• 2023.01.17
  • M&A・事業承継

M&Aにおける法定開示

M&Aにおける情報開示制度

M&Aにおいて株式の発行会社が行う情報開示としては、法定開示、適時開示、任意開示があります。また、上場会社の株式を取得する者については、金融商品取引法により情報開示が要求されることがあります。

法定開示

M&Aは他の会社の買収や企業結合などを目的に行われるもので、会社の財務や運営において極めて大きな影響を及ぼします。そこで、会社法や金融商品取引法では、M&Aに関する情報をできるだけ早期に開示するよう要求し、投資家に対して投資判断が可能な十分な情報が提供されるようにしています。会社法や金融商品取引法などの法律により開示が要求される場合を法定開示といいます。このうち会社法による情報開示は上場会社と非上場会社の両方に適用がありますが、上場会社において既に金融商品取引法による情報開示がなされている場合は会社法による開示が省略されることがあります。反対に金融商品取引法による開示は原則として上場会社に適用になりますが、有価証券の募集及び売り出しに関する規定(発行規制)は上場会社と非上場会社の両方に適用になります。

適時開示

M&Aが行われる場合等、会社の運営や財務に対して重大な影響を及ぼす事象が生じた場合は、速やかに情報を開示し、投資家の適時・的確な投資判断ができるようにしておく必要があります。金融商品取引法では、臨時報告書の提出を求めるなど上場会社に対する情報開示を義務付けていますが、金融商品取引法による開示は適時開示(タイムリーディスクロージャー)という観点からは必ずしも十分とは言えません。そこで、金融商品取引所は、自己の取引所に上場している上場会社に対し、それぞれの取引所が独自に定めた規則に従って、適時に情報の開示を行うことを求めています。金融商品取引所規則による情報の開示は適時開示と言われます。

任意開示

また、法律の規制によるものではなく、金融商品取引所規則によるものでもありませんが、投資家の投資判断のためには情報の開示を行うのが適切と考えられる事項があります。このような場合になされる開示は、任意に開示を行うものであることから、任意開示と言われます。任意開示は、東京証券取引所の適時開示情報伝達システム(TDnet)によるほか、記者会見、報道機関への情報提供、ホームページへの掲載などの方法によって行われます。

投資家(株主)による情報開示

金融商品取引法には、発行会社に対して情報開示を要求するだけではなく、発行会社の株式を取得する投資家の側にも開示を求めているものがあります。このようなものとしては、大量保有報告書(5%以上の株式を取得する場合)、公開買付届出書(3分の1以上の株式を取得する場合など)、親会社等状況報告書(過半数の株式を取得する場合)等があります。

金融商品取引法における法定開示(有価証券届出書の提出)

有価証券の募集又は売出しを行う場合、発行者は、原則として、当該募集又は売出しに関し、内閣総理大臣(財務局長)に有価証券届出書を提出する必要があります(金融商品取引法第4条第1項、5条)。有価証券の募集又は売出を行う場合は、上場会社の他、非上場会社も有価証券届出書の提出義務を負います。有価証券届出書は、金融庁が所管するEDINETを通じて行われ、提出された有価証券届出書はEDINETにより公開されることになります。

「有価証券の募集」とは、多数の者(50名以上の者)を相手方として、新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘を行うことを言い(金融商品取引法2条3項)、「有価証券の売出し」とは、多数の者(50名以上の者)を相手方として、既に発行された有価証券の売付けの申込み、又は買付けの申込の勧誘を言います(金融商品取引法2条4項)。

有価証券届出書の提出義務がある募集又は売出しについては、特定組織再編成手続きを含むとされています(金融商品取引法4条1項)。特定組織再編成手続きとは、組織再編成(合併、会社分割、株式交換、株式移転)により新たに有価証券が発行又は既発行の有価証券が交付される場合であって、株主が50名以上であり、かつ機関投資家のみに発行又は交付される場合でないなど一定の要件を満たす場合を言います(金融商品取引法2条の3第1項ないし第5項、金融商品取引法施行令2条の4、同法2条の6)。

従って組織再編成手続き(合併、会社分割、株式交換、株式移転)により、組織再編成対象会社(組織再編成により吸収合併消滅会社、新設合併消滅会社、吸収分割会社、新設分割会社、株式交換完全子会社、株式移転完全子会社となる会社)(金融商品取引法第2条の3第4項第1号、金融商品取引法施行令2条の2)の株主(50名以上の者)に対して株式が発行又は交付される場合は、原則として、有価証券届出書の提出が必要となります。

