• 2020.09.01
  • M&A・事業承継

非上場株式の評価方法

遺産相続における非上場会社の株式の評価

最近、遺産相続に関連し、非上場会社の株式の価格をどのように評価するかが問題となるケースが多くなってきています。上場会社株式の場合、市場で取引される時価がありますので、価格の算定は容易と言えます。一方、非上場会社の株式については、売買される事例自体が極めて限られており、仮に売買される場合であっても、従前の慣行に従い一株500円や一株5万円など固定された金額で取引される事例も多くあります。会社の純資産額に拘わらずに、一定の金額で株式の取引を行う方法も慣行として認められている場合には有効とされています。多くの中小企業では、株主が亡くなった場合などには、従前の取引例に倣い一定の定められた金額での買い上げ(自己株式の取得や経営者一族による買い取り)がなされることが多いのではないかと思います。

通常の場合、このように一定の定められた価格での取引も問題ありませんが、相続が発生した場合には、相続税の計算を行う観点からも、客観的な価格の算定が求められることになります。また、遺産分割を行う際には、相続人間での平等な相続財産の分配が必要となってきますので、非上場会社の株式を相続した相続人の取得価格をいくらと計算するのかという観点からも株価の算定が必要となります。遺産の大部分が会社の株式であるような場合には、会社の経営を承継する者が株式を取得し、その他の相続人に対しては金銭の分配を行う代償分割を行うケースも多くありますが、その際にも代償金の決定において株価の算定が必要となります。また、長男が会社の経営を引き継ぐ場合などは、株価の算定だけで済みますが、遺産分割に関連して経営支配権の取得を巡る争いが勃発した場合には、誰がどれだけの株式を取得するのかともからみ、極めて複雑な様相を呈してくることになります。

取引相場のない株式の相続税評価

相続の場合における非上場会社の株式の評価方法について簡単に述べてみたいと思います。取引相場のない株式の相続税評価については、原則的評価方法と特例的評価方法があります。原則的評価方法としては、純資産価額方式、類似業種比準方式、併用方式の3つがあります。一方、特例的評価方式としては、配当還元方式が用いられます。そこで、どの場合にどの計算方式が適用になるかをまず確認することが必要になります。

同族株主以外の株主に適用される特例的評価方法

非上場会社の株主には、同族株主と同族株主以外の株主がいます。同族株主以外の株主については、特例的評価方法による配当還元方式が適用になります。例えば、会社の同族以外の役員が株式を有している場合や、会社の従業員、取引先などが経営者からの依頼や持ち株制度等により、少数の株式を所有しているような場合です。この場合、同族株主等以外の少数株主は会社の支配権を有しておらず、株式を有していることの経済的メリットとしては配当を受けることに限られてきます。そこで、株式の評価においても、いくらの配当をもらっているので、それの経済的価値をいくらとみるかという観点から評価されることになります。このことは、同族株主等であっても、支配権を持たない少数株主についても適用になります。従って、同族株主等以外の株主と、同族株主であっても支配権を持たない少数株主については、特例的評価方法である配当還元方式が適用になることになります。

特例的評価方法である配当還元方式

配当金額の計算においては、特別配当などの通常の配当以外の配当は除きますが、期末の配当と中間配当は含まれることになります。また、1年の期間であれば、ばらつきが生じる可能性がありますので、2年分の平均値を用いるものとされています。例えば昨年度の期末配当が一株当たり50円で、今年の期末配当も一株当たり50円の場合、2年間の平均の配当金額は50円ということになります(中間配当がなされていない場合)。

配当還元方式による株式の価額の計算式は次の通りです。

一株当たりの配当還元価額=
(1株(50円)当たりの年平均配当金額÷10%)×(一株当たりの資本金等の額÷50円)

上記の内、一株(50円)当たりの年平均配当金額は、次の通り計算します。
(直前期末以前の2年間の配当金の合計額÷2)÷(直前期末の資本金等の額÷50円)

計算が複雑そうですので、その内容をよく見ていきたいと思います。上記のうち、直前期末以前の2年間の配当金の合計額÷2というのは、2年間の合計の半分ですので、1年間の平均値を指しています。例えば前々年度の配当金の合計が100万円で、前年度の配当金の合計が同じく100万円であるとすれば、1年間の平均は100万円(200万円÷2)ということになります。もしこの会社が、資本金が1000万円で、発行済株式総数が200株の会社とすれば、次のようになります。

