• 2023.01.11
  • M&A・事業承継

M&Aにおけるアドバイザー契約書

M&Aにおけるアドバイザーとは

M&Aアドバイザーとは

M&Aにおいては、取引の相手方を探してきたり、取引の完成に向けての様々な業務についてのアドバイスを行うなど、アドバイザーが重要な役割を果たします。M&Aにおいてこのような業務(サービス)を提供する者をアドバイザーまたはフィナンシャルアドバイザーと言います。アドバイザーまたはフィナンシャルアドバイザーについては、法人の他、弁護士、会計士、M&Aの経験者などの個人が行うことも可能です。個人のアドバイザーの場合、比較的安い報酬で業務を提供してくれるメリットがあります。一方で、M&Aは企業の命運にも関わる重要な取引であり、アドバイザーの良し悪しによって大きな違いが生じてくる可能性もあります。アドバイザーに対し、専門的な立場から、相手方の探索や取引価格の交渉、クロージングの支援などについて包括的なアドバイスを求めるためには、M&Aに特化した専門のアドバイザリー会社に依頼するのが好ましいとも考えられます。

M&Aアドバイザーの種類

M&Aの専門アドバイザーとしては、日本M&Aセンター、M&Aキャピタル、ストライクなどの独立系の会社の他、外資系の投資銀行(モルガンスタンレー、ゴールドマンサックスなど)、大手都市銀行の子会社、デロイトやEYなどの大手会計事務所がアドバイザーとなることもあります。最近はスモールM&A(小規模のM&A)において、M&Aマッチングプラットフォームを提供し、インターネットを介して仲介を行う会社も出てきています。これらの会社としては、M&Aプラス、サクシード、Batonz、Tranbiなどがあります。同じマッチングサイトでも、企業を対象とするものから、個人のM&Aを対象とするものまで様々です。自社の取引規模や、取引の性質を考えながら、どのようなアドバイザーを選任するのかを検討する必要があります。

M&Aアドバイザーの役割

M&Aのアドバイザーは、相手先候補者の探索、契約交渉の仲立ち、スキームの提案、クロージングの支援、弁護士や会計士などの専門家の紹介などを行います。このようにM&AアドバイザーはM&Aの取引の全ての過程において重要な役割を果たしますが、とりわけ重要なのが、相手先候補者を見つけてくる探索業務(ファインディング業務)と、契約を書面にまとめてクロージングを成功させる執行業務(エグゼキューション業務)に分かれることになります。依頼者とアドバイザーとの契約関係は業務委託契約ということになります。従って、アドバイザーは契約に定められた業務を遂行することでアドバイザリー報酬を受領することができることになります。従って、アドバイザーが行う業務については、アドバイザリー契約書の中にしっかり書き込んでおくことが重要です。

(契約条項の例)
本契約に基づきアドバイザーが提供する業務は、次のとおりとする。

  1. 甲(依頼者)に対する対象企業の紹介及び斡旋
  2. 本件に関する交渉の手配、助言及び補佐
  3. 本件のクロージング(取引完了)までに想定される諸手続に関する助言と補佐
  4. 甲と乙(アドバイザー)との間で随時合意する上記以外のサービス

 

M&Aアドバイザーの選出方法

M&Aにおいてアドバイザーをつけるかどうかや、アドバイザーをつける場合にどこの会社をアドバイザーとするかは、依頼者が自由に決めることができます。アドバイザーをつける場合には、知り合いや顧問先の弁護士などからの紹介により推薦されたアドバイザー会社をアドバイザーにつけることが多いようです。しかし、規模の大きなM&Aにおいては、アドバイザーの力量により成果が大きく異なってくる可能性があります。そこでより良いアドバイザーを選出するために、ビッド方式(入札方式)によりアドバイザーを選出することもあります。ビッド方式の場合は、いくつかのアドバイザー会社に対して、一定の期日までに、自社の強みや、対象となる候補者の探索方法、アドバイザーフィーなどを書面で提出してもらうことになります。依頼者としては、提案書を提出したいくつかのアドバイザー会社の中から、提供する業務の内容、専門性、経験、報酬金額などを比較して、当該案件において最も好ましいと考えるアドバイザーを選出することになります。なお、アドバイザー会社は、契約が締結されることを期待して自己のリスクで提案書を作成し提出することになりますので、提案書の作成や提出については無償となるのが一般的です。