但し、有価証券の募集又は売出しに該当する場合であっても、発行価額又は売出価額の総額が1億円未満の有価証券の募集又は売出しについては、有価証券届出書の提出は必要ありません(金融商品取引法4条1項第5号)。この場合、発行価額の総額が1000万円を超える場合は、有価証券通知書の提出が必要となります(金融商品取引法4条6項、企業内容等の開示に関する内閣府令4条5項)。

継続開示義務

金融商品取引法では、次のいずれかに該当する会社については、有価証券報告、四半期報告書、臨時報告書、内部統制報告書を継続的に作成し、開示するよう義務付けています。従って、継続開示義務を負う会社がM&Aを行う場合で、金融商品取引法に定める要件に該当する場合は、法定の期間内に臨時報告書等を提出することが必要となります。継続開示義務を負う会社は次の通りです。

  1. 金融商品取引所に上場されている株券等の発行者(金融商品取引法24条第1項第1号)
  2. 募集又は売出し(公募)を行った株券等の発行者(金融商品取引法24条第1項第3号)
  3. 株券等の所有者が1000名以上いる場合の発行者(金融商品取引法24条第1項第4号)

金融商品取引法における法定開示(臨時報告書の提出)

継続開示義務を負う会社(金融商品取引法24条第1項の規定により有価証券報告書を提出しなければならない会社)は、①当該会社が発行者である有価証券の募集または売出しが外国において行われるとき、②その他公益または投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める場合に該当することとなったときは、臨時報告書を、遅滞なく内閣総理大臣(財務局長)に提出しなければならない(金融商品取引法24条の5第4項)とされています。臨時報告書を提出しなければならない場合や、臨時報告書に記載して開示すべき事項については、企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項に具体的に定められています。M&Aとの関係で開示が必要となるのは次のような場合があります。

親会社の異動

提出会社の親会社の異動(当該提出会社の親会社であった会社が親会社でなくなること又は親会社でなかった会社が当該提出会社の親会社になること)があるとき(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項第3号)

特定子会社の異動

提出会社の特定子会社の異動(当該提出会社の特定子会社であった会社が子会社でなくなること又は子会社でなかった会社が当該提出会社の特定子会社になること)があるとき(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項第3号)。なお、「特定子会社」とは、次の各号に掲げる特定関係のいずれか1以上に該当する子会社を言います(企業内容等の開示に関する内閣府令19条第10項)。

1 当該提出会社の最近事業年度に対応する期間において、当該提出会社に対する売上高の総額又は仕入高の総額が当該提出会社の仕入高の総額又は売上高の総額の10%以上である場合

2 当該提出会社の最近事業年度の末日において純資産額が当該提出会社の純資産額の30%以上に相当する場合

3 資本金の額又は出資の額が当該提出会社の資本金の額の10%以上に相当する場合

主要株主の異動

提出会社の主要株主の異動(当該提出会社の主要株主であった者が主要株主でなくなること又は主要株主でなかった者が主要株主になること)があるとき(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項第4号)。なお、「主要株主」とは、自己又は他人の名義をもって総株主等の議決権の10%以上の議決権を保有している株主を言います(金融商品取引法163条第1項)。

提出会社による子会社取得

提出会社による子会社取得(子会社でなかった会社の発行する株式又は持分を取得する方法その他の方法により、当該会社を子会社とすること)が行われることが、当該提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合であって、当該子会社取得に係る対価の額に当該子会社取得の一連の行為として行った、又は行うことが当該機関により決定された当該提出会社による子会社取得に係る対価の額の合計額を合算した額が当該提出会社の最近事業年度の末日における純資産額の15%以上に相当する額であるとき(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項第8の2号)。

連結子会社による子会社取得

連結子会社による子会社取得が行われることが、当該連結子会社の業務執行を決定する機関により決定された場合であって、当該子会社取得に係る対価の額に当該子会社取得の一連の行為として行った、又は行うことが提出会社又は連結子会社の業務を執行する機関により決定された提出会社又は連結子会社による子会社取得に係る対価の額の合計額を合算した額が当該連結会社の最近連結会計年度の末日における連結純資産額の15%以上に相当する額であるとき(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項16の2号)

