国際取引契約書のイニシャルサイン
英文契約書へのサインの仕方
英文契約書への調印は、英語でのサインになります。日本語の契約書については、署名押印(手書きで名前を書いた上に、はんこを捺印する方式)または記名押印(名前の欄がプリントされており、はんこのみ捺印する場合)の場合が多いと思われますが、印鑑制度のない海外の取引では、契約書の調印に印鑑は使われません。サインについては、筆跡の鑑定が可能ですので、他人が偽造するのは難しいという理解が前提とされています。
副本の作成
通常、当事者の数だけの複数の原本を作成し、全部にサインした後、各当事者が1通ずつ原本を保管するということになりますが、場合によっては、1通のみ契約書を作成し、当事者の一人だけが原本を保管し、他方当事者はコピーのみ保有するという方法もあります。
バインディングの方法
古い時代や、国家間の正式の文書の場合には、複数ページを袋綴じして、穴をあけてリボンを通し、リボンの端に蝋付けをして、蝋が乾く前に印章を押すという方法が用いられていました。リボンの端が蝋付けされている場合には、印章を破壊しない限りリボンを取り除くことはできませんので、複数のページをばらばらにすることはできなくなります。このようにして契約書の一体性を確保する手段が用いられていましたが、あまりにも重々しいことから、現在ではリボンでバインドする方法はほとんど用いられていません。
袋とじによるバインディング
現在では、複数ページを袋綴じの方法で、バインディングして、調印する方法が多く用いられます。バインディングは通常糊付けの方法で行われますので、糊をはがさない限り、契約書をばらばらにすることはできないことになります。さらに慎重を期するためには、バインディングした用紙のところにサインを記載して、糊付けをはがした場合に、その痕跡が明瞭に残るような工夫が施されることもあります。
イニシャルサイン
一方で、多くの契約書では、バインディングもせずに、全てのページにイニシャルサインをするということもあります。20ページくらいの契約書であれば、全ページにサインすることもそれほど負担ではありませんが、AddendumやScheduleなどの名前の添付文書が増えてくる場合には、数百ページになることもありますので、このような場合にはイニシャルサインはかなり負担になりますので、バインディングの方法を取らざるを得ないことになります。
最終ページにのみサインする場合
また、契約書の内容によっては、各ページへのイニシャルサインもせずに、単にばらばらになった契約書の最終ページの署名欄にサインするだけということもあります。この場合であっても、契約書の有効性については問題がありませんので、裁判上も有効な契約書と判断されることになります。しかし、将来裁判になった場合に、当事者が裁判所に提出した契約書の内容が異なっている場合に、どちらの文書が最終バージョンの契約書なのかが争われる可能性もないわけではありませんので、重要な契約書については全ページにイニシャルサインをするかバインディングの方法を取られることをお勧めします。
PDFによるサインの交換
契約書の調印を急ぐ場合や、当事者がお互いに海外に在住する場合には、PDFやFaxでドラフトを送付し、互いにサインしたものを相手方に送るという方法もあります。例えばアメリカのAさんが契約文書1通のみにサインし、日本にファクスしてきます。日本のBさんは、同じ契約文書1通のみにサインし、その文書をアメリカにファックスします。多くの場合には、契約書の全文をファックスするのではなく、サインページのみファックスすることがあります。日本人の感覚からは、それでも有効なのか、将来変造の可能性がないのか疑問がありますが、アメリカではこのような調印の仕方が非常に多く用いられています。この場合、BさんはAさんのみがサインした文書のコピーを保管していることになり、AさんはBさんだけがサインした文書のコピーを保管していることになります。このような方法でも、両当事者がサインし、それを相手方に送付した段階では、当事者間の合意が成立しますので、有効な契約書の調印と考えられます。この場合、後に原本をそれぞれ送付して、完成された原本を双方が保管する場合もあれば、最後まで、相手方がサインした契約書の写しのみ保管するということもあります。
サイン証明書の発行
調印の際には、相手方が本当に調印したその人本人であるかどうかを確認することも重要になります。日本の不動産取引では、司法書士や不動産の仲介業者は本人確認義務がありますので、運転免許証などで本人確認を行いますが、外国の当事者の場合、本人確認が難しいこともしばしば生じえます。その場合には、公証人が発行するサイン証明書を合わせて送付してもらい、サイン証明書のサインと契約書のサインが同じものかどうかを肉眼で判定するということになります。
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