められません。例えば、取締役会設置会社において、代表取締役を欠いていても、取締役会の定足数を満たしている場合には、取締役会において代表取締役を選定し、その者が株主総会を招集すれば足りることになります。これに対し、取締役会の定足数を満たさず、取締役会において株主総会招集決議ができないような場合や少数株主による株主総会招集請求(会社法297条)ができない場合には、仮取締役の選任の必要性が認められることになります。
例えば、会社の取締役が1名である場合で、その取締役が死亡してしまった場合、株主総会を招集することができないので、仮取締役の選任の必要性があるということとなります。

反対に、権利義務取締役等(会社法346条1項)が存在する場合や、取締役等の選任のための株主総会の開催が可能な場合には、上記の要件を充足しないと考えられています。ただし、取締役権利義務者が存在していても、取締役権利義務者が不在、病気等の場合、取締役権利義務者が権利義務を引き続き課せられることを欲しない場合、取締役権利義務者に不正行為等があった場合等は、仮取締役選任の「必要がある」と認められることがあります。

例えば、株主総会決議の瑕疵を争う訴訟において、株主総会における取締役選任決議の取消、無効、不存在の判決が確定した場合、その決議によって選任された取締役は取締役としての地位を失うこととなりますので、会社の取締役が存在しないことになると考えられます。しかし、この場合であっても、当該決議の前に取締役であった者が存在する場合には、それらの物が会社の権利義務取締役として株主総会を招集することができますので、仮取締役の選任の必要がないこととなります。

つまり、取締役の員数が欠けた場合に本来会社法が予定している株主総会決議による後任取締役の選任決議をすることができる場合には、仮取締役を選任する必要はありませんが、取締役の員数が欠けているために取締役会の定足数を満たさず、株主総会招集決議ができないような場合には、仮取締役選任の必要性があることになります。

申立権者

仮取締役の選任の申立を行うことができるのは、会社の利害関係人とされています(会社346 条2項)。ここにいう利害関係人とは、例えば当該会社の株主、他の役員、会計監査人、従業員及び債権者などが該当しますが、当該会社自身は利害関係人に該当しませんので、当該会社が申立人となることはできません。

申立に必要な書類

仮取締役の申立に必要な書類は、一般的には①当該会社の履歴事項全部証明書、②会社の定款、③退任した取締役が選任された際の定時株主総会議事録、④取締役が退任等により欠員になったことを証明する資料(死亡した場合は除籍謄本等)、(取締役が行方不明となっている場合は取締役の所在について調査した事項を記載した報告書等)、⑤取締役に欠員が生じていることで会社が深刻な状況に陥っており、仮取締役の選任が必要な事情を記載した陳述書等があります。

仮取締役となる人物

仮取締役の選任申立を行った場合、申立人側から裁判所に対し、仮取締役の候補者を推薦することが可能です。仮取締役の候補者を推薦した場合であっても、裁判所は推薦された人物とは別の人物を仮取締役として選任することができます。申立人の立てた人物がそのまま仮取締役となることもありますが、会社の経営権について争いがある場合は、裁判所は仮取締役として裁判所の選んだ弁護士を選任することが多い傾向にあります。

仮取締役の選任決定

仮取締役選任の申立がされた際、裁判所は審問期日の指定等を行うことがあります。仮取締役の選任申立に関して、会社法では意見を聴取しなければならない者は定められていません(会社法870条参照)。しかし、実務上は審問期日において、申立人や仮役員候補者、その他会社の関係者(代表取締役又は他の取締役)から必要事項について陳述を聴取することが多い傾向にあります。
なお、仮取締役の選任決定の段階で報酬の額を定めるときは、報酬額について陳述の聴取をすることになります(会社法870条1項1号)。
申立書類や審問の結果によって申立の必要性が認められた場合には、裁判所は仮取締役を選任し、決定通知書を送付します。

仮取締役の業務内容

裁判所によって選任された仮取締役は、裁判所からの嘱託により登記官が自身を「仮取締役」として登記したことを確認した後、会社法や会社の定款によって定められている株主総会の招集手続に従って株主総会を招集・開催します。

仮取締役が招集した株主総会において、新たな取締役が選任され、当該取締役がその就任を承諾した場合、仮取締役は退任します。その後、仮取締役は、裁判所に対して職務執行に関する報告書を提出し、業務を終了します。

