英文秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement)
英文秘密保持契約書の無料サンプルの提供
当事務所では、英文秘密保持契約書の無料サンプルを提供しております。英文の秘密保持契約書の作成を検討されている方は、是非ご覧ください。
秘密保持契約書(NDA)の必要性
英文の秘密保持契約書は、Non-Disclosure Agreement(非開示契約書)(略して「NDA」)とか、Confidentiality Agreement(秘密契約書)(略して「CA」)などと言われます。国際取引の中では、NDAやCAの略語のほうがより広く使われています。海外との取引契約を開始したり、新規事業についての協議を開始したりする場合、秘密保持契約書の締結を行っていなければ、提供した情報が他の事業者に流出したり、他の事業目的に利用されたりする恐れがあります。また、上場会社におけるM&Aの協議などはインサイダー情報になりますので、契約締結に向けた協議を行っていること自体が秘密であることも多くあります。このような場合、情報の管理は重要ですので、最低限秘密保持契約書の締結を行い、情報の管理の方法などについて当事者間で確認しておく必要があります。
双務契約(mutual agreement)と片務契約(unilateral agreement)
当事務所で依頼者からレビューを頼まれる秘密保持契約書を見ていると、相手方(外国企業)が開示した情報について依頼者は秘密を保持しなければならないことを書いていますが、日本の企業が開示した情報の秘密保持については規定がないものがあります。この場合、日本の企業の秘密については保護の対策が一切なされていないことになります。従って、いずれの当事者が開示した情報についても保護されるような双務契約とするか、日本の企業の開示した情報について保護されるような内容の片務契約にしなければ日本の企業の情報が保護されることにはなりません。もちろん、日本の企業の側から特に秘密情報を提供することがない場合には、片務的契約でも問題ないですし、外国企業の情報のみが保護される片務契約が締結された後に、別の機会に貴社の情報を保護するような契約書や差入書を作成してもらうこともあります。双務契約の場合、情報を開示する当事者を情報開示当事者(Disclosing Party)と呼び、情報を受領する当事者を情報受領当事者(Receiving Party)と呼ぶことがあります。
秘密保持契約書の契約条項
当事者の特定
国際取引を行う場合には、当事者の特定は極めて重要です。日本の国内企業同士で取引を行う場合、法務局にある商業登記簿謄本を取得したり、帝国データ―バンクなどの情報提供会社の情報を入手することで、相手方が法人か否か、代表者が誰かなどを確認することができますし、取引過程で多くの情報の入手がありますので、当事者の特定が問題になるケースは少ないと思われます。一方、国際取引を行う場合には、相手方が法人かどうか、どのような種類の法人か、ジョイントベンチャーかパートナーシップ、公的機関に登録がなされているかどうかなどを確認する必要があります。当事者の特定が間違っている場合(例えばLimited Liability Companyとして契約を締結したが、契約の相手方は法人としての登録はなされておらず、実質はPartnershipであった場合など)、仮に相手方が契約に違反したとして損害賠償請求や仮処分の申し立てをしたとしても、裁判の相手方が間違っているとして請求が却下されてしまう可能性があります。また、契約当事者を誤ったことを理由として、秘密保持契約書自体が無効となって裁判で敗訴してしまう可能性もあります。当事者の特定は、契約当事者の会社名、住所、設立準拠法などにより行われることになります。契約の冒頭部分にある頭書と言う部分で表現されます。
(例)
This Non-Disclosure Agreement (the “Agreement”) is made and entered into on the 20th day of January 2019 by and between XXXX, a limited liability company incorporated under the law of Japan, having its registered office at Taito Bldg., 1-1-1, Marunouchi, Chiyoda-ku, Tokyo , 100-0001, Japan (hereinafter called “XXX”) and YYY Ltd., a limited liability company incorporated under the law of California, having its registered office at 7 floor Brandies, BBB str. Los Angeles, California, USA, (hereinafter called “YYY”).
