• 2023.01.11
  • M&A・事業承継

M&Aにおける公開買付規制

株式公開買い付け規制

金融商品取引所に上場されている株式については、だれでも自由に売買できるのが原則です。また、株式の売買の方法についても、市場内での取引が強制されるわけではありませんので、売主と買主の合意により上場株式を市場外で売買することも可能です。ただし、特定の株主が上場会社の経営支配権の獲得を目指して大量の株式を購入する場合、何らの法律上の規制がないと、一般の株主は買付者との間で売買価格や売買条件について個別に交渉をしなければならず、一部の株主は高価で売却することができるが他の株主は安い金額での売却を強いられるなど、株主間での不公平が生じることになります。また、一般の株主としては、発行会社に対する十分な情報を有しておらず、公開買付者の提示してくる条件が適切なものであるのかどうか判断し得ません。さらに、公開買付者が多数の株式を買い占める場合には、将来株式の非公開化がなされることによって、一般の株主は、株式を売却する機会を永久に失ってしまう可能性も考えられます。このように特定の株主が経営支配権の獲得を目指して株式の買占めを行う場合には、少数の株主は極めて不安定な地位に陥ることになります。また株主間での不平等が生じる可能性もあります。そこでこのような不平等をなくして、全ての株主を平等に取り扱うため、買付者による情報開示を充実させ、全ての株主に対して同じ条件で平等に売りつける機会を与えようとしたのが金融商品取引法の公開買付規制です。公開買い付けは、Take Over Bidの頭文字を取って、TOBとも呼ばれます。

公開買付けが強制される場合

どのような場合に公開買付が強制されるかについては、金融商品取引法27条の2第1項に規定されています。以下、それぞれについて確認していきたいと思います。

5%基準

取引所市場外における株式の買付で、買付の後における買付者の持株比率が5%を超える場合は公開買い付けによらなければならないとされています(金融商品取引法27条の2第1項第1号)。但し、著しく少数の者からの買付(それ以前の60日間に市場外で取得した相手方の人数の合計が10人以下の場合)については、5%基準の例外として、公開買付によらずに株式を取得することができます。結局、市場外において不特定多数の者から株式を買い集める場合は、5%基準が適用になり、5%以上の株式の買い集めがなされる段階で公開買い付けが強制されるということになります。

3分の1基準

取引所市場外における株式の買付で、著しく少数の者(当該買付等を行う相手方の人数と、当該買付等を行う日の前60日間に取引市場外で行った買付等の相手方の人数との合計が10名以下のもの)からの株式の買付であっても、買付の後における買付者の持株比率が発行済株式総数の3分の1を超える場合には、公開買付によらなければならないとされています(金融商品取引法27条の2第1項第2号)。著しく少数者からの買付であっても、買付者の所有割合が発行済株式総数の3分の1を超えるような場合には、全ての株主に対して売却の機会を与えるために、公開買付を行わなければならないということになります。

ToSTNeT取引

取引所市場内における株券等の買付であっても、東京証券取引所の立会外取引(ToSTNeTトストネット取引)などのいわゆる「特定売買」であって、当該買付等の後における株券等の持株比率が発行済株式総数の3分の1を超えるときは、公開買付によらなければならないとされています(金融商品取引法27条の2第1項第3号)。ToSTNeT取引などのいわゆる「特定売買」については、取引所市場内取引とされていますが、実質的には相対の取引に近く、市場外での取引と近い性質を有しています。そこで、公開買付規制の潜脱を防止するため、ToSTNet取引により買付後の持株比率が3分の1を超える場合には、公開買付によらなければならないとされています。

急速な買付け

次の要件を満たす場合には、「急速な買付け」または「スピード規制」として、公開買付けによらなければならないとされています(金融商品取引法27条の2第1項第4号)。

  1. 3ヶ月以内に(金融商品取引法施行令7条2項)
  2. 発行済株式総数の10%を超える株式を(金融商品取引法施行令7条3項)
  3. 買付又は新株発行により取得する場合で
  4. その結果、持株比率が3分の1を超える場合
  5. 但し、発行済株式総数の5%を超える株式を市場内でなく公開買付でもない方法で取得していること(金融商品取引法施行令7条4項)