なお、株主総会決議によって選任され新たに取締役となった人物は前取締役の退任登記、仮取締役の退任登記及び新しい取締役の就任登記を行う必要があります。

仮取締役の報酬

仮取締役の報酬は一般的には20万円から30万円となりますが、予想される業務内容や任期の長さによって報酬は変動します。

仮取締役の報酬については、最終的には会社の負担となりますが(非訟法132条の4第2項及び129条の3)、この報酬については申立を行う際に申立人が予納する必要があります。この予納金は具体的な事情によって金額が異なります。

例えば、次期取締役となる人物の目途が立っており、選任が見込める場合は、次期取締役が選任されるまでの間の報酬の支払を担保できる金額を納付すればよいこととなります。また、予定された仮取締役の事務が終了した段階で選任取消しが可能な場合も、選任取消決定がなされるまでの間の報酬等の支払を担保できる金額の納付で足りるということになります。他方で次期取締役の選任の目途が立っておらず、選任取消しをすることもできない場合は、仮取締役の就任が長期となる可能性が予想されます。この場合は、長期の就任となる報酬等の支払を十分に担保できる金額の予納が必要となり、予納金の金額は相当な高額になる可能性があります。

管轄

仮取締役(一時取締役)等選任申立を行う裁判所は、対象会社の本店所在地を管轄する地方裁判所となります。

仮代表取締役(一時代表取締役)の選任

取締役と同様に、代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合にも、任期の満了又は辞任により退任した代表取締役は、新たな代表取締役が選任されるまで、なお代表取締役の権利義務を有します(会社351条1項)。しかし、代表取締役が死亡した場合や重病等により代表取締役としての職務を行うことができない場合等、必要がある場合には、裁判所は、利害関係人の申立てにより、仮代表取締役(一時代表取締役)の職務を行うべき者を選任することができます(会社351条2項)。

もっとも、取締役会設置会社においては、代表取締役を欠くことになった場合でも、取締役会の定足数を満たしている場合、取締役会において代表取締役を選定することが可能です。また、代表取締役やその他の取締役が同時に死亡し、3名の取締役中2名に欠員が出た場合等、取締役会の定足数を満たしていない場合も、仮取締役を1名選任すれば、取締役会の定足数を満たすことになるため、代表取締役を選定することが可能です。

そして、代表取締役が不在となった場合で、代表取締役選任のための取締役会の開催が可能な場合、代表取締役選任のための取締役会を直ちに開催できないが、後任取締役選任のための株主総会の開催が可能な場合には、会社内で代表取締役の選任ができるため、「仮役員の選任の必要がある」という要件を充足せず、仮代表取締役(一時代表取締役)を選任することはできないとされています。

したがって、会社の代表取締役が欠けた場合であっても、会社内での解決が図れるため仮代表取締役(一時代表取締役)を選任できないことが多く、他の取締役や株主において、仮代表取締役(一時代表取締役)の選任申立てが必要となることはあまりありません。一般的には下記の場合等に会社の仮代表取締役(一時代表取締役)の選任が必要となります。

  1. 債務者に対して債権譲渡通知を行おうとしたが、債権譲渡通知の受領権限を有する債務者の代表取締役が既に死亡し、後任代表取締役が選定されていないままとなっている場合
  2. 会社所有の抵当不動産の任意売却の話が進められていたものの、契約締結直前に売主の代表取締役が死亡した場合
  3. 取締役会非設置会社において、会社の唯一の取締役かつ代表者であった取締役が死亡した場合

 

仮監査役(一時監査役)の選任

会社において監査役は、計算書類等の監査を行い(会社法436条1項)、計算書類等について定時株主総会の承認を受ける必要がありますので(会社法438条2項)、監査役設置会社においては、定時株主総会を開催するにあたって監査役の存在が不可欠となります。

もっとも、監査役は株主総会の決議によって選任されますので(会社法329条1項)、監査役に欠員が生じた場合であっても、基本的には取締役会の決議により、株主総会を招集し、招集された株主総会によって監査役を選任すればよいこととなり、仮監査役(一時監査役)の選任の必要性は認められません。

仮監査役(一時監査役)を選任する必要性が認められるのは、以下の限られた場合となります。

  1. 取締役にも欠員が生じている等の事情により、株主総会の招集手続ができない場合
  2. 定時株主総会まで間がなく、株主総会招集の際に議題として追加することができない場合
  3. 株主数が膨大で、臨時株主総会の開催のため多大なコストが掛かるため、株主総会開催が困難と考えられる場合

