• 2023.05.10
  • 国際取引

英文契約交渉のポイント

栗林 勉

執筆者情報

栗林 勉Tsutomu Kuribayashi

栗林総合法律事務所の代表であり、米国ニューヨーク州の弁護士資格を有する国際弁護士。国内企業法務の他、国際的紛争の解決や国際取引に関する契約書の作成、中小企業の海外進出支援などの業務を幅広く扱っている。

英文契約の重要性

外国企業との間で契約書を作成する場合は、英語で契約書が作成される場合が多いと思われます。金額が小さな契約であったり、定型的な契約の場合は、相手方から提示された契約書の内容をそのまま承諾し、サインすることも多いと思われます。一方で、外国から物を輸入する場合など契約書の種類によっては様々な事項について個別に合意する必要があります。また、契約書の記載内容は必ずしも当事者の考えと一致しているとは限りませんので、予想外の内容が契約書に記載されており、契約当事者の一方が多額の損害を被るという可能性もあります。特に国際間の契約においては、パロールエビデンスルールが適用になり、契約書に記載された事項のみが証拠となります。「あの時は口頭の会話の中でこういう約束だったではないか。」ということを主張しても認められません。したがって、英文契約書の中身については慎重に吟味し、自分にとって不利な内容になっていないかどうかを確認する必要があります。また、いずれかの当事者に有利・不利とは別に、その記載内容が当該取引の実務に合っているのかどうかを確認する必要があります。例えば、雇用契約であると思っていたのに、請負契約であったというような場合もあります。もし相手方から提示された契約内容が自分の考えとは異なる場合は、契約書の内容を修正するよう相手方に主張する必要があります。当事者の一方からこのような主張があって初めて契約交渉が始まることになります。何も主張しない場合は、相手方の主張がそのまま認められることになります。この点から、英文契約書に調印する場合は、自分の立場を保護するために、自分の主張をしっかりと行うことが重要です。

英文契約交渉とは

英文契約書には、様々な事項が記載されていますので、それぞれの記載内容に合意する必要があります。権利義務の発生の法的根拠は当事者間の合意にあります。当事者が契約内容に合意して始めて契約書の拘束力が生じることになります。契約条項の一部について相手方との間に意見の相違がある場合は、協議によって合意をするよう努力する必要があります。このような協議の過程を契約交渉といいます。例えば、当事者の一方が売買代金を1万ドルと主張し、相手方当事者が売買代金は8000ドルであると主張する場合、金額に相違がありますので、合意は成立していません。売主が、売買契約を成立させるために、譲歩を行い、売買代金の提示金額を1万ドルから9000ドルまで下げてきます。買主も当初は8000ドルで購入するつもりでしたが、このままでは契約が成立しないので、1000ドル高くなってもやむを得ないと判断し、9000ドルでの購入に同意します。ここに至って始めて9000ドルで売るという意思表示と、9000ドルで買うという意思表示の合致が認められますので、契約が成立することになります。このように契約交渉というのは双方の譲歩によって行われるのが通常です。相手方からなにがしかの譲歩を引き出すのが契約交渉ということになります。

ファーストドラフトの提案

英文契約書は、当事者のいずれか一方が最初にドラフトを作成して、相手方当事者に提示するのが一般的です。このようにして提示された最初のドラフトをファーストドラフトといいます。ファーストドラフトは、当事者の一方が自ら作成することもありますし、専門の弁護士に依頼して作成してもらうこともあります。また、インターネットなどからサンプルを入手することもありますし、最近ではチャットGPTを含めたAIにより契約書を作成するということもあるかもしれません。いずれの場合であっても、ファーストドラフトを提示する当事者は、どのような内容の契約書にするかを考え、自分の方で納得できる契約書案を提示してくることになります。その結果、ファーストドラフトとして提示された契約書案は、通常ファーストドラフトを提示した側の当事者に有利な内容となっています。ファーストドラフトの提示を受けた相手方当事者は、ファーストドラフトを提示した側の当事者が自分に有利な内容で提示してきているということをきちんと認識して契約書の内容をチェックする必要があります。「相手方は信頼できる人なので、相手方の提案する内容をそのまま受け入れても問題ない」というようなことは絶対に思ってはいけません。相手方が信頼できる人であるかどうかと、契約内容が承認できるものであるかどうかは別の問題です。

