• 2020.09.01
  • M&A・事業承継

同族株式についての取引相場のない株式の相続税評価

取引相場のない株式の相続税評価のうち、同族株主が有する株式の評価

取引相場のない株式の相続税評価のうち、同族株主が有する株式の評価については、会社の規模に応じて類似業種比準価額方式と純資産価額方式の両方が一定の割合で適用になり、その合計で株価を計算することになります。類似業種比準価額方式と純資産価額方式をどのような割合で計算するかについては、会社の規模に応じて決まっています。

大会社  類似業種比準価額100%
中の大  類似業種比準価額×0.9+純資産価額×0.1
中の中  類似業種比準価額×0.75+純資産価額×0.25
中の小  類似業種比準価額×0.6+純資産価額×0.4
小会社  類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5

大会社、中会社、小会社の区別は国税庁で基準が定められており、卸売・小売・サービス業の場合と、それ以外の場合(例えば製造業など)で異なった基準が用いられます。例えば、卸売・小売・サービス業以外の会社について、規模による分類は次の通りです。

大会社 純資産10億以上かつ従業員50人超、又は取引金額20億以上

中会社
(中の大)純資産7億以上かつ従業員50人超、又は取引金額14億以上20億未満
(中の中)純資産4億以上かつ従業員30人超、又は取引金額7億以上14億未満
(中の小)純資産5千万以上かつ従業員5人超、又は取引金額8千万以上7億未満

小会社 純資産5千万未満又は従業員5人以下、又は取引金額8千万未満

上記の内、純資産と従業員の数は「かつ」となっていますので、両方の条件を満たす必要があります。例えば純資産が8億円で、従業員が80名の会社は、「従業員10億円以上かつ従業員50人超」の条件を満たさず、この要件については、大会社の要件を満たさないことになります。同様に純資産5億円で従業員20名の会社は、純資産4億円以上ではありますが、従業員数が30人に満たないことになりますので、中の中の条件うち、「純資産4億円以上かつ従業員30名超」の要件は満たさないことになります。

また、上記の要件のうち、「純資産・従業員基準」と、「取引金額基準」は「又は」で結ばれていますので、どちらかの条件を満たせばいいことになります。例えば、純資産8億円で従業員40名の会社は、「純資産10億円以上かつ従業員50人超」の要件は満たしていませんが、取引金額が21億円であれば「取引金額20億円以上」の要件は満たしていることになりますので、「大会社」に該当することになります。

純資産価額方式で計算を行う場合、相続税評価額による総資産から、負債の合計額を差し引き、その後含み益に課される税金部分に対して適用税率を乗じて計算される金額を控除する必要があります。

会社の貸借対照表から純資産価額が算出されますが、相続税の評価を求める場合には、含み益を計算するなど、資産について相続税評価額による調整が必要になります。例えば、帳簿上不動産の価格が取得価額により1億円とされている場合でも、相続税評価額による評価額(路線価等で計算するため時価の7掛け程度になります)が1億5000万円の場合、含み益5000万円を反映して相続税評価額による総資産を求めます。

例えば帳簿上の総資産価額10億円、相続税評価額による修正(含み益)1億円、負債7億円の場合、10億円に1億円を足し、その後負債の7億円を控除して純資産価額を算出します(10億円+1億円-7億円=4億円)。但し、このままでは、含み益に対して将来掛けられるであろう税金についての考慮が欠けることになります。そこで、純資産価額を求める際には、将来掛けられるであろう税金の金額は控除する必要があります。税金の適用税率を38%とした場合、評価差額の38%相当を控除する必要があります。これらを考慮した後の純資産価額方式による株価の計算式は次のようになります。

(相続税評価額による総資産価額-負債の合計額-評価差額の38%)÷発行済株式総数
*上記の内、評価差額=相続税評価の純資産価額-簿価純資産価額

上記の例で言えば、評価差額=11億円-10億円=1億円

(11億円-7億円-3800万円)÷1万株(発行済株式総数)=3万6200円

中小企業に適用となる類似業種比準価額方式による株価の算定においては、類似業種比準価額と純資産価額方式による価額の両方を一定の割合(ウエイト)で足し合わせることになりますので、純資産価額方式による計算も必要となります。その際には、含み益を計算するなど、相続税評価額による調整が必要であることと、将来課される税金の部分については、総資産価額から控除する必要があることに注意してください。

企業法務の最新情報をお届けする無料メールマガジン

栗林総合法律事務所 ~企業法務レポート~

メルマガ登録する