なお、監査役が任期中に辞任した場合には、後任監査役が選任されるまでの間、当該監査役は、引き続き監査役の権利と義務を引き続き有しており、職務を遂行する必要があります(会社346 条1項)。また、会社法では、「取締役は、監査役がある場合において、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければならない」とされています(会社法343条1項)。つまり、監査役が任期中に辞任した場合で、後任監査役を選任するための株主総会を開催するためには、辞任した監査役の同意を得る必要があることがあります。

ところが、監査役を辞任して権利義務監査役となった者が、後任監査役の選任議案について、同意しない又は意見を明らかにしないことがあります。このような場合も、監査役選任議案について 監査役の同意を得るために仮監査役(一時監査役)を選任する必要性があると解されています(東京地方裁判所商事研究会編『類型別会社非訟』33頁(判例タイムズ社、2009年))。

役員を辞任するための方法としての仮役員選任

ある会社の役員が辞任する場合においては、役員の変更登記が必要となります(会社法911条3項13号等)。ただし、会社法においては、会社の役員が欠けた場合又は会社法若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合において、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有すため、新任の役員が就任するまでは、辞任した役員も辞任登記ができず、役員の権利義務から逃れることもできません。
そのため、会社側が辞任に応じず、新たな役員を選任しない場合には、辞任した役員は裁判所に対して、仮役員(一時役員)の選任申立を行い、役員の人数が定款や法令に定められた人数を充足するようにすることが考えられます。

ただし、近年の裁判所は、仮役員の負担やリスクを小さくし、仮役員に対する報酬や費用をできるだけ低くしようとする傾向にあります。他方で、上記のような事情の場合、仮取締役に就任する期間がいつまでになるのかわからず、業務量や支払う必要がある報酬の金額についても予測が難しいと考えられます。このような場合、裁判所としては本当に仮役員を選任する必要があるのかを一層厳しく判断するため、仮役員の選任が認められない可能性が高まります。したがって、より綿密に仮役員の選任が必要な事情、業務内容や業務を行うにあたってのリスク等について主張する必要があるとともに、比較的高額の予納金が必要となります。

仮取締役(一時取締役)と職務代行者の権限の違い

仮取締役(一時取締役)と似た制度として、取締役の職務代行者選任の仮処分の制度があります。
取締役の職務代行は、取締役の解任の訴えを提起した場合等で、解任の訴えを提起された取締役に代わって職務を行うものを指定する制度です。仮取締役(一時取締役)の制度と職務代行者選任の仮処分は、裁判所が一時的に会社の取締役を選任するという点で共通しています。
もっとも、仮取締役(一時取締役)(会社法346条)については、通常の取締役と同じ権限を有し、原則としてその権限に制約はありません。他方で、職務代行者の権限は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の「常務」に属する範囲に限られ、これ以外の行為を行う場合には、裁判所の許可が必要となる(会社法352条1項)という制約があります。

民事訴訟法上の特別代理人と仮代表取締役(一時代表取締役)の関係

民事訴訟法には、会社が代表取締役を欠く場合、当該会社を相手に訴訟を提起しようとする者や強制執行を行おうとする者は、代表取締役に代わる特別代理人の選任を求めることができるとされています(民事訴訟法35条、37条)(民事執行法20条)。

特別代理人は提起しようとしたその訴訟限りの代理人であるのに対して、仮代表取締役(一時代表取締役)では、株主総会招集、新取締役の選任、取締役会の開催、新代表取締役の選任まですることとなります。仮代表取締役(一時代表取締役)を選任した場合には、業務内容が多岐にわたるため、時間と経費が必要となります。したがって、会社債権者から会社に対する訴訟提起を考えている場合に、代表取締役が不在の時は、時間と費用の観点から、どの手続を選択するかを慎重に考える必要があります。

このような場合、一般的には、仮代表取締役(一時代表取締役)の選任申立てではなく、訴訟提起又は強制執行の申立てと同時に特別代理人選任申立てを行うこととなります。

参考事例

取締役1名の会社で、取締役が死亡してしまった場合

この場合、取締役が不在となるので株主総会が招集できません。したがって株主総会の決議によって新たな取締役を選任することができなくなります。株主全員が協力関係にある場合、全員出席の株主総会によって、新たな取締役を選任することも可能ですが、相続等により株主間の対立が生じている場合、全員出席総会は現実的ではありません。そこで、株主等の会社の利害関係人が裁判所に申立を行い、一時取締役を選任することとなります。その後、裁判所から選任された一時取締役が株主総会を招集し、新たな取締役の選任をすることとなります。

当事務所で行うことができるサービス

仮取締役(一時取締役)等を選任する際のサポート

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仮取締役(一時取締役)等を選任後の会社へのサポート

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