(訳)
この秘密保持契約書(以下「本契約書」)は、2019年1月20日、〒100-0001東京都千代田区丸の内1-1-1台東ビルディングに本店を有し、日本法に基づき設立された株式会社XXX(以下「XXX」)と、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンジェルスBBB通りブランディ7階に本店を有し、カリフォルニア州法に基づき設立された有限責任会社であるYYY(以下「YYY」)との間で締結された。
秘密情報の定義
英文秘密保持契約書を作成する際に最も重要なのは、秘密情報の特定をどのようにするかです。単に開示当事者が開示した一切の情報(any and all information disclosed by the Disclosing Party)というだけでは、対象となる情報が広汎に過ぎ、かえって秘密保持の対象がどの範囲なのか不明確になってしまいます。また、開示の態様についても、文書で開示する場合と口頭で開示する場合があります。文書で開示する場合に、当該文書に秘密情報であると記載した部分についてのみ秘密情報として取り扱うとするか、渡した文書は全て秘密情報であるとするかを決定する必要があります。もしきちんと秘密の管理をしようとするのであれば、文書にConfidential(秘密)等と記載された場合のみ秘密として扱うものとして秘密情報の範囲を限定しながら、一旦秘密として指定された情報については、極めて厳格に管理してもらう方が好ましいと思われます。このような観点からは、口頭で開示された情報についても、秘密情報であることを後日(例えば開示の日から30日以内に)書面で確認した場合にのみ秘密情報として取り扱うとする方が、情報の管理として適切と思われます。
(例)
“Confidential Information” shall mean any and all business, technical, and financial information related to the Subject Purpose defined below disclosed by the Disclosing Party to the Receiving Party, either directly or indirectly. Confidential Information may include, by way of example, but without limitation, products, specifications, formulae, test, test procedures and test reports, equipment, business strategies, customer lists, know-how, drawings, pricing information, inventions, ideas, and other information, or its potential use, that is owned by or in possession of the respective Party.
(訳文)
「秘密情報」とは、直接又は間接に、情報開示当事者から情報受領当事者に対して開示された情報で、下記の目的に関連する経営、技術、及び財務についてのあらゆる一切の情報を言う。秘密情報には、各当事者が所有または保持する製品、仕様、公式、試験結果、試験の手順、試験結果の報告、設備、事業戦略、顧客リスト、ノウハウ、図面、価格情報、発明、アイデア、及びその他の情報を含むがこれらに限られるわけではない。
秘密情報からの除外
開示当事者から開示された情報であっても、開示の時に既に公知である情報や、情報の受領当事者が独自に開発した情報などは、秘密保持契約書で保護すべき秘密情報から除かれることになります。これらの規定は秘密情報の外延部分を明確にするために設けられるものです。下記の規定はこの種の除外規定としては一般的なものですが、貴社が主として情報を開示する当事者になり、貴社の開示情報を保護する必要性が高い場合には、除外対象については限定する必要がありますし、一方で貴社が主として情報の受領当事者であって、インサイダー情報の開示や法令に基づく開示の要請から、秘密情報の開示ができる場面をできるだけ幅広く規定しておきたい場合には、除外対象を幅広く規定する必要があります。このように、秘密情報の除外対象は一般的な規定で標準的な内容を入れておけばいいとの考えは正しくなく、貴社の置かれた状況や、開示される情報の種類・性質等を考慮して除外対象の範囲を明確化していく必要があります。
(例)
Notwithstanding anything to the contrary contained herein, Information that the Recipient can prove with documentary evidence falls into one or more of the following shall not be regarded as Confidential Information for the purpose of this Agreement:
1 Information which is at any time in the public knowledge otherwise than through act or failure to act on the part of the Receiving Party;
2 Information which was known to Receiving Party before its receipt of the same from Disclosing Party, without obligation of confidentiality;
3 Information which is at any time rightfully received by Receiving Party from any third party without obligations of confidentiality;
4 Information which is at any time developed by Receiving Party independently of Confidential Information received from Disclosing Party.