ファーストドラフトを作成することの優位性

英文契約交渉は、当事者のいずれかが作成したファーストドラフトを中心に協議が行われることになります。英文契約書には、きわめて多くの契約条項や契約条件が含まれてきますので、そのすべてをきちんとチェックし、自分の納得いくものに変えていくことは極めて大変な作業になります。また、仮に、自分にとって納得いく契約条項への変更を行ったとしても、ファーストドラフトを提示した当事者がその変更内容を承諾してくれるかどうかも大きな障害となってきます。したがって、英文契約書の条項を変更するよう提案し、実際に変更を認めてもらうのは大変な作業であり、それが実現できる可能性も必ずしも高いわけではありません。また、きわめて多くの契約条件について見落としなく変更を行っていくことができるのかどうかも問題となってきます。このような観点からすれば、ファーストドラフトを提示した側の当事者は、その時点ですでにかなり有利な立場に立っていると考えられます。もし英文契約書を作成する過程で自分の側でファーストドラフトを作成できる機会があるのであれば、その機会は貴重な機会であると考え、必ず自分の側でファーストドラフトを作成するようにすることをお勧めします。また、販売代理店契約などで、代理店の側からファーストドラフトを提示されているケースも見ますが、本来は、販売店を指定するメーカーや卸の側が契約書の内容を定めてその内容に従って契約をするのが原則です。販売店の側が契約の提示をしてくるのは極めてイレギュラーな場合となりますので、このような提案がイレギュラーな提案であるということも分かっておくことも重要になります。

契約書のレビュー、契約書のチェック

契約当事者の一方がファーストドラフトを提案してきた場合、相手方当事者はファーストドラフトの内容を吟味し、それを受け入れることができるかどうかをチェックすることになります。このような契約書の内容を確認する作業を「契約書のレビュー」とか、「契約書のチェック」と言います。契約書のレビューや契約書のチェックは、会社の法務部門や総務部門の人が担当することもできますし、英語が得意な担当者が担当するということもあります。しかし、英文契約書のレビュー・チェックを行う際には、英語の内容を理解できたかどうかという点よりも、その内容が法律的な観点や実務的な観点から問題ないかどうかを判断できるという観点がより重要と言えますので、担当者の決定においては英語能力よりも、取引の内容や法律の内容に詳しい人が行うのが好ましいと考えられます。また、契約書のレビューやチェックを行う十分なリソース(人材)を社内で見つけられない場合には、国際法務に精通した外部の専門家(国際法務を扱う弁護士)に相談することもできます。外部の専門家に依頼する場合は、弁護士報酬など専門家報酬を支払う必要があります。専門家報酬については、事前に契約書の内容を見せて弁護士報酬についての見積書を作成してもらい、見積書により合意された金額で作業を行ってもらうのが一般的です。但し、難解な内容の契約書などにおいては、契約書の詳細を確認しないとどの程度の作業が必要か判断しづらいこともあります。また、契約内容についての一般的観点からのコメントを出してもらうだけでなく、場合によっては英語により契約条項を新規に作成してもらう必要も出てきます。このような場合に、どのくらいの作業になるかを見通すことが困難な場合もありますので、場合によってはタイムチャージ制により、実際に作業にかかった時間をもとに弁護士報酬が請求されることもあります。依頼する弁護士との間においてどのような形で報酬が請求されることになるのかをしっかり確認しておくことが重要です。特に、当初の段階では契約書のレビューを行ってくれと依頼していたところ、英文による契約条項の作成をお願いしたいとか、相手方からの提案に対するカウンタープロポーザルを作成してほしいとか、このようなカウンタープロポーザルの提案が好ましいかどうか判断してほしいなどと、依頼したい事項が徐々に変化してくることもあります。このような場合には、弁護士との間における当初の委任契約書の中にどの範囲まで含まれているのかについて争いとなることも出てきますので、業務の途中で何度も報酬の確認を行いながら作業を進めていくのが好ましいと思います。