一株(50円)当たりの年平均配当金額=100万円÷(1000万円÷50円)=5円

そこで、一株当たりの配当還元価額=(5円÷10%)×(1000万円÷200株÷50円)
=50円×(50000円÷50円)=50円×1000
=5万円

すなわち、この会社の配当還元価額は5万円ということになります。上記の通り、資本金1000万円で、発行済株式総数200株、配当金の合計が100万円であるとすれば、一株当たり5000円の配当がなされたわけですので、単純に5000円÷10%と計算しても同じ結果になると思われます。

上記の通り計算が複雑になるのは、会社によって資本金の額や発行している株式数が異なるため、単純に一株当たりにいくらの配当がなされているかを比較するだけでは正しくなく、単位を一旦一株当たり50円にそろえて計算し、その後実際の発行済み株式数に応じて割り戻して計算するという過程を経ているからです。しかし、単純に一株に配当された金額の10倍(10%で割る)と考えれば、良いことになります。すなわち、株式については10%程度の投資利回りが考えられるとの計算のもとに一株当たりの計算をすることになります。例えば5万円の投資に対する年間利回り10%と言うことは5000円の利益となりますので、反対に5000円の配当を生む株式は5万円の価値を有するということになります。
 
実際に10%の投資利回りというのはかなり高い数字で、非上場会社の株式で10%もの利回りが生じるか疑問に思われるかもしれませんが、利回りが高いということは、元本(株価)を下げることを意味していますので、相続の場合などはこの考えで納得できるのではないかと思われます。反対に非上場会社の株式の買取請求等の場合には、少数株主は安い価格で株式を買い上げられてしまうということにもなります。もちろん、配当還元価額は実際に配当がおこなわれている会社に対して適用になりますので、配当がおこなわれていない会社については、純資産価額等を用いるしかないことになります。

特殊な会社の株式についての評価方法

特殊な会社の株式については、原則的評価方法が使えませんので、純資産方式か、精算分配見込み額によることになります。特殊な会社としては、次のような会社があります。

① 総資産額の50%以上を株式が占めている会社
 例えば上場会社の持株会社などが該当すると思われますが、この会社は会社の資産のほとんどが株式であり、所有する株式の価額自体がこの会社の株式の価額を表していると考えられます。そこで、このような会社については純資産価額方式により株価が算定されることになります。

② 総資産額の一定割合を土地が占めている会社
 この会社についても、土地の評価額がすなわちその会社の株式の価額を表していると考えられますので、いくらの利益が出たかということによりも、所有する会社の不動産の価額はいくらかを基準に株式の価額を計算することになります。そこで、このような会社については純資産価額方式により株価が算定されることになります。

③ 開業後経過年数が3年未満の会社
 この会社の場合、まだできたばかりの会社で十分な利益を上げられる構造になっていないとも考えられますし、利益の振れが極めて大きく、利益や配当を基準としても、適正な株価の算定が難しいと考えられます。そこで、このような会社については純資産価額方式により株価が算定されることになります。

④ 「配当」、「利益」、「純資産」のうち、直前期末にいずれか2つ以上がゼロであり、かつ直前々期末にこれらの2つ以上がゼロの会社
 債務超過で利益の出ていない会社や、利益がゼロ(赤字)で配当もないような会社が該当します。小さな企業ではむしろこのような会社の方が数は多いのかもしれません。類似業種比準方式は、上場している会社等と利益などをもとに比較を行って株価を算定する方式ですが、利益がマイナスで、債務超過であるような場合、比較になる利益自体が存在しませんので、類似業種比準方式などを採用することもできません。そこで、このような会社については純資産価額方式により株価が算定されることになります。債務超過であって純資産がマイナスの場合は、株価はゼロ円ということになります。

⑤ 開業前、休業中、清算中の会社
 これらの会社は、資産もほとんどなく、事業も行っていないわけですので、継続企業として生み出す利益をもとに他社と比較して株価を算定するということもできません。そこで、このような会社の場合には、純資産価額か清算分配見込み額をもとに株価を算定することになります。多くの会社では株価はゼロ円になるのではないかと思われます。

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