M&Aにおけるアドバイザーの義務

M&Aアドバイザーの善管注意義務

依頼者とM&Aアドバイザーとの契約は業務委託契約となりますが、契約の性質としては民法の典型契約である委任契約や請負契約に該当することになります。M&Aアドバイザーは、アドバイザー契約書に従って、アドバイザー契約書に定められた業務を遂行することになりますが、アドバイザー契約書に記載されているかどうかに拘わらず、業務の遂行に際しては民法の一般条項の規定の適用を受けることになります。従って、M&Aアドバイザーはアドバイザー業務を遂行する過程において依頼者に対する善管注意義務を負います。善管注意義務とは、依頼された業務を遂行する過程で、善良な管理者としての注意を行う義務を言います。注意のレベルについては、当該業種の性質に応じて通常の業界人であれば当然に払うであろう注意義務が尽くされているかどうかで判断されます。M&Aアドバイザーは、M&Aにおける専門業者ですので、必然的に、M&Aアドバイザーに要求される注意義務のレベルは極めて高いものとなります。従って、業務の遂行の過程で、注意義務に違反して依頼者に損害を生じさせた場合には、依頼者に対して損害賠償責任を負うことになります。

M&Aアドバイザーの忠実義務

M&AアドバイザーはM&A業務の受託者として依頼者に対して忠実義務を負います。忠実義務とは、依頼者の利益を最優先にすべきで、自己や第三者の利益を図ってはならないという義務です。例えば、依頼者から1億円で購入できる製造業の会社を探索してきて欲しいと言われ、探索したところ、非常にいい会社が見つかったので、依頼者に紹介するよりも自分で買ったほうがいいと考え、自分や自分の親族の会社で購入したとします。この場合、アドバイザーはもともと依頼者のために行動していたにもかかわらず、依頼者の商業上の機会(ビジネスチャンス)を奪い(利用して)、自己又は第三者の利益を図ったことになりますので、忠実義務に違反したことになります。M&Aアドバイザーが忠実義務に違反した場合は、依頼者に対して損害賠償責任を負うことになります。なお、アメリカの契約では、受託者は依頼者に対してfiduciary duty(フィデュシアリ―・デューティ)を負うと言われることがあります。フィデュシアリー・デューティ―は善管注意義務と忠実義務を合わせたような義務になります。

コンフリクトの問題

会社を売る場合、売主の側からすればできるだけ高い金額で売却したいと考えます。一方、買主の側からすれば、できるだけ安い金額で買い取りたいと考えます。このように高い金額で売れれば売主は得をすることになりますが、買主は損をすることになります。反対に、安い金額で購入することができれば買主は得をすることになりますが、売主は損をすることになります。従って、売主と買主はお互いに利益の対立する関係に立ちます。このような関係をコンフリクトと言います。アドバイザーが売主と買主の両方を代理する場合、売主の利益を図れば買主が損をしますし、買主の利益を図れば売主が損をすることになります。アドバイザーは価格決定などにおいて重要な役割を果たしますので、極めて高い中立性が求められることになります。従って、本来であれば売主と買主についてそれぞれ別のアドバイザーが選任され、アドバイザー間での交渉で価格等が決定されるのが公平であると言えます。しかしながら、一般的には、アドバイザーが公正中立な立場で業務を遂行するとの前提で、売主と買主の両方を代理することが認められています。このような契約を「両手契約」と言います。両手契約の場合、アドバイザーは売主と買主の両方から報酬を受領することができます。アドバイザーの側からは、両方の当事者から報酬を受領できることを期待して、売主と買主の両方を代理することを主張されることが多いと思いますが、両方を同じアドバイザーが代理するか、別々のアドバイザーが代理するかについては、依頼者が自由に決定することができますので、アドバイザーの提案通りにしなければならないということにはなりません。売主と買主の両方を同じアドバイザーを利用する場合のメリットやデメリットを依頼者の側で十分に検討して判断することが重要です。

M&Aにおけるアドバイザー契約書

M&Aアドバイザー契約書

M&Aアドバイザーとの間では、アドバイザー契約書が締結されます。アドバイザー契約書は、アドバイザリー契約書とか、アドバイザリー業務委託契約書、M&Aアドバイザー契約書などと呼ばれることもあります。アドバイザー契約書では、アドバイザーが行う業務の内容を特定し、どのような条件のもとで、どのような報酬が発生するのかを定めています。アドバイザー契約書を締結することで、アドバイザーは依頼者に対して、善管注意義務、忠実義務を負うことになり、契約書で定めた業務を遂行する義務を負うことになります。また、依頼者は、アドバイザーが契約書で定めた条件を満たした場合に、契約書に定めた報酬を支払う義務を負うことになります。

