• 2023.01.11
  • M&A・事業承継

M&Aにおける大量保有報告書の提出義務

大量保有報告書の制度

大量保有報告書の制度趣旨

ある者が上場会社の株式を5%以上保有する場合は、株価の形成に対して大きな影響を与えることがあります。上場会社の株式取得の目的としては、M&Aによる株式取得、業務提携、純投資等様々な理由がありますが、一般の株主としては、そのような投資家が存在すること自体が投資判断に影響を及ぼす重要な事実と言えます。上場会社は、有価証券報告書や四半期報告書などで大株主の状況について報告することになっています。しかし、有価証券報告書や四半期報告書は、上場会社の決算期などに応じて定められた時期に開示されるものであり、5%以上の株式を取得した者が現れてからすぐに開示されるわけではありません。そこで、株式取得の理由如何によらずに、5%以上の株式を取得した者は、取得日から5営業日以内に自ら大量保有報告書を提出しなければならないことにして、情報の開示を徹底させようとしたのが大量保有報告書の趣旨です。5%以上の株式を取得した場合に提出義務が生じることから、「5%ルール」とも言われます。

大量保有報告書の提出義務(金融商品取引法27条の23)

日本の金融商品取引所に上場されている株券を発行している会社の株券等(新株予約権証券、新株予約権付社債券などを含みます)を、5%を超えて保有したときは、大量保有者となった日から5営業日以内に、所管の財務局長あてに、大量保有報告書を提出することが必要となります。提出義務を負うのは、株式を発行している上場会社ではなく、上場会社の株式を取得した者(株主)です。大量保有報告書には、株券等の保有割合、取得資金、保有目的などを記載することになります。M&Aの担当者や、上場会社の買収を意図している者としては、大量保有報告書の提出義務があることを忘れないようにする必要があります。大量保有報告書の作成が難しい場合は、専門の会社からアドバイスを受けながら作成することも考えられます。

変更報告書の提出義務(金融商品取引法27条の25)

次の場合は、変更報告書を提出することが必要となります。
① 大量保有報告書の提出後、株券等保有割合が1%以上増減した場合
② 氏名や住所の変更など大量保有報告書に記載すべき重要な事項に変更があった場合

訂正報告書の提出義務(金融商品取引法第27条の25第3項)

既に提出された大量保有報告書若しくは変更報告書を訂正する場合に提出が必要になります。

株券等保有割合の計算方法

下記の計算式に基づき、株式等保有割合を算出します。潜在株式数は、新株予約権など現在株式にはなっていませんが、一定の条件を満たすことで株式となる場合の株式数をいいます。

(「自己保有分の株式数および潜在株式数」+「共同保有者分の株式数および潜在株式数」)/(「発行済株式総数」+「自己および共同保有者の保有分の潜在株式数」)

共同保有者

共同保有者がいる場合には、共同保有者の株券等の保有分を合算し株券等保有割合を計算します。共同保有者には次の者が含まれます。
① 共同して株券等を取得し、若しくは譲渡し、又は議決権の行使等を行うことを合意している者
② 夫婦の関係
③ 支配株主(50%超の議決権を有している者)と被支配会社の関係
④ 支配株主を同じくする被支配会社同士の関係

報告書の提出期限

大量保有報告書および変更報告書の提出は、報告義務発生日の翌日から5日以内(土日祝日等を除いてカウント)となります。

報告書の提出方法

大量保有報告書及び変更報告書の提出は、EDINET(エディネット:Electronic Disclosure for Investor’s NETwork)を使用して行うことが義務化されています。書面による提出はできません。EDINETに登録していない者は、EDINETに登録し、IDやパスワードの発行を受ける必要があります。作成方法については財務局に問い合わせるほか、専門の会社のアドバイスを受けることができます。

写しの送付(金融商品取引法27条の27)

大量保有報告書、変更報告書および訂正報告書を提出した場合には、遅滞なく、これらの書類の写しを次の者に送付しなければなりません。
① 株券などの発行者
② 金融商品取引所

大量保有報告書の公衆縦覧

大量保有報告書は受理日から5年間公衆に縦覧されることになっています。その結果、財務局の閲覧室のEDINET端末、または家庭や職場のインターネットからEDINETにアクセスすることで、5年の期間中であれば、だれでも閲覧することができます。

金融商品取引法による課徴金納付命令(金融商品取引法第172条の7、172条の8)

課徴金の対象者大量保有報告書、変更報告書を提出しない場合の課徴金

① 大量保有報告書や大量保有変更報告書を提出期限までに提出しなかった者
② 大量保有報告書、大量保有変更報告書、訂正報告書に虚偽の記載を行った者

課徴金の額

大量保有報告対象株券等の発行者が発行する株券等の時価総額の10万分の1になります。

例えば、時価総額が1000億円の企業の株式について大量保有報告書の提出をしなかった場合、課徴金の額は100万円となります。

刑事罰

大量保有報告書を提出しない者、変更報告書を提出しない者に対しては5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、またはこれらが併科されることがあります(金融商品取引法197条の2)。大量保有報告書、変更報告書、訂正報告書に虚偽の記載をして提出した場合も5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、またはこれらが併科されることがあります(金融商品取引法197条の2)。

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