(訳)
本契約書の他の条項に拘わらず、下記のいずれかに該当することを情報受領当事者が文書によって証明できる情報については、本契約書の目的上、秘密情報とは扱われない。
1 情報受領当事者の故意または過失によらずに公知となった情報
2 当該情報を開示当事者から受領する前に、情報受領当事者が、秘密保持義務を負うことなく知っていた情報
3 情報受領当事者が、秘密保持義務を負うことなく、第三者から正当に受領した情報
4 情報開示当事者から開示された秘密情報によることなく、情報受領当事者が独自に開発した情報
秘密保持義務、目的外使用禁止
秘密保持契約書の締結の目的は、秘密情報を秘密として管理し、情報の漏洩がなされないようにすることと、秘密情報を目的外に使用されないようにすることです。従って、ほとんどの秘密保持契約書においては、秘密情報の漏洩禁止と目的外使用禁止が規定されています。但し、秘密保持契約書が締結されるのは、一定の事業目的を達成するためですので、その目的達成のため(例えばM&Aの可能性の検証のため)必要な範囲において当該情報の開示ができないとすると、事業目的を達せられないことになります。そこで、情報受領当事者が秘密情報を開示できる場合とその際の条件(例えば当該事業目的に従事する従業員に開示する場合など)を明確にし、反対にそのような場合を除いては情報の開示が出来ない事を明確にすることも必要です。
(例)
Receiving Party shall keep in confidence, and shall not disclose to any third party, Confidential Information, and Receiving Party shall not use Confidential Information except for Subject Purpose. Receiving Party shall (1) limit the use of and access to Confidential Information to its employees who need to know Confidential Information for Subject Purpose, and (2) cause such employees to comply with the same obligations set for the in this Agreement. The obligations set for the in this Agreement shall continue 5 years from the receipt of Confidential Information from Disclosing Party.
(訳)
情報受領当事者は、秘密情報を秘密として保持し、第三者に漏洩せず、秘密情報を契約の目的以外の目的で使用しない。情報受領当事者は、(1)秘密情報の使用及びアクセスを、契約の目的のために秘密情報を知る必要のある従業員に限定し、(2)かかる従業員に対して、本契約書に定めたのと同じ義務を課するものとする。本契約書に定めた義務は、開示当事者から秘密情報を受領した時から5年間継続するものとする。
注意の程度
秘密情報を受領した当事者に対して一定レベルの注意義務をもって秘密情報の管理をすべきことを要求する条文が入れられることが多くあります。特に、例外事由にあたり開示が認められる場合(従業員や下請けに開示される場合)において、その従業員や下請けに対しても秘密保持義務を負わせることを受領当事者に要求しておかなければ、従業員や下請けから情報が開示された場合への対処ができなくなります。契約書のサンプルとしては次のようなものがあります。
(例)
The Receiving Party agrees that it shall take reasonable measures to protect the secrecy of and avoid disclosure and unauthorized use of the Confidential Information of the Disclosing Party. Without limiting the foregoing, the Receiving Party shall take at least those measures that it takes to protect its own most highly confidential information and shall ensure that its employees who have access to the Confidential Information of the Disclosing Party have signed a non-use and non-disclosure agreement in content similar to the provisions hereof, prior to any disclosure of the Confidential Information to such employees. The Receiving Party shall not make any copies of the Confidential Information of the Disclosing Party unless the same are previously approved in writing by the Disclosing Party. The Receiving Party shall reproduce the Disclosing Party’s proprietary rights notices on any such approved copies, in the same manner in which such notices were set forth in or on the original.