独占契約と非独占契約

アドバイザー契約においては、一定の期間中はそのアドバイザーに対して独占的に業務を委託し、他のアドバイザーに対して並行して業務を委託しないことを約束する独占契約と、複数のアドバイザーに対して並行的に業務を委託することができる非独占契約があります。アドバイザー契約を締結する場合は、独占契約であるか非独占契約であるかを確認しておく必要があります。独占契約の場合、アドバイザーにとっては、他の業者に案件を取られる心配がありませんので、相手方の探索などに費用や時間をつぎ込んでも、十分な見返りが期待できると考えて、真剣に案件に取り組んでくれるというメリットがありますが、依頼者の側としては、他により良い案件やアドバイザーがいても、契約を解除しない限り他の案件に乗り換えたり、アドバイザーを変えたりできないという不利益があります。一方、非独占契約の場合は、アドバイザーからすれば、取引の相手先を探してきたとしても、他のアドバイザーがよりいい条件の案件を紹介した場合、他の業者の紹介した案件が成約となり、自分が紹介した案件が無駄になる可能性があります。そこで、非独占契約の場合は、アドバイザーが熱心に取り組んでくれない可能性があります。一方、依頼者の側からすれば、アドバイザーに依頼している場合であっても他にいい案件があればそちらに乗り換えることができるというメリットがあります。このように、独占契約と非独占契約については、それぞれメリットとデメリットがありますので、依頼者の側としては、アドバイザーから言われたとおりにするのではなく、自らの利益のために何がいいのかを慎重に判断する必要があります。

(契約条項の例)
甲(依頼者)は、本契約を締結した日から令和●年●月●日までの期間(以下「独占的業務遂行期間」という。)において、本件業務に関し、乙(M&Aアドバイザー)に対し独占的に業務を委託するものとし、乙以外の者と協議、交渉等を行わないものとする。

直接交渉の禁止

M&Aアドバイザーの遂行する業務としては、契約の相手方の探索と、取引の完成に向けた各種業務のアドバイスに分けられます。その中でも契約の相手方の探索は極めて重要な意味を有し、依頼者としてもアドバイザーに最も期待するところと言えます。M&Aアドバイザーが、アドバイザリー契約書に基づき取引の相手方を見つけてきたとしても、依頼者が当該相手方候補者と独自に交渉し、契約を成立させてしまった場合には、M&Aアドバイザーの紹介によるM&Aと言えるのかどうかが不明確になってしまう可能性があります。また、依頼者がM&Aアドバイザーを飛ばしてM&Aアドバイザーが紹介した候補者と独自に契約交渉をする場合には、契約交渉の不手際から契約が成立しなかったり、当初考えていたのとは全く別の契約内容となったりする可能性もあります。このような場合、M&Aアドバイザーとしては報酬をもらえなくなって思わぬ損害を蒙ることになる可能性もあります。例えば、M&Aアドバイザーが100億円での企業買収の提案をしていたところ、売主・買主ともM&Aアドバイザーに対して3%の成功報酬を支払う約束をしていた場合に、M&Aアドバイザーに対する成功報酬の支払いを免れるために、売主と買主の間で、最初の段階ではアドバイザーの成功報酬の金額が少なくなる業務委託契約書を締結し、ある程度の時間がたちアドバイザーに対する成功報酬の支払義務がなくなった段階で、経営統合を行いましょうなどと合意される場合などがその例となります。直接交渉の禁止条項が入れられている場合は、依頼者はM&Aアドバイザーを通じてのみ相手方候補者と協議を進めることができることになります。依頼者がこの契約条項に違反して相手方当事者と直接交渉を行った場合には、依頼者はアドバイザー契約違反として、アドバイザー会社に対して損害賠償責任を負うことになります。

(契約条項の例)
甲(依頼者)は、乙(M&Aアドバイザー)の事前の承諾なく、本件に関して、乙(M&Aアドバイザー)から紹介または斡旋のあった対象企業またはその株主と接触し、または交渉してはならない。