契約書をチェックするソフトの活用

契約書のレビューや契約書のチェックをリーガルフォースやリセなどのソフトを用いて機械的にチェックしてもらう場合も増えてきているように思います。しかし契約書は、当事者の状況に応じて様々な内容が含まれるものですので、ソフトウェアによるチェックのみで対応できるものではありません。また、契約書チェックのソフトはいろいろなサンプルを提示することがあっても、その中のどれが当該事案において適切かを提案してくれるわけではありません。これらはその当事者の置かれている様々な条件によって決定づけられることになります。契約書をレビューするソフトを活用する場合でも、最終的にどのように契約条項の修正提案を行うのかなどについては、契約の担当者が自分の頭で考えて判断する必要があります。

日本語の翻訳の作成

英文契約書は、日本語の契約書と比較して長文になりますし、難解な英語によって作成されており、正確に理解することが難しい場合もあります。また、仮に担当者が英語の内容を理解したとしても、それを社内で共有できる形にしておかないと、思わぬ見落としや、混乱を招く可能性があります。英文契約書は調印して終わりというものではなく、その契約内容に基づいて継続して取引を行っていくものです。したがって、英文契約書の内容を担当者一人しか理解していないという状況は適切とは言えません。社内の多くの人が契約内容を正確に把握し、それに基づいて行動できるようにしておく必要があります。数年前までは、英文契約書を翻訳する作業は極めて大変であり、外注することで高額の費用を要することもありましたが、最近ではグーグル翻訳や英文契約書の翻訳用の専門ソフトなども多く市販されていますので、多少の時間をかければ誰でもある程度の翻訳版を作成することができるようになりました。したがって、現在では、仮に担当者の英語の能力が高く契約内容を直ちに把握できるという場合であっても、いったん日本語訳を作成し、社内で情報共有を図りながら、見落としがないかどうかを多角的な視点からチェックしていくのが好ましいと言えます。

カウンタープロポーザルの提示

英文契約書の内容をレビューしたりチェックすることで、住所や当事者名などの誤りを訂正することがあります。これは単に、事実関係についての当事者の認識の誤りを訂正する作業と言えます。一方、英文契約書のレビュー・チェックの結果、相手方当事者から提案された契約条項に了解できないという場合があります。このような場合には、貴社の考えを書面にまとめて相手方当事者に提案していく作業が必要になります。このような作業をカウンタープロポーザル(対案の提案)と言います。英文契約書を作成する場合は、通常相手方当事者は日本語が話せないと思いますので、カウンタープロポーザルも英語で作成することになります。その際、提案する契約条項自体を新たに作成する場合と、ファーストドラフトの契約内容に了解できないことを文書で説明する場合があります。例えば、日本からサンフランシスコに商品を販売する契約において、危険負担の移転時期や国際運送費の負担について、CIF横浜によると書かれていた場合、危険負担は横浜港での荷物の積み込みによって買主に移転しますが、海上運送における運送賃や保険料などは売主の負担となります。もし売主がFOB横浜とし、横浜港で船に荷物を積み込むことで、それ以降の運送賃や保険料は買主負担としてもらいたいと考えている場合は、FOB横浜の契約条項を提示することになります。相手方当事者の提案する契約条項を認められないことをコメント欄に書いて出すだけでは相手方当事者に貴社のコメントを無視されてしまう可能性もあります。日本側の当事者としては、必ずワードバージョンに変更履歴付きで契約条項の修正を行い、●日付のバージョンという形で提出するのが好ましいと思われます。貴社が変更履歴付きでワードバージョンの修正提案を行った場合は、その変更履歴付きの条項案をもとにさらなる協議が続けられるという形で、貴社の意見が無視されるリスクが少なくなります。