代表取締役の異動

提出会社の代表取締役の異動(当該提出会社の代表取締役であった者が代表取締役でなくなること又は代表取締役でなかった者が代表取締役になること)があった場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項9号)

株式交換

提出会社が株式交換完全親会社となる株式交換で、当該株式交換により株式交換完全子会社となる会社の最近事業年度の末日における資産の額が当該提出会社の最近事業年度の末日における純資産額の10%以上に相当する場合又は当該株式交換完全子会社となる会社の最近事業年度の売上高が当該提出会社の最近事業年度の売上高の3%以上に相当する場合、又は提出会社が株式交換完全子会社となる株式交換が行われることが、当該提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項6の2号)

株式移転

株式移転が行われることが、提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項6の3号)

吸収分割

提出会社の資産の額が、当該提出会社の最近事業年度の末日における純資産額の10%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる吸収分割又は提出会社の売上高が、当該提出会社の最近事業年度の売上高の3%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる吸収分割が行われることが、当該提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項7号)

新設分割

提出会社の資産の額が、当該提出会社の最近事業年度の末日における純資産額の10%以上減少することが見込まれる新設分割又は提出会社の売上高が、当該提出会社の最近事業年度の売上高の3%以上減少することが見込まれる新設分割が行われることが、当該提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項7の2号)

吸収合併

提出会社の資産の額が、当該提出会社の最近事業年度の末日における純資産額の10%以上増加することが見込まれる吸収合併若しくは提出会社の売上高が、当該提出会社の最近事業年度の売上高の3%以上増加することが見込まれる吸収合併又は提出会社が消滅することとなる吸収合併が行われることが、当該提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項7の3号)

新設合併

新設合併が行われることが、提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項7の4号)

事業譲渡又は事業譲受け

提出会社の資産の額が、当該提出会社の最近事業年度の末日における純資産額の30%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる事業の譲渡若しくは譲受け又は提出会社の売上高が、当該提出会社の最近事業年度の売上高の10%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる事業の譲渡若しくは譲受けが行われることが、当該提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項8号)

連結子会社における株式交換

当該連結会社の資産の額が、当該連結会社の最近連結会計年度の末日における連結純資産額の30%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の株式交換又は当該連結会社の売上高が、当該連結会社の最近連結会計年度の売上高の10%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の株式交換が行われることが、提出会社又は当該連結子会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項14の2号)

連結子会社における株式移転

当該連結会社の資産の額が、当該連結会社の最近連結会計年度の末日における連結純資産額の30%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の株式移転又は当該連結会社の売上高が、当該連結会社の最近連結会計年度の売上高の10%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の株式移転が行われることが、提出会社又は当該連結子会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項14の3号)

連結会社における吸収分割

当該連結会社の資産の額が、当該連結会社の最近連結会計年度の末日における連結純資産額の30%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の吸収分割又は当該連結会社の売上高が、当該連結会社の最近連結会計年度の売上高の10%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の吸収分割が行われることが、提出会社又は当該連結子会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項15号)

連結会社における新設分割

当該連結会社の資産の額が、当該連結会社の最近連結会計年度の末日における連結純資産額の30%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の新設分割又は当該連結会社の売上高が、当該連結会社の最近連結会計年度の売上高の10%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の新設分割が行われることが、提出会社又は当該連結子会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項15の2号)

連結会社における吸収合併

当該連結会社の資産の額が、当該連結会社の最近連結会計年度の末日における連結純資産額の30%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の吸収合併又は当該連結会社の売上高が、当該連結会社の最近連結会計年度の売上高の10%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の吸収合併が行われることが、提出会社又は当該連結子会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項15の3号)

連結会社における新設合併

当該連結会社の資産の額が、当該連結会社の最近連結会計年度の末日における連結純資産額の30%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の新設合併又は当該連結会社の売上高が、当該連結会社の最近連結会計年度の売上高の10%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の新設合併が行われることが、提出会社又は当該連結子会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項15の4号)

連結会社における事業譲渡又は事業譲受け

当該連結会社の資産の額が、当該連結会社の最近連結会計年度の末日における連結純資産額の30%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の事業の譲渡若しくは譲受け又は当該連結会社の売上高が、当該連結会社の最近連結会計年度の売上高の10%以上減少し、若しくは増加することが見込まれる連結子会社の事業の譲渡若しくは譲受けが行われることが、提出会社又は当該連結子会社の業務執行を決定する機関により決定された場合(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項16号)

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