上記の要件については非常に分かりにくい内容となっています。要件としては、3か月以内に発行済株式の10%以上の株式を取得することが第1の要件となります。次に第2の要件として、第1の要件により取得した10%以上の株式のうち、5%を超える株式については「市場内でもなく公開買付でもない方法」(すなわち、相対取引、特定売買)により取得している必要があります。最後に、第3の要件として、取得後の持株比率が3分の1を超えることが必要となります。

この規定は、3分の1を下回る株式を市場外で取得しておき、その後市場取引により株式を増やして持株比率が3分の1を超えるようにすることで、公開買付規制を潜脱しようとすることを防止するために作られた規制です。このような「急速な買付け」について公開買付制度を適用することで、3分の1ルールの潜脱を防止しようとしています。

「急速な買付け」規制では、3ヶ月以内に、10%を超える株式を取得する場合を規制しています。もし10%を超える株式を取得しないでも3分の1を超えるという場合には、もともと23%以上の株式を取得していたということになりますので、大量保有報告書により株式の保有が明らかにされています。そこで3か月以内に10%以下の株式を取得する場合には、既に大量保有者であることは明らかであり、不意打ちとなることはなく、公開買い付けを強制する必要はないということになります。

「急速な買付け」にあたるためには、5%を超える株式を相対取引又は特定売買等によって取得している必要があります。従って、相対取引又は特定売買等による取得を5%以下として、それ以外を市場内取引や公開買い付けの方法によって取得している場合には、公開買付け規制は適用されないことになります。

一方、過去の3カ月以内に、10%を超える株式を取得し、そのうち5%を市場外で取得している場合で、その後の市場内取引によって3分の1を超えて株式を取得するようになった場合には、結果的に全ての買付について公開買い付けが必要であったということになります。従って、市場外で行った5%の株式の取得は過去に遡って違法となるということになります。

対抗的公開買付

次の場合には、公開買い付けによらなければならないとされています(金融商品取引法27条の2第1項第5号)。

  1. 現に公開買付けが行われている場合において
  2. 当該株券等の発行者以外の者(持株比率が3分の1を超えている者に限る)が
  3. 現に行われている公開買付けの期間中に(金融商品取引法施行令7条5項)
  4. 5%を超える株式を取得しようとする場合(金融商品取引法施行令7条6項)

既に3分の1以上の持株比率を有する者がいる状態で、第三者によって公開買い付けが行われている場合は、支配権をめぐる紛争が生じている場合と言えます。このような状況下で、一方の当事者に対しては公開買い付けを要求しておきながら、他方の当事者については、市場内外で自由に株式を取得できるとするのは不公平です。そこで、他方当事者による公開買い付け期間中は、現に3分の1以上の持株を有する当事者に対しても、公開買付によらない買付を禁止したのがこの規定の趣旨となります。

公開買付開始公告

公開買付者は、公開買付者の氏名・名称、住所・所在地、公開買付の目的、買付等の価格、買付予定の株券等の数、買付等の期間などについて公告を行う必要があります(金融商品取引法27条の3第1項、公開買付府令10条)。公告の方法は、EDINETによる電子公告か、日刊新聞紙に掲載するかのいずれかの方法によることになります(金融商品取引法施行令9条の3第1項)。

公開買付届出書の提出

公開買付者は、公開買付開始公告を行った日に、買付等の価格、買付予定の株券等の数、買付等の期間、買付等にかかる受け渡しその他の決済、公開買付者が買付等に付した条件などを記載した公開買付届出書を関東財務局長に提出するものとされています(金融商品取引法27条の3第2項)。また、公開買付者は、一定の添付書類を付して、公開買付届出書の写しを発行会社及び発行会社の株式が上場されている金融商品取引所に送付する必要があります(金融商品取引法27条の3第4項、公開買付府令13条1項)。

対象者の意見表明

公開買付けに係る株券等の発行者(対象者)は、公開買付開始公告がなされた日から10営業日以内に、公開買付けに対する意見表明報告書を提出しなければならないとされています(金融商品取引法27条の10第1項、金融商品取引法施行令13条の2)。