(訳)
受領当事者は、開示当事者の秘密情報についての秘密性を保護するために合理的な手段を講じるものとし、開示当事者の秘密情報が開示されたり、無断使用されたりすることがないようにする。受領当事者は、最も高度の秘密性のある自己の情報を保護するのと同じかそれ以上のレベルの対策を講じるものとし、開示当事者の秘密情報にアクセスした従業員に対して、当該従業員への秘密情報の開示の前に、本契約書と同様の内容を定めた無断使用及び無断開示を禁じる契約書に署名させるものとする。受領当事者は、開示当事者が事前に書面で同意した場合を除き、開示当事者の秘密情報のコピーを作成してはならない。受領当事者は、許可を得て作成されたコピーに対し、原本に付されているのと同様の方法により、開示当事者の秘密情報であることを示す警告文を付するものとする。
差し止め条項(Injunctive Relief)
秘密保持契約に違反して秘密情報が第三者に開示された場合は、開示当事者にとっては回復不可能な損害を被る可能性があります。契約違反の場合は、それによって生じた損害の賠償請求を行うことができるのが原則です。しかし、秘密時契約条項の違反については、損害賠償請求を行うだけでは必ずしも回復することができない損害を生じさせてしまう恐れがあります。そこで、契約違反が生じる可能性が生じたような場合には、まだ契約違反が明確でない場合であっても、裁判所の命令を取得し、契約違反行為を事前に防止しておく必要があります。日本では裁判所が行う仮処分命令に相当することになります。海外でも、衡平法上の救済措置(英米法の国の場合)としてかかる救済が認められることになります。
(例)
The Parties agree that any breach of this Agreement by the Receiving Party is likely to cause the Disclosing Party substantial and irreparable damage or injury and therefore, in the event of such breach, in addition to such other remedies which may be available, the Disclosing party shall have the right to specific performance and injunctive relief.
(訳)
受領当事者が本契約書に違反した場合、開示当事者に対して実質的で回復不能な損害や侵害をもたらすであろうことを両当事者は認識しており、従って、かかる違反があった場合は、開示当事者は、他の救済手段に加えて、特定の履行請求や救済命令の申立てを行う権利を有する。
権利の留保(No Grant of Rights)
秘密保持契約書を締結し、情報の開示を行ったとしても、開示当事者は必ずしも当該情報に対する権利を受領当事者に移転したり、受領当事者に対して当該情報を使用する権利を認めたという事にはなりません。この点を明確にするために、開示した情報の権利は開示当事者に帰属することを契約書上で定めておくことがあります。
(例)
The Disclosing Party shall retain all ownership, intellectual property, and other proprietary rights in Confidential Information provided hereunder. This Agreement does not grant any license to the Receiving Party for the Confidential Information, other than the rights expressly provided for herein.
(訳)
開示当事者は、本契約書における秘密情報に対する所有権、知的財産権、その他の権利を留保する。本契約書は、本契約書により明確に規定されている場合を除き、受領当事者に対して秘密情報に対するライセンスを付与するものではない。
非保証条項
提供する秘密情報の正確性について問題となることがあります。情報の提供者は売買契約やライセンス契約締結の前提として情報の開示を行っており、提供する情報の正確性について保障できないということを定めることがあります。受領当事者が提供された情報の正確性を信用して行為したところ、不正確な情報によって損害を被ったなどとして損害賠償請求をなされることを防ぐためです。
(例)
ALL CONFIDENTIAL INFORMATION IS PROVIDED “AS IS”. EACH PARTY MAKES NO WARRNTIES, EXPRESS, IMPLIED OR OTHERWISE REGARDING ITS ACCURACY, COMPLITENESS OR PERFORMANCE.
(訳)
全ての秘密情報は現状有姿により提供されているものである。いずれの当事者も、その正確性、完全性、履行可能性について明示であるか黙示であるかを問わず如何なる保証も行うものではない。
秘密情報の廃棄
情報の管理をきちんと行うためには、契約が終了した際の情報(特に書面)の取扱いについて明確にしておく必要があります。例えば、情報の受領当事者に対して交付した書面を廃棄することを求め、廃棄証明書を提出してもらうことなども考えられます。日本の場合、産廃業者などに依頼すれば、秘密情報が記載された書類やハードディスクなどの写真を添付して当該書類はハードディスクを廃棄したことを証明してくれます。
(例)
Receiving Party agrees to return or destroy, upon Disclosing Party’s request, all written and other tangible materials which contain any Confidential Information received from Disclosing Party, including all extracts and copies thereof.