秘密保持義務

M&Aは極めて秘密性の高い取引であり、情報の漏洩が生じた場合は、当事者は多大な損害を蒙ることになります。また、上場企業の場合は、M&Aに関する情報が漏洩した場合には、株式の取引市場価格に対して著しい悪影響が生じることになり、場合によってはM&A自体が遂行できないことになってしまいます。例えば、優良企業とのM&Aに関する情報が流出し、株価が高騰することで、期待していた取引価格での取引ができなくなってしまうような場合が想定されます。なお、上場株式については、インサイダー取引規制が適用されますので、適時開示がなされる前に、インサイダー情報を利用して株式の取引を行うことは処罰の対象となります。M&Aアドバイザーは、M&Aに関する秘密情報を入手する立場にありますので、依頼者に対して、秘密情報を厳格に保管し、他に漏洩しないことや、入手した情報を依頼された業務以外の目的で利用することが禁止されます。

(契約条項の例)
甲及び乙は、本件業務に関して相手方から開示された情報、本件交渉の事実及びその内容の機密を保持し、本件業務の目的以外には使用しない。また、甲及び乙は、相手方の事前の同意なくして第三者に情報を開示しない。但し、税務調査その他の法令諸規則に基づく官公庁からの要請に基づく開示はこの限りではない。甲及び乙は、本件が終了した場合又は本件遂行を中止することにつき甲及び乙間で合意した場合には、相手方から入手した情報を返還又は破棄する。甲及び乙は、情報の秘密保持について甲乙間で別途契約を締結したときは、当該契約の規定が本契約の秘密保持に関する規定に優先することを確認する。

契約期間

M&Aアドバイザリー業務は業務委託契約の性質を有するものであり、一定の目的のために締結されるものですので、契約期間は無制限ではなく、アドバイザリー契約書の中で契約期間が定められるのが通常です。契約期間についての明確な定めがない場合、将来M&Aの取引が生じた場合に、従前のM&Aアドバイザリー契約が適用になるのかどうかが不明確となってしまう可能性があります。そこで、依頼者の側としては、契約期間を1年などと明確に定め、その期間の経過後は、当事者間での明確な合意があった場合にのみ契約の更新がなされると定めておくのが好ましいと言えます。

(契約条項の例)
本契約は、対象企業の買収が成立した時、もしくは甲(依頼者)によって本件遂行の中止が決定された時までのどちらか早い時点で終了する。但し、本契約締結日から1年を経過した場合、甲及び乙の合意によって更新されない限り、その日を以って終了する。

免責条項

M&Aアドバイザーによる相手先候補者の推薦がなされ、契約交渉が開始されたとしても、必ずしも契約が完成するとは限りません。また、M&Aによって契約が成立したとしても、取引の相手方の財務内容が当初想定していたのと大きく異なっていたり、予期せぬ偶発債務が生じたりするなど、思わぬ損害を蒙ってしまう可能性もあります。このようにM&A取引は、大きなリスクを伴う取引ですので、依頼者はM&Aアドバイザーのアドバイスを参考にしながらも、取引を完成させるかどうかを自らの判断で決定しなければなりません。そこで、M&Aを遂行することで、仮に偶発債務の存在や取引の障害によって依頼者が損害を蒙ることになっても、アドバイザーが責任を負うものではないことを明確にするために、アドバイザーの免責に関する条項を設けることが多くあります。

(契約条項の例)
甲(依頼者)は、本件の実現等を自らの判断のもとにその採否を決定し、甲の最終的判断、甲の危険負担及び甲の責任において本件を行うこと、及び乙(M&Aアドバイザー)が本件の実現等を保証するものではないことを確認する。

裁判管轄

依頼者とM&Aアドバイザーとの紛争が生じた場合に、どこの裁判所で解決するかを明確にしておくため、M&Aアドバイザー契約書の中に、裁判管轄に関する規定を入れておくのが好ましいと言えます。

(契約条項の例)
本契約に起因し又は本契約に関連して生じた一切の紛争について当事者間の協議により解決することができない場合は、東京地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。

