国際取引契約書作成の基礎知識
国際取引契約書作成の必要性
外国企業との取引の増加に応じて、大企業から中小企業にいたるまで、国際取引契約書の作成が必要となる場面が増加しています。当事務所でも、多くの企業から英文契約書の作成を依頼される機会が増えております。国際取引については、様々な種類のものがありますが、ほとんどの契約は、売買契約書、販売代理店契約書、サービス契約書、ライセンス契約書、共同開発契約書等、定型的なパターンの契約書になります。自分たちが行おうとしている取引の実態がどの契約に該当するかを理解することが重要です。
英文契約書のきまりごと
英文契約書については、長い歴史の中で作られた多くの決まりごとがありますので、日本の契約書とは形式や内容について多くの違いがあります。日本企業同士で取引を行う場合には、民法や会社法に基本的な取決めが多く定められていますので、仮に契約書に定めのない場合であっても、これらの法律の規定が適用になり、紛争解決の基準がおのずと定められることになります。従って、日本企業同士の契約書では、規定の内容は極めて簡単なものとなり、数億円の取引を行う売買契約書としても2から3頁程度の簡単なものとなることも多くあります。一方外国企業と取引を行う場合には、お互いに適用する法令や取引慣習の相違が前提となっており、一方当事者にとって当然の事柄であっても相手方当事者は異なった解釈をしている可能性もありますし、全く予想もしなかったような主張をなされる場面も多くあります。従って、国際取引契約書を作成する際には、たとえ細かな事柄であって当然と思われる事項であっても、細かく契約書に規定する必要が出てきます。もちろん、当事者が考えていることを全て書くのではなく、一定の決まりに基づいて、ある種の定められた事柄を規定するのが通常です。
Whereas条項(Recital経緯)
国際取引契約書を読んで最初に出てくるのがWhereas条項です。Whereas条項では、各当事者が当該契約書の作成によってどのような目的で契約書を締結しようとしているのかを簡潔に記載します。例えば売主としては、一定の商品の売却を考えており、買主としては当該商品の購入を考えているというような事柄です。例えば次のように記載します。
WHEREAS, Japan Gymnastic Machine Manufacturing Company Ltd. (“Seller”), is engaged in the business, among other things, of manufacturing and selling products as defined hereinafter; and
WHEREAS, China Tostem Co., Ltd. (“Purchaser”), desires to purchase said products from Seller and its subsidiary and to sell them to customers in People’s Republic of China; and
WHEREAS, Seller and Purchaser are willing to cooperate for the development, marketing, and distribution of the said products in People’s Republic of China;
(訳文)
日本体操器械製造株式会社(以下「売主」という。)は、主に、下記に定義される製品の製造及び販売を行っている。
チャイナ・トステム・コーポレーション(以下「買主」という。)は、売主及びその子会社から当該製品を購入し、中国の顧客に販売することを望んでいる。
そこで売主と買主は、中国における当該製品の開発、マーケティング、及び販売活動について協力することを希望している。
Considerationについて
国際取引契約では、約因(consideration)という言葉がよく使われます。約因は取引の対価を意味し、物の売買であれば、物の引渡しと金銭の交付が相互に対価となっています。契約書の作成は、双方の当事者がお互いに取引(バーゲニング)を行いながら取引内容を定めていきますので、必ずしも物と金銭のような明確な有形物の取引だけではなく、例えば一方の当事者が保証表明を行った対価として、他方当事者が危険負担を負うというように契約内容の取引も行われることになりますので、双方の当事者が何らかの契約条項に拘束される限りそこに約因が存在すると考えられます。英米法では、約因(consideration)のない契約は無効と解釈されますが、どのような譲歩をお互いに行ったかについては極めて幅広く解釈されますので、実際上約因が存在しないとして契約が無効になることはほとんどないと考えられます。しかしながら、伝統的な契約書の記載として、Whereas条項の最後には、相互の約因を対価として契約を締結するという記載がなされるのが通常です。
NOW, THEREFORE, in consideration of the premises and mutual covenants and agreement hereinafter contained, the Parties hereby agree as follows:
(訳文)
そこで、本契約書に含まれる相互の約束、誓約及び合意を約因として、両当事者は以下のとおり合意する。
標準的な英文契約書のフォーマット
日本国内での取引と海外との取引では商慣習が著しく異なりますので、日本語の契約書を英訳しただけでは、国際取引を行う際の契約書としては不十分です。また、管轄や準拠法等、国際取引に特殊な契約条項を入れることも必要になってきます。海外との取引紛争を避けるためにも、可能であれば最初から国際取引に見合った体裁の契約書を作成されることをお勧めします。
自己に有利な契約書のサンプルを利用すること
英文契約書を作成する際には、サンプルとなる契約書を参考にしながら、自分の会社のニーズに応じてカスタマイズする必要があります。また、サンプルとなる契約書はできるだけ当事者双方に中立になるよう作成していますが、実際の運用に際しては、売主に有利な契約書や買主に有利な契約書など、契約上の立場に応じて有用なサンプルが異なってくることがあります。貴社が売主なのか買主なのか等、貴社の立場を考慮しながら、自己の目的に最も適切な英文契約書のサンプルを活用することが重要です。
貴社の要望に合った契約条項を作成すること
契約書を作成する中で、例えば次のような要望が生じてくることがあります。①請負代金は納品時に一括で支払うのではなく、作業の進行度合いに応じて分割して支払ってもらいたい、②売買代金の中に消費税が含まれていないので、外税であることを明確化したい、③海外での運送賃は相手方負担であることを明確化したい、④不可抗力が生じたときにも契約が解除されるのではなく、履行期日が延長されるだけとしたい。外国企業から英文契約書の提示があった場合には、その内容を正確に分析し、貴社の取引実務や希望する内容に合致しているかどうかを検討する必要があります。もし、貴社の要望が正確に反映されていない場合は、カウンター・プロポーザルの提案が必要になります。当事務所では、貴社からの要望に従い、カウンター・プロポーザルとして提案する契約条項案を作成します。
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