契約条件の交渉

商品の売買において、売主は1万ドルで販売することを主張し、買主が8000ドルで購入することを主張している場合、意見の不一致がありますので、そのままでは契約が成立しません。上記述べた例のように、売買価格について売主と買主が双方譲歩し、双方の折り合いがつく形で合意が導かれるのが一番好ましいと言えます。例えば、売主は1000ドルの譲歩を行い、売買価格を9000ドルとすることに同意します。反対に買主は当初の想定よりも売買価格が1000ドル高くなることを受け入れて、9000ドルで購入することに同意します。このような相互の譲歩を導くのが契約交渉です。但し、中には、売主としては1万ドル以下では絶対に売るつもりはないと主張してくる場合もあります。このような場合に、買主としては1万ドル以下で購入することはできませんので、売買契約を締結しないという選択をして購入をあきらめるか、売主の主張する条件に同意するかを判断しなければならないことになります。例えば、買主は当初8000ドルで購入することを考えていたが、売主が1万ドル以下での売却に同意しないので、購入価格が想定価格よりも2000ドル高くなるが、1万ドルでの購入に同意するということになります。このような場合、売主は一切の譲歩をしておらず、買主のみが譲歩をしたということになりますが、当該商品をどうしても買いたいという買主の希望が強い場合には、このような一方的譲歩という結果になることもあります。

バーター取引と戦略的アプローチ

上記の例で、買主は想定よりも2000ドル高い金額で購入することに同意したわけですが、この点では買主が一方的な譲歩を行ったことになります。買主としては、一方的な譲歩を行うだけで終わることもありますが、せっかく重要な点で譲歩をしたので、その他の契約条件においては買主の希望を取り入れてほしいと考えることもあります。例えば、購入価格を1万ドルとすることに同意するから、紛争解決の場所はアメリカではなく日本としてほしいとか、売買価格は1万ドルとするが、日本までの運送賃については売主サイドで負担してほしいというような場合です。このような場合に、売買価格を1万ドルとすることについて先に同意してしまい、その後、管轄や運賃について交渉しようとしても、再度管轄や運賃についての条件が個別に協議がなされてしまうことになります。そこで、買主としては、1万ドルに同意する提案を行う際に、単純に「1万ドルに同意する。」と回答するのではなく、「もし管轄を日本としてくれるのであれば、売買代金の点については売主の主張を取り入れて1万ドルとすることに同意する。」というような形で、条件付きで提示することが好ましいと言えます。このように契約交渉においては、売主は手元の様々なカードを見せて、買主も手元の様々なカードを見せて、それらを交換しながら最終的に双方が合意できる着地点を目指すというのが好ましい契約交渉であると言えます。代金の点では相手方の提示する条件に同意するが、その代わりに管轄条項については当方の主張を了解してくれというような形で交渉することをバーター取引といいます。契約交渉は様々な手持ちカードの交換によって行われますので、気が付いたことを単純に相手方に伝えるというのではなく、どのような伝え方をするのがより効果的であるかを考え、戦略的なアプローチを行う必要があります。

相手方の恫喝に屈しない

世界には様々な人が住んでおり、契約交渉についても国ごとに特殊性があります。いくつかの国においては、相手方当事者を恫喝して、有利な契約条件を獲得するのが契約交渉であると考えているような人も多くいます。日本人は英語が不得意ですので、相手方当事者が契約交渉の途中においていきなり大声で怒鳴り散らしたりする場面に出くわすと、自分の側に何か問題があったのではないかと、つい躊躇してしまうことも多くあると思います。しかし、ビジネスにおける契約交渉では、本来恫喝したり、怒ったりする必要はないわけで、そのような相手方の態度はすべて自分たちの契約条件を飲ませようとするスタンドプレーだと考える必要があります。このような精神的な安定を維持することも契約交渉における重要なファクターになります。