M&Aにおけるアドバイザーの報酬

M&Aアドバイザーの報酬

アドバイザーの報酬については、どのようにしなければならないという決まりはありません。従って、案件の性質なども考慮しながら、それぞれのアドバイザーが独自にアドバイザー報酬を決定しています。依頼者の側としては、アドバイザー報酬が適切かどうかを独自に検討し、金額が高い場合は報酬金額を下げるよう交渉したり、アドバイザー報酬について合意ができない場合にはその業者との取引をあきらめて他の業者に依頼したりすることが必要となります。アドバイザー報酬について、着手金と成功報酬が定められることが多くあります。例えば、着手金を200万円とし、成功報酬については、株式の譲渡対価の5%とすることなどです。着手金を分割払いとしたり、着手金を支払いながら、案件の進捗状況に応じて毎月のコンサルティング報酬を別途支払うこともあります。着手金として200万円を支払い、その後業務委託契約が継続している契約期間中、毎月100万円を支払うという場合です。毎月支払う固定額の報酬については、月額報酬という意味でマンスリーフィーなどと呼ばれることがあります。また、毎月の支払を固定額ではなく、業務時間に応じて報酬額を計算するタイムチャージ方式とする場合もあります。この場合は、担当者ごとに例えば1時間3万円などと時間単価が定められており、業務時間に時間単価を掛けた金額が毎月請求されることになります。報酬の金額や支払い方法などは、当事者間の交渉で決まることになりますので、依頼者としてはアドバイザーから提案されて金額が納得いくものかどうかをしっかり吟味し、納得ができない場合には金額を下げるなどの交渉をしておく必要があります。

M&Aアドバイザーの報酬としてのレーマン方式

M&Aのアドバイザー業務における成功報酬については、レーマン方式により決定するという場合が多くあります。レーマン方式とは、証券や資産の取引価格に応じて成功報酬の両立が定まってくるというものです。また、レーマン方式の場合、最低報酬額が定められるのが通常です。最低報酬額としては2000万円ないし3000万円の金額で設定されていることが多いようです。レーマン方式の場合の契約条項の例は次の通りです。

(契約条項の例)
本件に関し、甲(依頼者)と対象企業又は対象企業の株主らとの間で最終契約が成立した場合、甲(依頼者)は、乙(M&Aアドバイザー)に対して、成功報酬として下記手数料表に基づいて計算した金額を支払う。ただし、下記手数料表に基づいて計算された金額が3000万円に満たない場合は、3000万円とする。

証券・資産等の取引価額 料率
10億円以下の部分について 5.0%
10億円超 ~20億円の部分について 4.0%
20億円超 ~50億円の部分について 3.0%
50億円超 ~100億円の部分について 2.0%
100億円超の部分について 1.0%

 

成功報酬の条件成就

アドバイザーは、M&A契約が成立した段階で成功報酬を受領することができます。不動産の仲介業務において、不動産の売買契約が成立したときに成功報酬が発生するのと同じです。このような状態を法律的には停止条件の成就と言います。依頼者の側からすれば、高額の成功報酬を支払うことを避けるために、アドバイザーを飛ばして契約交渉をしたり、M&A契約の成立直前になってアドバイザーとの契約を解除すればいいのではないかと考えることがあります。しかし、将来アドバイザーが裁判所に対して訴訟を提起した場合は、理由なしにアドバイザー契約を解除することは、停止条件の成就を意図的に妨げたものとみなされ、信義則上、停止条件が成就したものとして、報酬が発生するとされる可能性があります。従って、信義則にもとるような形でアドバイザー契約を解除し、アドバイザーの成功報酬の支払いを免れることはできません。また、アドバイザーとの契約期間が終了した後に、アドバイザーが紹介した相手先候補者とM&A契約を成立させ、成功報酬の支払いを免れることを避けることも信義則に違反する可能性があります。そこで、アドバイザー契約書の中で、アドバイザー契約期間満了から1年(ないし3年)以内にアドバイザーが紹介した候補者との間でM&Aに関する契約が締結された場合には、アドバイザー業務が成功したものとみなし、成功報酬が発生すると定められていることが多くあります。

(契約条項の例)
甲(依頼者)が第●条(直接交渉禁止規定)に反して本件にかかる取引を成約した場合には、本件取引が成立したものとみなし甲(依頼者)は乙(M&Aアドバイザー)に対し、当該取引に関し前項に定める成功報酬を支払う。本契約の有効期間終了後1年以内に、甲が乙から紹介または斡旋のあった対象企業またはその株主との間において本件にかかる取引を成約した場合には、本件業務が完了したものとみなし、甲は乙に対し、当該取引に関し本契約に定める成功報酬を支払う。

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