また、意見表明書には、当該公開買付けに関する意見のほか、公開買付者に対する質問や買付期間の延長請求などを行うこともできます(金融商品取引法27条の10第2項)。

意見表明書に公開買付者に対する質問が付されている場合は、公開買付者は、意見表明書の写しの送付を受けた日から5営業日以内に質問に対する回答を内閣総理大臣(関東財務局長)に対して提出し(金融商品取引法27条の10第11項、金融商品取引法施行令13条の2第2項)、その写しを公開買付けに係る株券等の発行者(対象者)及び金融商品取引所に送付する必要があります(金融商品取引法27条の10第13項)。

このような質問とその回答のやり取りの中で、当該公開買い付けに対する株券等の発行者(対象者)の態度が明確となり、当該公開買い付けに応じるべきかどうかについての判断材料が一般株主に対しても提示されることが期待されています。

公開買付者に対する規制

公開買付によらない買付等の禁止

公開買付者は、公開買付期間中は、公開買付けによらないで公開買付の対象となる株券等の買付を行うことはできません(金融商品取引法27条の5)。

買付条件等の変更禁止

公開買付者は、買付価格の引下げ、買付予定株数の減少、期間の短縮など、投資家にとって不利な結果となる条件の変更を行うことができません(金融商品取引法27条の6第1項)。公開買付期間中における買付条件の変更が禁止されているのは、公開買付期間中に、一般の株主に対して不利益な内容での買付条件の変更がなされる場合には、株価の乱高下をもたらし、相場操縦の温床になりえるからです。

公開買付説明書の作成・交付

公開買付者は、公開買付届出書に記載した事項を内容とする公開買付説明書を作成し、株券の売却をしようとしている者に対して公開買付説明書を交付しなければいけません(金融商品取引法27条の9)。これにより応募者に対する直接の情報開示がなされることになります。

公開買付の撤回禁止

公開買付者は、公開買付開始公告をした後は、原則として公開買付けを撤回することができません(金融商品取引法27条の11第1項本文)。これに対し、買付に応募した株主については、公開買付期間中はいつでも、当該公開買付にかかる契約(株式を売却する契約)を解除することができます。

公開買付による買付期間

公開買付の期間については、20営業日以上、60営業日以内の間で、公開買付者が定めることになります(金融商品取引法27条の2第2項、金融商品取引法施行令8条1項)。但し、公開買付期間が30営業日未満の場合は、対象会社は意見表明報告書で買付期間の延長申請を行うことができ(金融商品取引法27条の10第2項、金融商品取引法施行令9条の3第6項)、この場合は、公開買付者は、買付期間を30営業日に延長しなければなりません(金融商品取引法27条の10第3項、金融商品取引法施行令9条の3第6項)。一般の株主は、公開買い付け期間中に、公開買い付けに応じるべきかどうかを判断することになります。

株式買付の決済

買付期間が終了した後、公開買付者は応募者に対し株式の取得に関する通知書を送付し、

遅滞なく決済をしなければなりません(金融商品取引法27条の2第5項、金融商品取引法施行令8条5項第1号、第2号)。

公開買付の条件

公開買付者は、公開買付開始公告及び公開買付届出書において、次の条件を付すことができます。

  1. 応募株券等の数の合計が買付予定の株券等の数の全部又はその一部として予め公開買付開始公告及び公開買付届出書において記載された数に満たない時は、応募株券等の全部の買付等をしないこと(金融商品取引法27条の13第4項第1号)。
  2. 応募株券等の合計が買い付け予定の株券等の数を超えるときは、その超える部分の全部又は一部の買付けをしないこと(金融商品取引法27条の13第4項第2号)。部分的な買付けが行われる場合は、応募株主から案分比例の方法で買い付けることになります(金融商品取引法27条の13第5項)。

 

公開買付けの終了

公開買付者は、公開買付期間の末日の翌日に、公開買付けの結果を公告、公表しなければなりません(金融商品取引法27条の13第1項)。さらに、公開買付者は、内閣総理大臣(関東財務局長)に対し、公開買付報告書を提出しなければなりません(金融商品取引法27条の13第2項)。また、公開買付者は、応募株主等に対して、買付け等に関する通知書を送付することが必要となります。

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