(訳)
情報受領当事者は、情報開示当事者からの要求がある場合、引用文や写しを含め、開示当事者から受領した一切の秘密情報が記載された書面その他の有形物を返還または廃棄するものとする。
秘密情報の返還要求
秘密情報については、将来勝手に使われることのないよう返還または処分することを求める権利があることを明確にすることが多くあります。
(文)
All documents and other tangible objects containing or representing Confidential Information which have been disclosed by the Disclosing Party to the Receiving Party, and all copies thereof which are in the possession of the Receiving Party, shall be and remain the property of the Disclosing Party and shall be returned to the Disclosing Party within ten (10) days after the Disclosing Party’s written request.
(訳)
開示当事者から受領当事者に対して開示された秘密情報を含み又はこれを表示する全ての文書及びその他の有体物、並びに受領当事者が保管する全てのコピーについては、開示当事者が権利を有するものであり、開示当事者からの書面による要求があった後10日以内に開示当事者に対して返還されるものとする
秘密保持契約書の一般条項
秘密保持契約書の中にも一般規定を設けることは多くあります。一般条項としては次のようなものがあります。
契約期間
秘密保持契約書を締結した当事者は、一定の期間、秘密情報を管理する義務を負うことになりますので、契約期間が無制限であると情報の管理に支障をきたしてしまうことがあります。そこで、秘密保持契約書は、契約目的が達成した時点で効力を失うとしたり、契約締結時から一定の期間の経過によって契約が終了することを定めることがあります。ただし、秘密保持契約終了後、直ちに秘密情報の秘密性が失われることとなると、情報開示当事者が思わぬ不利益を被ることがあります。そこで、契約終了した場合にも、秘密情報の秘密性を保持する義務や、目的外使用の禁止に関する契約条項は有効であると規定することがあります。このように契約本体の効力が終了した時でも、一定の契約条項については、その後も有効に存続するとする規定をSurvival Provision(残存条項)ということがあります。
(例)
This Agreement shall be effective and in full force for a period of two (2) years from the date of execution hereof and this Agreement may be renewed upon mutual agreement of the Parties hereto. However, Article 2 and 3 shall be in force for three (3) years after the termination of this Agreement.
(訳)
本契約は、本契約書調印の日から2年間有効であり、両当事者の合意により契約の更新を行うことができる。但し、契約条項2条及び3条については、本契約終了後3年間有効に存続する。
準拠法、管轄
国際取引を行う場合、当事者の母国法が異なることになりますので、いずれの国の法律を適用するかを決定する必要があります。準拠法の合意がなされる場合は、その合意に従うことになりますが、合意がない場合には、裁判地の国際私法の規定によりいずれの国の法律が適用になるかが定められることになります。秘密保持契約は、基本となる取引を行うために締結されるものですので、例えば国際売買契約が締結される場合には、その契約書の中で準拠法や管轄を定め、秘密保持契約書には特に準拠法や管轄についての規定を設けないということもあります。
(例)
This Agreement and all transactions contemplated hereby, shall be governed by, construed and enforced in accordance with the laws of Japan. The Parties agree that all disputes hereunder shall be solely and exclusively determined by the competent courts of Japan.
(訳)
本契約書及び本契約書に基づく全ての取引については、日本法に基づき解釈され、執行される。当事者は、本契約に関する全ての紛争が日本の管轄裁判所のみにより、専属的に決定されることに同意する。
譲渡・移転の禁止(Non-Assignability)
契約上の地位や契約に基づいて発生した権利については、相手方当事者の同意がない限り第三者に譲渡できないとする規定です。企業買収などが行われる場合に、Change of Control条項として働き、支配権が移転する場合には、相手方当事者の同意を得ることを求められることになります。
(例)
This Agreement or any part of this Agreement may not be assigned or transferred by either party without the prior written consent of the other party. Any assignment or transfer without such consent shall be null and void.