契約調印時までは自由に提案内容を変更できる

英文契約書の交渉過程において、いったん提案した内容を再度変更したいと考えることもあります。例えば、売買価格を9000ドルで合意したが、その後の再検討によってどうしても9500ドルでないと合意できないと判断するような場合です。相手方当事者からすれば、売買代金を9000ドルとすることはすでに合意済みであり、それを基に様々な契約条件を交渉しているのであるから、今更基本的な契約条件である売買代金を変更するような提案は認められないと主張してくることも多いと思います。場合によっては恐喝的な形で怒り出したり、このような唐突な提案はビジネスマナーに違反するものであるとして問題視してくることもあります。しかし、英文契約書は調印して始めて拘束力が生じるものであり、最終契約書に調印がなされるまではお互いに契約交渉の過程にあって、何ら法的拘束を受ける立場にあるわけではありません。したがって、契約交渉の途中において一定の契約条件についてすでに合意がなされているような場合であっても、再度の検討によりその条件を受け入れられないと判断される場合には、躊躇なく、契約条件の変更を申し入れるべきと考えます。相手方の立場をおもんばかったり、自分たちがすでに合意しているのであるから今更条件変更を持ち出すことはできないと自責の念に駆られたりするのは適切ではありません。

契約交渉の場所

英語による契約交渉は極めてストレスの強い作業になります。ましてや外国の相手方の事務所で行うような場合には、プレッシャーは極めて強くなります。そのような強いプレッシャーの中で契約交渉をすることは当然不利益になります。契約交渉の場所についてはできるだけ中立的な場所を選ぶべきと考えます。もし仮に相手国において交渉する場合でも、相手方当事者のオフィスや相手方当事者の代理人弁護士のオフィスではなく、ホテルの会議室など中立的な場所で行うのが好ましいと言えます。

ネイティブの弁護士の立ち合い

契約規模がそれほど大きくない契約や、リスクが限定されている契約については、日本企業の担当者のみで交渉を進めることで問題ないと思われます。また、契約条項が繰り返しやり取りされながら最終的な合意にまとめられる場合であっても、メールやオンライン会議のみで協議される場合には担当者レベルで対応することもあり得ると思われます。しかし一方で、M&Aや重要な契約交渉については、内容が複雑であるうえ、相手方との細かな点についての激しいやり取りがなされる可能性も想定されます。このような場面ではネイティブの弁護士が代理人として関与することは極めて有益であると思われます。ネイティブの弁護士を雇う場合に多少の費用負担はありますが、自分たちの意図を契約書に反映させることができるとか、納得のいく契約交渉を行うことができるという面でのメリットが大きいと思われますので、この点の検討も重要です。

契約締結をやめる勇気

英文契約交渉が長期にわたり、複雑な交渉を経ている場合には、すでに多額の費用を支出しており、契約書の締結ができない場合には多額の損失を被ってしまうという場面も多くあります。しかし、自分たちの納得できない契約書に調印することのリスクのほうが、すでに支出した費用に比べても極めて大きいと思われます。したがって、もし契約交渉において貴社の考えがどうしても認めてもらえないという場合には、契約交渉を終了させ、契約をしないという判断をすることも重要です。

契約締結上の過失

契約交渉を途中で打ち切った場合、双方ともに契約交渉に要した費用について損害となってしまうので、相手方から損害賠償請求をされるのではないかとか、役員としての善管注意義務に違反するのではないかと危惧される方もいらっしゃいます。確かに法的には、契約締結上の過失理論により、仮に契約締結段階であっても相手方当事者に対して信義則上の義務があり、正当な理由なしに契約交渉を一方的に打ち切るのは債務不履行に当たると考えられる場合もあります。しかし、契約締結上の過失が認められるのは、きわめて重大な信義則違反がある例外的な場合であり、ほとんどの事例では契約交渉を打ち切ったことで相手方に損害賠償責任が生じることはありません。ケースバイケースの判断になりますので、弁護士の意見を取得しておくことも重要ですが、契約締結上の過失責任を問われるのではないかとの懸念を抱いて、契約交渉を打ち切ることができないリスクのほうがはるかに大きいものになりますので、注意してください。

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