(訳)
本契約書及び本契約書のいかなる部分についても、他方当事者の文書により事前の了解がない限り譲渡または移転することができない。
完全合意(Entire Agreement)
契約書に規定のない事項については法的拘束力が生じないことを明確にする規定です。
(例)
This document contains the entire agreement between the parties with respect to the subject matter hereof, and neither party shall have any obligation, express or implied by law, with respect to trade secret or proprietary information of the other party except as set for the herein.
(訳)
本契約書は本契約書の主題についての当事者間の完全な合意を含むものであり、いずれの当事者も、本契約書に規定がない限り、他方当事者のトレードシークレット又は知的財産権に関する明示又は黙示の義務を負うものではない。
権利放棄条項(Waiver)
契約書で定められた権利の一部を放棄したり、権利行使を怠ったりした場合であっても、そのような権利の放棄や権利行使の遅滞は他の権利の放棄にはならないということを明確にする規定です。
(例)
Any failure to enforce any provision of this Agreement shall not constitute a waiver thereof of any other provision. This Agreement may not be amended, nor any obligation waived, except by writing signed by its duly authorized representative.
(訳)
本契約の執行を怠ったとしても、当該規定またはその他の規定の放棄とはみなされない。本契約書は、正当な権限のある代表者により書面でサインされない限り修正されず、また義務が免除されることはない。
レター形式の秘密保持契約書
典型的な秘密保持契約書については、契約書の書面に両当事者が調印するのが一般ですが、一方当事者が相手方から提供された秘密情報を秘密として保護しますという内容を記載したレターを差し入れるという形式もあります。レター形式の秘密保持契約と言います。また、XがYに対して、自分が提供する情報は全て秘密情報であり、情報の受領者は秘密保持義務を負いますよと言うことを記載した書面を交付し、Yがそれに対して了解した旨を記載して返信するという方法もあります。いずれの場合であっても秘密情報の受領者は秘密保持義務を負うことになりますので、法的効果は秘密保持契約書の場合と異なりません。
従業員との秘密保持契約書
従業員を雇う場合、将来、これらの者が会社の秘密情報を持ち出したり、秘密情報を用いて競合会社を立ち上げたりする可能性があります。内部の者が会社を裏切り、外部に情報を提供する場合の会社へのダメージは極めて大きなものとなる可能性があります。特に最近は、インターネット(eメール)で外部に情報を転送したり、外部装置へのダウンロードを行ったり、USBなどのメモリーに情報を移転することで、秘密情報の外部への持ち出しが極めて容易に行うことができるようになっています。
秘密情報の管理については、就業規則などの会社の内部規定で定めているだけでは不十分です。従業員や契約社員を雇う際には、個別に秘密保持契約書にサインをしてもらい、情報の管理の重要性についてしっかり理解してもらう必要があります。また、退職する際にも、退職金の支払いを行う前提として、秘密保持契約書に再度サインしてもらい、内部情報の持ち出しを行わないことを文書で確認してもらうことが重要となります。
従業員との秘密保持契約書を作成する際には、秘密保持条項の他、従業員に守ってもらうべき複数の約束事についても規定しておく必要があります。これらの条項としては、職務発明に関する規定の確認、競業避止義務に関する条項、他の従業員や契約社員などの引き抜きや勧誘を行わないことの確認等が含まれます。
職務発明に関する規定(Inventions)
(例)
If Employee creates, invents, designs, develops, contributes to or improves any works during the employment by the Company and within the scope of such employment, Employee shall promptly and fully disclose same to the Company and hereby irrevocably assigns, transfers and conveys, at the Company’s sole expense, to the maximum extent permitted by applicable law, all rights and intellectual property rights therein to the Company.
(訳)
従業員が、雇用契約期間中に、職務に関連して何がしかの成果を創作、発明、デザイン、創作への寄与、または改良した場合、従業員は直ちにそれを会社に開示し、会社の費用により、法律により許された範囲内で、その権利と知的財産権を会社に取消不能な形で譲渡し、移転し、売却する。
競業避止に関する規定(Non-Competition)
(例)
During a period of this Agreement and for a period of twelve months after the termination of this Agreement, Employee shall not, directly or indirectly, for any reason, work as an employee, officer, director, partner, consultant, agent, owner of the person, company, or any other legal entity which compete with any business of the Company or its affiliates.
(訳)
本契約の有効期間中及び雇用契約終了後12カ月間、従業員は、直接又は間接に、理由の如何を問わず、会社または関連会社の事業と競合する人、会社、その他の法的団体の従業員、役員、取締役、パートナー、コンサルタント、エージェント、株主として働いてはならない。
勧誘禁止規定(Non-Solicitation)
(例)
During a period of this Agreement and for a period of twelve months after the termination of this Agreement, Employee shall not, directly or indirectly, for any reason, recruit any employee of the Company, or solicit or induce any employee of the Company to terminate his/her employment with the Company, or solicit or try to take away the customers of the Company or its affiliates.
(訳)
本契約の有効期間中及び雇用契約終了後12か月の間、従業員は、直接または間接に、理由の如何に拘わらず、会社の従業員をリクルートし、または会社の従業員に対して会社を辞めるよう勧誘し、または誘導してはならず、会社または関連会社の顧客を勧誘しまたは持ち去ろうとしてはならない。
コンサルタント・外注業者との秘密保持契約書
コンサルタントや外注業者と契約する場合にも秘密保持契約書を締結しておかないと、これらの者から秘密情報が漏洩されるリスクがあります。秘密保持契約書の内容については、一般的な秘密保持契約書で問題ありませんが、取引の内容や状況に応じて、従業員の場合と同じく、競業避止義務や勧誘禁止の規定も定めておくのが好ましいと思われます。
基本契約書の秘密保持条項との関係
秘密保持契約書が調印・締結された後に、売買契約書やライセンス契約書などの基本契約が作成され、その契約書の中で秘密保持条項が規定される場合があります。この場合、どちらの契約書の効力が有効であるかは、当事者の意思の解釈の問題になりますが、明確な指針がない場合、同一事項に関する前の合意は後の合意によって上書きされるという原則により、後の合意が有効となります。従って、秘密保持契約書は基本合意書の締結までの間に提供された秘密情報について適用になり、その後に提供される秘密情報については基本契約の条項が適用になると解釈される可能性が高いと思われます。
不正競争防止法との関係
不正競争防止法は、産業競争政策として国家が定める競争規制となります。従って、不正競争防止法の内容は、強硬法規であり、当事者間の合意如何に拘わらず、法律の内容が強制的に適用されることになります。当事者間で合意した場合であっても、不正競争防止法の内容に違反することはできません。これに対し、秘密保持契約書は、当事者間の合意があって始めてその効力が生じるものです。従って、合意がない場合には、いかに重要な秘密情報であっても、当然に保護されるわけではありません。
不正競争防止法の定義規定では、「営業秘密」とは、秘密として保管されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有益な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいうとされています(不正競争防止法2条6項)。すなわち秘密情報として保護されるためには、①秘密性、②有用性、③非公然性の要件を満たす必要があります。
不正競争防止法では。営業秘密に関する不正行為については色々なパターンが示されています。例えば、営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、またはその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、若しくは開示する行為については「不正競争」とされて禁止されています(不正競争防止法2条1項7号)。
秘密保持契約書が作成されていない場合は、民法の不法行為や不正競争防止法により違法な情報漏洩について損害賠償請求を行うことが可能ですが、民法や不正競争防止法では、営業秘密の内容や、不正行為の内容について定義がなされており、これに該当する場合でないと損害賠償請求やその他の法的救済措置を求めることができないことになります。そこで、仮に当該国の法律により法令による規制がなされている場合であっても、秘密保持契約書により秘密情報の漏洩を禁止したり不正使用を禁止することは重要であると言えます。
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